水原秀策 サウスポー・キラー

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あらすじ

オリオールズの左腕投手沢村は二年目とまだルーキーだが、一軍登録選手だ。一仕事終わった後に自宅のマンションに着いたときはデーゲームだったというのに午後九時を回っていた。タクシーから降りて向かう途中でベンチに腰掛けていた男が声をかけてきた。
向こうはこちらをまるで知っているかのように声をかけてくるから、知り合いか質してみたが違うらしい。男は自分の首を手刀でかるくとんとんと軽く叩いた後に唐突に沢村に殴りかかってきた。人を殴ったりすることについて慣れているようなのでプロのようだった。男は沢村が約束を破ったとなじっていたが、沢村自身何のことだかさっぱりだった。むしろ知らない男に突然殴りかかられるというシチュエーションにびっくりするので精一杯だった。男は今日はこれくらいで勘弁してやる、約束はちゃんと守れと言い残して去っていった。
翌日もそのことは頭に残っていたが、わざわざ警察に通報するのも実害はほとんど無かったと思っていたので、馬鹿馬鹿しく、放置していた。昨日急遽リリーフで登板したのだが、明後日も先発だ。日本の野球選手はほとんどウェイトトレーニングをしないが、沢村は違った。しかも方法論まで違った。リリーフの翌日だというのにきっちりウェイトトレーニングをする。超回復をねらっているのであろう。しかし、旧態依然としたコーチにはウェイトトレーニングを目の敵にしている人物もいる。ピッチングコーチの島谷もその一人だった。沢村は「かるーく、打たれてきますよ」と軽口を叩くが、深く考えて云った言葉ではなかった。
前日、先輩からパーティーに誘われていたので来たが、そこで再び昨日の男に殴られることとなる。
さらに翌日、球団に「Baseball Judge」を名乗る男から糾弾メールが届く。曰く沢村は八百長をしている、その証拠として昨日、一昨日の出来事を語っていた。こうして沢村にいわれのない八百長疑惑がかかることとなった。沢村はそれを晴らすことが出来るのか?

感想

第三回このミス大賞に深町秋夫作「果てしなき渇き」と同じく輝いた作品です。
実にどうでも佳いことですが、カタカナ遣いがちょっと一風変わってるなぁというのがファーストインプレッションでした。初っぱなに出てくる「ストレート」が「ストレイト」だったりしたのでそう思ったのでした。
本作は野球物のベタベタ二時間ドラマコースのミステリーって感じでしょうか。本格ファンには物足りない感じがするんじゃないでしょうかねぇ。ミステリーを殆ど知らない自分が半分読む前に事件の状況が見えちゃうぐらいですから・・・。伏線の引き方が下手というか露骨すぎるんですね、だから予定調和臭がきつくなる。それに対して、主人公はシニカルでクールを装ってますけど、熱血馬鹿ときてます。こういう外面と内実が狂ってるキャラは元々のハードボイルド*1系に多いですが、本書ではギャグをやってるようにしか見えないんですな。しかも滑ってるし。それにニヒルな口利きが確かに作品では浮いてますな。
ただ、文章そのものは普通。普通であるって事は読みやすく、癖がないと言うことで万人向けって感じですか。構想は野球と言うことを抜かしてしまえば、ハードボイルド探偵物によくありがちな構図です。野球というなんか異質な物が入っていると言うことがこの話で一番大事なこと何じゃないでしょうかね。この設定がなんとももっともらしく話を形作っているように思われます。
さて、主人公のモデルは誰でしょう?作中に登場するオリオールズは明らかに読売巨人軍ジャイアンツをモデルにしてます。かつて巨人で怪物と呼ばれた江川卓あたりをモデルにしてるんでしょうかね。個人的に頭に浮かんだのはクールでイチロー、頭脳派で小宮山、憎まれ口で新庄って所ですか。名前は戦前の名投手から採ってますな。なお、名物監督は長嶋茂雄をイメージしてるんでしょうな。でも、長島ってより、大沢親分が頭に浮かぶのは何でだろw。うーん今は佳いけど、10年後にこの本読む人には通じるのかちょっと不安。
巻末の参考図書をみると「上原の悔し涙に何を見た」があるのがちょっと意外。個人競技ではない団体競技ならではの苦悶をはらんでるんでしょうなぁ。(人ごと
ストーリーの内容がぺらぺらという点以外は大体普通。個人的に気になったのは、主人公の学習能力の無さでしょうか。襲撃受けまくってるのに護身用の道具一つ持たないなんて馬鹿も佳いところ。格闘技やってない人間がいくらアスリートだからって武器を使われたら終了かと。仕込みもしないなんてねぇ・・・。ここは瑕疵と言えば瑕疵かと。あとはまぁミステリ的巧妙さを身につければ化けるでしょう。深町さんはそろそろ次作がでるらしいけど、水原さんの次作はいつ頃だろ・・・。次作にも期待。
80点。
蛇足:
阪神鳥谷敬と同級生でした。
作中に出てくる島谷が鳥谷にみえてみえて・・・。
最近がんばってるなぁと生暖かく見守ってます。

参考リンク

サウスポー・キラー
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*1:和製の奴じゃない奴ね