宮部みゆき(編) 贈る物語Terror(テラー)
あらすじ
あくまでも短編の編書なので個別に。
いろんな本から採ってるので元になった本の題名は割愛。
なお著者・題名・訳者という形となっています。
短すぎる奴が多すぎなのであくまでこっちはリスト目的。
- W・W・ジェイコブズ 猿の手(平井呈一)
- H・R・ウェイクフィールド ゴーストハント(吉川昌一)
- デイヴィット・マレル オレンジは苦悩、ブルーは狂気(浅倉久志)
- フレデリック・マリヤット 人狼(宇野利泰)
- ピーター・フレミング 獲物(吉川昌一)
- 虎人のレイ
- リチャード・ミドルトン 羊飼いの息子(南條竹則)
- J・D・ベリスフォード のど切り農場(平井呈一)
- ジョー・R・ランズデール デトロイトにゆかりのない車(野村芳夫)
- ロバート・L・フィッシュ 橋は別にして(伊藤典夫)
- オーガスト・ダーレス 淋しい場所(永井淳)
- W・デ・ラ・メア なぞ(紀田順一郎)
- フィリップ・K・ディック 変種第二号(友枝康子)
- シャーリー・ジャクスン くじ(深町眞理子)
- ジョイス・キャロル・オーツ パラダイス・モーテルにて(小尾芙佐)
感想
これ知らない人はまずいないでしょう。知らない人はもぐりですな。そういえばジャンプで連載されていた「アウターゾーン」でこの話の亜流が出てましたな。あっちは干し首のバージョンだっけか。二次創作になるのが多くて、偶に都市伝説に混ぜられたりもしますね。流石に読むのは何度目か分かりませんが、古典として外せないでしょう。
なんかゴーストハントっていうと最近は小野不由美の書いてる奴なようですね。原本は随分前に出て以来もはや絶版になってるようなので若い読者には初出に近いんじゃないかな。私も初耳だったし。一応作者の名前は聞いた事はあるけど、多分一度も読んでないはず。
内容は実に古典的で、当時はよかったんだろうけど、現在では余りに陳腐な気がしてしょうが無い。捻りが欲しい人は読んじゃ駄目かな。
- オレンジは苦悩、ブルーは狂気
この本の中の中篇二編のうち一つ。
実は作者はあの映画「ランボー」の原作、「一人だけの軍隊」の著者。でも、ランボーっぽい物を期待するのはちょっと違う。男臭さの漂う作品だけど、実に善く出来た話だった。これは読んでも損はないと思う。現在進行形の恐怖が切々と綴られるのはひたひたと後ろから人がついて来る感じに似てイヤーなもんです。でもそれが善い。
なお、作中に出てくるファン・ドーレンなる画家は明らかにフィンセント・ファン・ゴッホをイメージしてかかれています。こんな絵を描く人間は・・・って事で書き始めたんだろうけど作品は上手く纏まってて佳作。
なんかどうしようもない話。どっかの国に伝わる神話でも読んでる気になるぐらい人間臭い割に、えらく理不尽。これ選ぶ感覚を疑う。そもそもこれは怖くないだろ・・・。
- 獲物
得意げに編者が「ファイナルストライク」だといっているのだが、題名が悪すぎ。不発も何も初めにネタばれさせて本読ませるなんて馬鹿なのかね?
- 虎人のレイ
なんかしらんが、ブレス・オブ・ファイアIIIの公式ガイドブックから持ってきたらしい。ラインナップをみつつ頭痛を覚えたよ。こんなの入れる必要は明らかに皆無だろうに。もう少しまとまりという物を考えてもらいたい。五線譜の楽譜の中に雅楽用教本が入ってるぐらいすわりが悪い。一体いくつぐらいの読者を相手にしてるつもりなんだろう。子供向け?
- 羊飼いの息子
微妙。激しく微妙。だから何?だれも笑わんし怖がらんと思うよ。これ明らかに失敗だと思うし。牧歌的なだけじゃないか。
- のど切り農場
これこそファイナルストライクの味のある作品かと。ただ、題名から速攻で筋が読めてしまうので楽しく読めるかは疑問。最後の一行だけかな、評価できるのは。
- デトロイトにゆかりのない車
死神話だけどどっちかってーとカロンの話っぽい。捻りはちょっとなぁ。語り口はいいんだけどね。
- 橋は別にして
ブラックジョークとしては最高。このあほらしさは読まんとわからんかもしれん。時代が変わっても受け入れられそうな話でもある。今回の収録に際しちょっと手を加えたのはご愛嬌。
- 淋しい場所
ダーレスといえば、ラヴクラフト神話ですな。
ちょっと変り種且つ時代的にどうなんだろうって違和感はあるものの概ね恐怖を描いた話としては「オレンジは苦悩、ブルーは狂気」並にまとも。というか、選んでいる短編に中途半端な話が多すぎ。
時代的にっていうのは、子供を夜中に買い物に一人で行かせるって、州によって下手したら刑事罰くらいそうな気がする。子守り役つけずに外出したら虐待になる国ですし。書かれたのが昔だからそこら辺は違うんでしょうな。
- なぞ
「ぼのぼの」のしまっちゃうオジサンの箪笥ですよ!
とか言ってみる。特にそれ以外何もなし。
- 変種第二号
この話はディックの話の中で1・2を争うぐらい好きな話です、ええ。こんな選書の中に入るのが不釣合いなぐらいですよ。ちなみに「オレンジは苦悩、ブルーは狂気」と同じく中篇です。
暗くて重くて絶望的で、人を信じるなという教訓をくれるこの話。救われない人は映画にもなってるのでそっちをみてくださいな。そっちはカナダで作られたらしいんですが絶望とは程遠い展開になっています*1。
最後のほうはそらぁもう嫌な想像で一杯になりながら読んでもらいたいもんです。SFだが恐怖を描かせたらこの人の右を行く人は殆ど無いくらいに悪夢的ですから。
- くじ
なんか思惑があって「変種第二号」と続けて収録したらしいですが、思いっきり思惑は外れてるかと。人身御供の話なんてもっと切迫感を感じさせるキャラクターの背景がなければ「へーそれで?」ですし。畏怖すべき作家かもしれんが、古臭すぎ。
- パラダイス・モーテルにて
ちょっとガチャ文。ダンサーが売春婦兼業で、客を騙してずらかろうとしたら見つかって殴られたから刺して殺しちゃったウフフ、ってな内容。私はやさしさがただ欲しかったのに的な内容には反吐が出る。
- 総評
編者が最悪。それに尽きると思う。面白い恐怖系の話はいくらでもあるのだし。単に「古典を集めてみましたてへへ」な内容はもっと煮詰まった感じの本にして貰いたい。
そもそも出版社の意向がよく分からん。なんだこの紙の無駄加減は!余白が白すぎるんだYO!!!
こんなんで短編ばっかり扱って、しかもはずればっかりとくりゃ、もっとましな中篇で紙面を埋めろってんだ。ディック傑作選でも読んだ方が万倍まし。なんぞクリスマス贈答用にミステリー編*2とワンダー*3編と共に出版されたらしいが、友野詳あたりにホラー編*4を担当させた方がまだましだったんじゃないか?菊地秀行とかまだしも鈴木とかホラー作家は一体何をしているんだか。40点。
蛇足:
Amazonには相変わらず賛美の連中しか居らんのね。これだけ壁本の要素備えてるのにべた褒めとは・・・呆れ果てるよ。
参考リンク
贈る物語 TERRORposted with amazlet at 05.06.27