乙一 石ノ目 平面いぬ。

あらすじ

  • 石ノ目

和風メデューサ

  • はじめ

幻覚の生み出した夢

  • BLUE

人魚姫的無私

  • 平面いぬ。

刺青がうごきます

感想

珍しい事にノベル版と文庫版の題名が違うという事なので、一応両方表記しておきました。文庫版の時に「平面いぬ。」に題を変えたのは恐らく販売目的のようですね。「石ノ目」、「はじめ」、「BLUE」はあらかじめ他で一度日の目を浴びているようですし、書き下ろされた新作を題に持ってきた方が売り上げに影響しやすいでしょうね。今回はノベル版単行本を読みました。
で、乙一の本6冊目です。相変わらず長編を書く事をしない筆者ですが、長編には何か差し障りでもあるんでしょうかね。
残すは「天帝妖狐」ぐらいかな等と思って調べてみたところ、まだ「ZOO」や「暗いところで待ち合わせ」があるようですな。他にも「小生物語」、「くつしたをかくせ!」がありますが、それぞれエッセイと絵本な為ちょっとあれですが。
最近はアンソロジーなんかで書いたりするぐらいで最新刊はここ半年以上ないもようですが、寡作でも良作が多いので問題ないんじゃないかな。
再三書いているので鬱陶しいかもしれませんが、乙一はドンデン返しが技巧的に上手い作家です。ミステリー的ファイナルストライクが身に備わってるんですな。なので読んでいて実にワクワク出来ます。凡庸な幻想小説とそこのあたりで差別化が図られていると云っていいでしょう。人によっては鼻につく人も居るかもしれませんが、筋を予想しながら読むタイプの読書家にはたまらないものがあるのです。
さて、本題に入りますか。本書は恐らく元ネタはありの小説と思われます。具体的に言うと角川スニーカー文庫から出ていた「シェアード・ワールド・ノベルズ 妖魔夜行」シリーズから持ってこられたのだろうと考えました。知らない人の為に書きますと、GURPS*1というTRPG*2のシステムがありまして、それをグループSNEという集団が日本独自のローカルルールを持った追加システムを考案して、ゲームの追加ルールとしてだけでは売れないから小説化したのが「妖魔夜行」シリーズというわけなのです。えらい回りくどい話ですが、「妖魔夜行」のゲームの方はプレイヤーが妖怪のキャラクターになって現代の社会を冒険する為のシステムとなっています。その為、どうやって妖怪になるのか、とか、妖怪はどんな能力を持っているのか等のキャラクター肉付けがしやすくなっているのです。このゲームの中では一般に思い入れが強いと妖怪が発生するというように理屈付けています。その世界観を持った小説版なりルールブックなりを恐らく筆者は目にする機会があったのでしょう。ま、大学時代にSF研究会に所属していたようですから、間違いなくTRPGという言葉を知っていただろうし、角川スニーカーの妖魔夜行シリーズにも読んでるんでしょうな。SF研究会は重複してファンタジー研究会みたいな所と内容被るところがしばしばですし、そもそもヲタクの巣ですからw
ただ、元ネタをレンジでチンするが如く踏襲するのではなく、自分で味付けしなおして全く跡形もなくなっているのは流石です。こういう書き味の方が別個のものみたいでそれこそ面白そうなので、グループSNEの人達は妖魔夜行シリーズを再開する機会があるのなら是非とも原稿依頼をして貰いたいところです。
さて、本書を既に読んだ人の中には『妖怪なんて「石ノ目」にしか出てないじゃないか!』といわれそうですが、単にそこをはぐらかしているのだと思うのですよ。妖怪が語りの中で「自分が妖怪である」などというのは、英語を習うときに一番初めに「This is a pen.」なんて1年のうちに1度でも使いそうにない言葉を習うのに似てじつに虚しい所業です。その上で普通の人間に物語らせるようにしているのです。例外もありますがね。BLUEは唯一語り部が妖怪です。
まぁ、それぞれの感想を行きますか。

  • 石ノ目

「石の目」又は「石の女」と呼ばれる妖怪が出てきます。ええ、出てきますったら出てきます。視線を合わすと石に変えるってまんまメデューサですわ。バジリスクやらコカトリスやら、ゴルゴンでも可。日本では類似の石化云々って言うのは知りませんなぁ。赤子云々という言葉を聞くと子泣き爺とか抱くと重くなる赤子やら姑獲鳥を思い出しますな。
上手いんだけれどもちょっと一味足りない感じ。何を足せば善くなるのかは不明。

  • はじめ

これはある種幽霊話に近いですな。でも幽霊話にないしんみりとした読後感はダウナーでいいですよ。珍しくドンデンなし。でもドンデンがあるような気持ちになれる。

  • BLUE

ここ最近で一番のダウナー話です。好きだけどすぐに嫌いという相反する気持ちが揺れ動いてしまいます。子供に読んで聞かせたら泣いちゃいそうですな、理由は兎も角。人によっては絶対に受け付けない人も居そうな内容です。後味悪いけど最高。鬱割合の高い人ほどお勧め。

  • 平面いぬ。

ファイナルストライクのみって感じの話ですか。初っ端から随分ぶっ飛んでる話なんだけど、中だるみ感がある。最後の部分だけを書きたいがために書いたような気がする。全体として躁ぎみ。あんまり出来が善くないような気がする。

総じて87点ってところだろうかね。かなり面白い本であるのは確か。短編の場合はあんまり内容語りすぎると完全にネタばれするからさじ加減が難しいやね。

今日の引用*3

小学生の私はすみっ子だった。すみっ子というのは、すみっこが好きな子供の事だ。

乙一 「石ノ目」内『はじめ』より

参考リンク

石ノ目
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ネタばれ

備忘録代わりに書くので、読みたくない人は注意















































  • 石ノ目

石ノ女と韻踏んでる。山の上で出会ったのは石ノ女に成り代わった名を名乗らない主人公の母親。石ノ目を撮った写真を使って人を石に変えていた。偶々来た自分の息子との再会で息子を手放したくなくなってしまう。息子側はそんな事は知らずに石ノ目を殺す計画を立てる。
ま、日本で石に変えるって話はあんまりポピュラーじゃないわな。それにイビル・アイなんてまんまゴルゴンだし。

  • はじめ

空想の人物が実体を持ち始める。ただ、妄想を共有している人間にしか見えない。悪い噂が元になった「はじめ」が何故消え去ろうとしなかったのか?それは耕平に恋をしていたからだった。
実体と幻想の恋とはまたロマンチックじゃありませんか。でも読み終わってから思ったんだけど、これって電影少女ちっくですな。

  • BLUE

魔法の生地で作られた人形達。その中のあまり物で出来たBLUE。貧乏籤を引き続けたBLUEの悲しくも美しいお話です。これに打算さが加わっちゃうと終了だろうけど、ここまでの無垢っぽさが備わってるとかなりいいですな。
にしても人形達を作った人形作家のピストル自殺の経緯は伏線っぽいんだけどなんにも描かれないのね。ちと残念。

  • 平面いぬ。

うーん、ちょっとギャグっぽいよね。自分以外の家族がガンで余命半年。自分だけ生き残る。且つ、動く不思議タトゥーのお話。タトゥーを掘るのはBLUEに出てきた魔法骨董ショップの娘の成長した姿らしい。奇跡は起こらず独りぼっちになる。最後の部分を引用

追伸 今、わたしの左腕は大変なことになっています。最近、生まれた子犬たちがうるさいのなんのって・・・・・・。

乙一「石ノ目」内『平面いぬ。』より

平面いぬに関してはこの部分が一番すきかな。でも、この本で秀逸なのはBLUEだと思う。鬱るけどね。

*1:Generic Universal Role Playing Systemの略称。詳しくはこちら参照 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AC%E3%83%BC%E3%83%97%E3%82%B9

*2:RPGゲームの大本です。大抵GMと呼ばれるゲームをコントロールする人物が居て、その他にプレイヤーとなる人物が複数人でゲームを進行します。詳しくはこちらを参照の事 http://ja.wikipedia.org/wiki/TRPG

*3:なんでこんなの引用するかというと、「魍魎の匣」を思い出してしまったから。「みっしりと埋まった匣の中でほぅ、と声がする」ってな状況が脳裏に浮かんでしまいました。ま、出来心ですw