小野不由美 東の海神 西の滄海 十二国記

あらすじ

常世の国と蓬莱の国。二つの世界で戦乱は起こっていた。常世とは倭の国から見た十二国の世界、蓬莱とは十二国の世界からみた倭の事だ。
戦が続くという事は国が荒廃すると言う事だ。土地は荒れ果て、明日を生きるのもやっとという有様がそこかしこに散らばっている。そんな時一番に犠牲になるのは弱者だ。それは老いて足が萎え力の衰えた者や満足に働けない者、子供である。国や世界が違うとてやる事に差異は大してない。口減らしは戦乱時、貧困時の常套手段なのだから。
一人は山の中に置き去りにされ、もう一人は林の中で置き去りにされた。違いは住んでいる世界が違うという点のみだ。
そんな二人は偶然にも生き延び、常世の世界で邂逅する事となる。
一人は麒麟。王を求めつづける。名を六太、又は延麒。
一人は人間。人に捨てられ妖魔に育てられた存在。名は忘れた。
六太は天空で妖魔に騎乗する人間に出会い、話をし、彼に名をやった。更夜という名を。

感想

十二国記三冊目、今回は雁(えん)の国の延王と延麒、そして更夜のお話です。二冊目から更に480年近く前の話になります。
そう、本来十二国記のメイン主人公たる中島陽子はまたしても出てこないのですよ。ここら辺が小説の難しいところですな。シリーズ物を書く場合あれもこれもと入れようとするとまとまりが悪くなるから、ある程度絞った形にする必要があります。その中のチョイスから適当な形に纏めるわけですが、一冊目は起、二冊目が承だとするなら本著は転になるのかも知れないけど、実際には承です。あくまでも一冊目に出てきたキャラクターの掘り下げに拘ってる気がしますね。十二国それぞれはそれほど特別行き来が無いという事を考えると割り切って書く必要があったんじゃないかと邪推しますが、結局のところこういう書き方をする場合は大抵著者の気まぐれだったんじゃないかなと思います。あんまり計画的な気がしませんし。
くどくなくさっぱり系ですが、やはり景王主体の小説が読みたくなるのが人情というものです。なので、正直予備情報としての世界背景を別紙で読むなりした後四冊目にあたる「風の万里 黎明の空」読んでも全然善いと思う。このシリーズに限っては順番はあんまり関係ないと思うし。ただ、専門用語がモリモリ出てくるので順番ごとに読まないとそこら辺は凄く気になるかもしれないけど、アニメが放送された後、むやみにファンサイトがたくさん出来たのでFAQとか用語辞典とか探せばいくらでも出てくるかと。なので、正直飛ばしても全然構いません。本編とは関係ないところ話が外伝で二冊も続くなんてアホらしい限りです。「本編を書け本編を!」と云っても現在小野不由美十二国記を進める気が無いようなので何を言ってもどうにもなりませんな。
それなりに面白いものの、絶望とは程遠い。ヌルイ限りです。遠い約束を叶えんが為、と青臭い友情を描いていますが、好きな人は好きなんだろうけど出来は中途半端。美形の延王が出てくる話だからOKって人が沢山居るんだろうな。
つか、そもそも延麒は同じような境遇の更夜を哀れむってのは分からなくはないけど、そこに友情がっていうのは女性の腐女子的願望が含まれてる気がする。仁の動物である麒麟がすべてを哀れむって言うのはまだしもそこに無私が入ってくるのはどうかと。ま、延王の決意は立派だけど、だからどうしたって話ですな。会話の掛け合いはそこそこ上手いものの、他に見所はない予感。カタルシスが中途半端なのがすべてを物語ってますな。あとストーリーが随分とご都合主義なのが鼻につきました。一応人間なんだから駄目な部分も書きましょうよ。完璧超人は理想の中だけにしてください。
50点。

日常あんまり使わない言葉について

海神(わだつみ):海の事、又は海の神の事。綿津見とも書く。
滄海(そうかい):青い海や海原の事。蒼海とも書く。
軽佻浮薄(けいちょうふはく):かるはずみでうわついている様。

参考リンク

東の海神 西の滄海―十二国記
小野 不由美
講談社 (2000/07)ISBN:4062648342
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