小野不由美 風の海 迷宮の岸

あらすじ

この世界には十二の国があり、それぞれの国に一人の王と、一人の麒麟*1が存在するよう運命付けられている。王は麒麟に任命される事で神籍に入り人を辞めて寿命に限りがなくなり、無意識に仙術が掛かっているかのような状態になる。ただ、いかな神であろうと天命に逆らう事は出来ない。人道に悖る行為を行いつづけているとその報いは王に返る。麒麟は仁に生きる生き物ゆえ、過酷な行いを続ける王に仕えつづけているといずれ病に掛かる。そうならぬよう常に諫言をするのが麒麟の勤めだが、そのすべてを王が聞くとは限らない。世の中には犠牲を強いてもやり遂げなくてはならない事もある。王の勤めは民を民の為に統べる事だが、必ずしも精錬潔白で居られるわけではない。だが、努力はするべきなのだ。天命、天意とは即ち自国民の民意でもあり、その民意の代表である天意の化身麒麟に推される形で王に就いた者はそれに沿うような施政を敷くべきなのだ。
さて、麒麟が死ぬとどうなるか。一見実害はなさそうだが、その時は王も共に死ぬ。麒麟が掛かる病は王に対する一種の最終警告である。その病を失道というが、王に対して「天命が尽きかけている、再び施政を見直せ」という警告を発し、立ち返らせようとするのだ。失道は王の性格が歪んでいるという事によるもの、政治の運営方法がまずいもの、他国に侵略しようとしている等で起こる。ただ失道に罹るとほとんどの麒麟には生の望みは亡くなる。王は寿命が無いため長命だがその分澱も溜まっていき、澱により生じた歪みは生半可な事では元には戻せない。挙句ほとんどの罪なき麒麟は王の道連れとなって死ぬ。
王が死に、麒麟が死ぬと一体どうなるのか。国は崩壊を始めるのである。国土は荒れ、人心は乱れ、妖怪の類が徘徊する事となる。これもすべて王が居ないせいなのだ。王が存在すると言う事が民と国にとって福音であり、天意なのだから。故に民は王を望む。

「戴」という国がある。十二ある国の中でもっとも北東に位置する国だ。戴では王と麒麟が居なくなった。故に新たなる麒麟十二国の中央に位置する「黄海」という場所で育まれていた。黄海は海ではなく陸地である。神仙の住まう地であり、妖魔も跋扈する危険な土地だが、その中央に五山と呼ばれる五つの長大な霊峰がそびえ立っており、その中の一つ蓬山という場所で戴の国の麒麟、泰麒は女怪にもがれ*2、育てられるはずだった。だが、予想もしない触*3が蓬山の里木を襲い、もがれるには早い胎果*4を別の世界へと攫っていってしまった。女怪は麒麟の為だけに生まれてくるため、その落胆は酷く泰麒の失踪から十年という長い月日の後もただひたすらに泰麒を求めつづけた。
勿論誰もが手をこまねいていたわけではない。蓬山に住まう女仙も八方手を尽くし、忙しい他国の麒麟に向こう側の世界をわざわざ見に行って貰ったりもしたが、消え去った泰麒の行方はようとして知れなかった。それでも諦めず探しつづけた結果、十年経ってやっと廉台輔*5が探し出してくれた泰麒は麒麟としての能力に欠けた単なる十歳の子供に過ぎなかった。
果たして泰麒は麒麟としての能力に目覚め、王を探し出す事が出来るのだろうか?

感想

あーあらすじ書くの疲れた。って好きで書いてるんだからそんな事言うのはお門違いなのは分かってるんだけど、専門用語が多いからついつい説明したくなっちゃうんですよね。ま、あらすじの上半分は本の中の舞台設定なので、読み飛ばし可。
さて、今度の主人公はいたいけな少年泰麒。幼いながらの葛藤を見せてくれます。ただ、如何せん前回と同じく筋を覚えてるのが痛い。山谷が機能しないと読み物としては致命的ですね。
前回の話の6〜10年程前の話と相成ります。きちんと巻末の史記設定を読んでないのでいい加減です(ぇ
前回の主人公は王でした。今回はこの世界の成り立ちや仕組みを肉付けする話としての役割が大きく、また前回ほとんど原稿に書き記せなかった麒麟という生き物をクローズアップする為に書かれた本と云っていいでしょう。
しかしまぁ、海客を書くのが好きですなぁ。世界観具体化するために不自然ともいえる海客をわざわざまた書くのはちょっと違うような気がしますね。もっと先までお楽しみにとっておいてもよかったような。そもそも前巻ではちょろっと名前が出てきてるだけですし。ただまぁ、動かしやすいキャラであるのは確かですが、時系列が前後するのはあんまりよくないと思います。
あとまぁ、10歳という年齢の子供にどこまでの罪悪感と責任感があるのか、という点にはクライマックスにかけてちょっと違和感を憶えましたね。一般の子供で云えば第二次成長反抗期に差し掛かってる頃ですし、そうそう唯々諾々と動きつつ苦心を耐え切れるものだろうか?と。
ま、カタルシスは十全なので堅苦しく考えなければ問題はないでしょう。
美男美女しか出てこない不健全な話ではありますがねw
60点

参考リンク

風の海 迷宮の岸―十二国記
小野 不由美
講談社 (2000/04)ISBN:4062648334
売り上げランキング: 26,535

風の海 迷宮の岸〈上〉 十二国記 講談社X文庫―ホワイトハート
小野 不由美 山田 章博
講談社 (1993/03)ISBN:4062551144
売り上げランキング: 15,339

*1:神獣とも言われる。人型をとる事も可能で、普段は人の形をしている。この姿形が変わる事柄を「転変」という。勿論麒麟と言ってもジラフの方じゃなくビールのラベルの方の奴です。基本的には寿命はないです。主である王の命には絶対服従。殺生や血のにおいが苦手というか度が過ぎると病気になる。身を守るために妖魔の類を使役している

*2:この世界では生き物は特別な樹「里木」に生る。だから「もがれる」で正しかったりする

*3:この世界で起こる天変地異の一種。他の世界との行き来でも起こる

*4:子供の実の事

*5:漣極国の麒麟。女性なので廉麟と呼ばれる