小野不由美 月の影 影の海〈上・下〉十二国記

あらすじ

中嶋陽子は平凡極まりない女子高生だった。平凡とはいえ、大概の人物は何かを抱えて生きている。陽子の場合は波風を立てないように生きるというのがまるで当然であるように振舞い、まわりにぎくしゃくと合わせるのが日常の所作だった。別段目立ってはいけないという戒めを持って生きているのでもないのだが、それが自然であって彼女はどうしようとも思わなかったのだ。
彼女の最近の悩みは髪の毛の色がどんどん赤茶けていく事。染めているわけではないのだが、簡単に色が抜けてしまうので困っていた。変な誤解をされる事を恐れて母が髪を短くしろといい、諾々とそれを受け入れた。
また、誰にも言えてないのだがこのところ一月ばかり毎夜奇妙な夢を見る。異形の化け物じみた獣たちが彼女を襲うのだ。逃げ惑う彼女に対して爪を立て牙をつきたて絶命する夢を毎夜見るのははなはだ不快で、どうしても睡眠不足になってしまう。
この時悲鳴をあげて立ち上がったのはベッドの中ではなく教室の椅子からだった。授業後呼び出された彼女は言い訳をしつつ、髪や生活態度に関する説教をされた。
「失礼します」
と、職員室を後にしようとした時一声掛かった。
「・・・・・・見つけた」
それは見知らぬ若い男の声だった。

感想

分類は典型的異世界ファンタジーですな。著者曰く「ファンタジー書いてくださいと言われたらこうなった」らしいですが、西欧風ではなく中華風になったのは著者らしいという感じですな。
実は読むのは三度目だったりする。読みたいという人が居たので書庫から出してきてどうせだからと久々に読んだのですよ。久々に読むとちょっと物足りないぐらいの長さに思えるから不思議ですな。昔読んだ時はかなり長く感じたものでした。初めて読んだのは確か同級生の女子に薦められて借りて読んだんだったかと。その時は上巻のぐったりするような鬱描写にげっそりしながら読んだ憶えがあります。二度目は新しい巻が出たのであらすじを思い出すために読んだような・・・。
久々に読むとああ、ラノベだったんだなぁと感じるところがありました。小野不由美はもうそりゃあ無駄描写の鬼なので、あまりにも通常感じる無駄描写が欠けている点が多いところに違和感を憶えました。題材によるんでしょうな。でも、すっきりとしてこれはこれで善いのだと思えます。
この巻では享楽的な部分は塵ほどありません。飯を食べる描写はほぼ0で生活感は全然無いです。行水する様はちょっとありましたが申し訳程度、楽しんでいるという事を毛筋も感じないように書かれています。ただひたすら苦悩する一人の少女を描く事だけに執心した結果でしょう。
初めて読む人は感情移入しやすいように出来ているこの本で上手い事引き込まれていく事でしょう。でも、あんまり底は深くないような気もします。十二国記としてそれぞれの国を回るまで一つの主人公に拘らず描かれる一連のシリーズは娯楽作ではあるものの、それほど見るべきところはない気がします。しかし、ラノベはこういうもんなので拘らずに、単純に楽しむのが善いとは思います。肩の荷が無駄に多い大作ばかり楽しむのではなく、時にはこういう作品で箸休めも必要です。
ちなみに底が浅い云々というのはアニメ版には当てはまりませんのでご注意ください。あれは原作を改変しているものですから、同列ではないかと。エピソードもかなり長くなっているようですし。

にしても、あらすじをある程度覚えているから驚きが少なくて駄目だわ。初めて読んだ時のセンス・オブ・ワンダーはどこかに行ってしまって久しい。ドキドキが消えてしまった本を読むのは作業に等しいなぁ。悲しいかなツマラナイ。でも、読んだ事無いなら読んでも損はしないと思う。
あーそうそう、ちょっと所々初期設定と書いている途中で生まれた設定がかちあちゃってる部分とか有って「?」な部分もあったり粗が目立つ。ここら辺はまだ固まってないのに書いちゃった感がするのでスルーで。
65点。

蛇足:酔いながら書いてたので見苦しいところや日本語おかしいところを加筆訂正。

参考リンク

月の影 影の海〈上〉十二国記
小野 不由美
講談社 (2000/01)ISBN:4062647737
売り上げランキング: 22,902

月の影 影の海〈下〉十二国記
小野 不由美
講談社 (2000/01)ISBN:4062647745
売り上げランキング: 24,558