桐野夏生 OUT
あらすじ
弁当工場勤務の香取雅子は日々に疲れていた。家庭にも職場にも安息の場はない。それでも破綻する事も無くきちんと日々を送っていた。
ある時、職場の同僚の山本弥生が夫を殺したと電話をしてくる。雅子は単純に死体隠蔽工作に加担する。
同じく同僚の吾妻ヨシエを誘い自宅の風呂場で死体をバラバラにするが、そんな時に同じく同僚の城之内邦子が借金のむしんに来る。弥生に遺体処理料を貰う事にして邦子も共犯に加える。完全犯罪のはずだった。だが、これは誤算だった。
それぞれ小分けしたゴミとして各地のゴミ集積場に捨てる算段の時に邦子は安易に公園に捨ててしまった。バラバラになった死体は簡単に見つかってしまい、警察が動き出す。
感想
漠とした不安や深く垂れ込める鬱感覚。よく慣れた感覚だけど、ちょっと時期が悪かった。軽い気晴らしの本が読みたかったけど、手にとったのはこの本。映画になっているので知りたく無くてもあらすじは耳に入っていた。到底気晴らし出切るような内容ではないと分かってはいたが、手にとってしまったので読む事に。
解放がこの作品のテーマだと思う。でも、「蘇る金狼」チックな終わり方するのには正直納得は行かない。意外性を取るならそっちじゃなくて日常に逃げた方がいいと思う。社会のアウトサイダーがアウトサイダーなりに適応しようと苦悩した方がきれいにまとまると思うんだがなぁ。
陰惨な家庭状況や金銭状況の描写なんかは確かに巧いし、発想が所々でステレオタイプとは違う方向に行ってるのは確かに賞賛に値する。リアリティという面では水準クリア出来てると思う。それに、メインキャラクターの女性達の書き分けというか肉付けも非常に巧い。女性ばかりがメインに据えられてるのだと恩田陸の「木曜組曲」を連想するが、恩田陸はキャラクターの肉付けが非常に下手だ*1。長々と内面描写はするが、キャラの区別が読者につかなきゃどんなに優れた作品であろうとその時点で終了な気がする。その点桐野夏生は一人一人きちんと造形しっかり造形しているためにごっちゃになる事はない。まぁ、普通どの作品読んでもごっちゃになるって事は少ないとは思うけどね。ごっちゃになるように一気に数出して適当に放置とかするのは正直ありえないが。
大枠で行って主人公が女性のハードボイルドと行った形で考えて、甘さが随所に見えるのが気にいらない原因なのかな。死と隣り合わせの状況になっているにもかかわらず情が切れないあたりに不満が残ってクダまいてる状態と言っていいと思う。解放がテーマらしいのに実際の行動は逃走だし、甘すぎる。砂糖まみれのかりんとう並に甘い。人によってはジャストミートかもしれないが、カタルシスも微妙だし、結末も微妙。爽快感はないわな。鬱方向にしても主人公は身に危険を感じる程度だし、自分で自分の家族との縁を切る方向に持っていってるあたりには期待を持たせるものの、うだうだ先延ばしにしすぎな気がする。倒叙形だがミステリーよりはサスペンスかな。
女性ならでは論理とかは男のわたしにゃわかりかねます。文章的な技巧の点では優れていますので、内容世界に問題が無い人は読むべきです。ただ、私は誰かに薦めたい本ではないという点は強調しておきます。なにしろ読後の感想の第一号が「次!」でしたし。早く忘れたい感じですな。読み返せといわれても拒否したいですわ。個人的には40点。鬱本読みたいときならもっと点数高かったかもしれないけど、結局結末に納得いかない*2。一応他の本も読まないとなぁ・・・。一冊だけですべてが語れるなんざ神でもないと無理だし。あんま気が進まないけど。
蛇足:
映画の方は全く憶えてなかったんだけど、ドラマの方があったんだっけか。地元の羽村が舞台で色々と撮影されてたのを忘れてましたわ。
かんもく-しょう ―しやう 0 【▼緘黙症】
三省堂 大字林第二版より
参考リンク
OUT 上 講談社文庫 き 32-3posted with amazlet at 05.06.10
OUT 下 講談社文庫 き 32-4posted with amazlet at 05.06.10
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン (2004/01/23)ASIN:B00012T3QY
売り上げランキング: 14,798
このページは在庫状況に応じて更新されますので、購入をお考えの方は定期的にご覧ください。
OUT〜妻たちの犯罪〜 4巻セットposted with amazlet at 05.06.13