乙一 失はれる物語
あらすじ
- Calling You
携帯電話をモデルにした物語
- 失われはれる物語
事故そして
- 傷
ある能力者とその友達の話
苦悩から泥棒へ
- しあわせは子猫のかたち
語りたくない
- マリアの指
苦悩のハテに待つもの
感想
ヤバイ。乙一ヤバイ。まじでヤバイよ、マジヤバイ。
乙一ヤバイ。
まず凄い。もう凄いなんてもんじゃない。超凄い。
凄いとかっても
「切なさ20個ぶんくらい?」
とか、もう、そういうレベルじゃない。
等と宇宙ヤバイの改変コピペ作ろうとして挫折したわけですが(ぇ
まじめに行きます。この本で乙一はライトノベルを読まない読者に敗北宣言してるわけですが、彼なりのジョークなのか皮肉なのかどちらかわかりませんが、逆に敗北宣言は勝利宣言になりえます。何故なら出来がものすごいからです。
この本は乙一で言うなら明らかに白乙一ということになるであろう分類でしょう。疲れている現代人の孤独を癒す一服の清涼剤として非常に効能が在る内容です。短編を集めている形なので、好きな話から読んでいっていいと思います。最初から読んでいっても善いし、真中から読んでいっても問題はないと思います。というか、四の五の言わずに読めって感じですが。
プリズンホテル春以来久方ぶりにセンスオブワンダーに触れられた事をここに歓びます。産んでくれてありがとう*1、と。
でもまぁ、瑕疵が無いとはいいません。「マリアの指」という書き下ろしの新作はここに入れる必要はなかったんじゃないかと思います。一つだけ叙述ミステリーが強調されすぎて調和を乱してるように感じるからです。それでもこの本の優位は揺るが無いでしょう。
この本で受け取った感動の種類は激動系ではなく、ふんわりとした幸福感でした。慈悲心に富んだ仏心の境地みたいな感じですかね。それぞれ思い入れも有りますが、「しあわせは子猫のかたち」を推しておきます。「夏と花火と私の死体」であった奇妙さが、いい形で結実していると感じられるからです。
正直芥川賞っていうのが脳裏をよぎりました。でも、芥川賞は単に珍奇であるという点のみで評価して、作品としての素晴らしさを評価しないため正直お題目以外の何物でもない気がします。文壇貢献度指数賞的で直木賞と日本推理作家協会賞とあくまで同列でしょうな。でも、短編の最高峰の賞としては正直これに賞やらないで何に賞をやるんだろうとマジで思いますよ。ライトノベルを児戯と思っている作家さんにはライトノベルはどう頑張っても書けないでしょうから、相手の土俵にたちもしないでアレコレ言うのはお門違いにも程があるとも思います。そもそも分野と読者層が違いますからね。*2
5ページごとに読者の笑いを取れますか?また、飽き性の読者を掴んでいられますか?キャラクターを奇抜にそれぞれ立たせる事が出来ますか?ファンタジーもSFも歴史、オカルト、ホラー、ミステリーすら貪欲にジャンル統合をやってのけれますか?
まるで今のライトノベルの扱いは1920年代のSF並ですな。「低俗・つまらない・くだらない」とレッテルを貼られたままです。漫画すら読めない人ならばそれも納得ですが、一体何に特別な感慨を持つのか聞きたいもんです。下らないとか低俗だとか言うのは大概ある側面だけを見た狭量な台詞と言えます。そらファンタジーは脳内お花畑だし、SFも似非科学の園です。歴史改変物は妄想だし、オカルトなんざぁ狂気でしょう。ホラーは趣味が悪いし、ミステリーは読み捨ての話をなんで活字にするの?ですよ。ハードボイルドは幼稚だし、ノワールに関してはオチ読めてるのに何で読むの?でしょう。ほら、レッテルを貼るのなんて簡単なんですよ。まずはレッテルを剥がして、実際に読む事から始めましょうや。そこでこの本ですよ。精神安定薬としてどうですか?
買って損する本ばかりな昨今に満足の行く本をゲットできた僥倖を角川書店に捧げます。95点。
蛇足:「Calling you」と「しあわせは子猫のかたち」と「暗いところで待ち合わせ」は三部作らしい。「暗いところで待ち合わせ」を次に読む事にしようと思いました。ただ、なんで三部作なのかは謎(ぇ
ここまで褒めに徹したのは前回読んだ桐野夏生の「OUT」の明らかな反動ですな。
あーあと、再録の状況を記述しておきます。
「きみにしか聞こえない」角川スニーカー文庫
- CallingYou
- 傷(傷―KIZ/KIDS―を改題)
「寂しさの周波数」
- 失はれる物語(失はれた物語を改題)
- 手を握る泥棒の物語
「失踪HOLIDAY」
- しあわせは子猫のかたち
参考リンク
スニーカーCDコレクション きみにしか聞こえない CALLING YOUposted with amazlet at 05.06.10