古川日出男 サウンドトラック

あらすじ

物語は二人の子供が無人島にたどり着く事から始まる。
一人は六歳の少年。父親が離婚後、子供の自立心を育てるためにサバイバル訓練を行うために無人島に向かうその途上での事故で父親は死亡。彼は父親に叩き込まれていた生きるための術を用いて生き延びる。
もう一人は四歳半の少女。母親が人生に絶望し、入水自殺を我が子道連れに波高い洋上のフェリーの縁から行ったが、運良く彼女は生き残る。
二人は運命的に出会い、無人島で暮らす事になる。「トウタ」と「ヒツジコ」として。
漂着から二年強が過ぎ去った後、二人は無人島で野生化したヤギを駆除しに来る東京都の職員に発見される。二人は保護される事となり、篤志家の夫妻に預けられる事となる。戸籍は有ったのだろうが、二年という月日で殆どの事を忘れてしまった二人は新たなる戸籍と苗字を与えられ、「西舘トウタ」と「西舘ヒツジコ」となる。
二人は小笠原の父島で人並みの生活をはじめ、学校に通い始める。
やがて年月は立ち、ヒツジコは担任だった佐戸川俊一の離任に合わせ、俊一の妻うづめがヒツジコを気にいっていたという事も在り、養子として引き取られる事となる。
自然に惹かれ、人嫌いの上にトラブルメーカーのトウタと違い、ヒツジコは舞踊やダンスに興味を持っていたというのも大きかったのだろう。また、うづめが産まず女で子供が欲しかったというのも理由の一つに上げられる。
兎に角、二人は離れ離れとなる。

その後トウタは中学卒業後ブラブラと日雇い家業を島内でやっていたが、追い出されるように東京へ行く。
ヒツジコはダンスを、人を狂わすダンスを極めんとする。

そこに新たにレニという子供が加わる。レニは自らの性別をしぐさや声、話し方で変え、演技して使い分ける。就学年齢だが、サボっている。正規の在留資格をもつ半移民の呈のアラブ系日本人とでも言ったらいいだろうか。レニは日本で生まれているので祖国は知らない。
そんなレニは烏のクロイと出会う事となる。

3つの内容が絡み合うストーリー

感想

えーっとはっきり言って無理が在りすぎです。というか、なんでこんな形に変形させたのか意味がわかりません。この本は

  • 東京の遥か南、東京
  • 神々が笑いながら坂を昇り、降り、人差し指で巨樹を殺して(しかし彼らには四本の指しかない)、洞に消えた。そこに東京の臍が
  • 多年草の西

という小説すばるに掲載された三つの中篇を無理やり統合*1させて前半を構成。後半は書き下ろしということらしいが、恐らくP.429〜が後半という事らしい。しかし、P.453で終了なので書き下ろし部はわずか20ページ強といえるだろう。にしても無理やり統合された三つの話はそれぞれが独立性が高く、まさに不協和音としか言い様が無い。ハーモニー足りえない。
本書の題名の「サウンドトラック」という言葉には恐らくCDのトラック毎の独自性を持ちつつ、全体で見ると統一感がある的な感覚が含まれると思うが、それとは別に「サウンドトラックは要らない」といったもう一つの内容を含んでいるが、「サウンドトラックは要らない」という意味の方が強いんじゃないだろうか?
著者の他の本に「沈黙」という本があるが、「沈黙」は音楽に特化した話だった。どうやら著者は音楽に一家言あるタイプらしい。
本作ではキャラクターには目に見えるものだけが素晴らしいという謎な心情でもって音楽やら声やらは不必要なものらしい。恐らくはその関係だろうか、キャラクター同士の言葉のキャッチボール等よりも微細な描写に凝っている。というか、凝るというよりは明らかに寄り道としか思えない部分が少なくない。喋ってて何か単語が出るたびに懇切丁寧に、こちらが嫌がってるのにひたすらトリビアをマシンガンのように並べ立てられて鬱陶しいと思わない人は居るまい。一度や二度なら善いだろうが、ことあるごとにだ。
更にこの本が不細工な統合を経ている事で、序盤と終盤では全くと言ってほど小説の内容が変わる。前半シリアス、後半全くのギャグ。どういうことやねん!不整合にも程があるわ(呆
三人のキャラもそれぞれ枝分かれしちゃうわけだし、結びは不自然の極み。こんな事なら三つをそれぞれ元のままの方がまだ見られたと思う。まるで村上春樹を真似しようとして失敗したみたい。
まぁ、内容はそこそこの出来だったはずが、どんどんギャグ化させていくにつれて不快指数が上がっていくのはなんででしょうねぇ。

以下ボックス部は完全な個人的な愚痴的な内容なので不愉快と思われたら読まない方が吉。

ギャグ的内容

  • 血の純潔運動
  • 虚弱体質の右翼
  • 外国人への無差別傷害
  • 文明放棄
  • 外国人廃絶運動
  • 山窩
  • 野犬の薬殺
  • 無国籍者の積極的受け入れ姿勢?

などなど。
なんか無差別に左翼的言動が埋め込まれてて否になっちゃいますよ。これをギャグとかと考えないとやってられないぐらいに。なんか断罪の響きすら帯びていますし。
分かりやすい革命失敗>自然回帰な感じがいやらしいですな。文明放棄とか外国人に対して日本人は冷たいとか、どういう考えで書いてるのか知りませんけど、日本はきちんとした外国の人間には非常に過ごしやすい国ですよ。なんでそんなに自信喪失させたいのか意味不明ですが、日本が厳しいのはあくまで、オーバーステイしてる人間とか、薬物を売りさばいてる人間、それに犯罪行為に関わってる人間に対してです。日本人のアジアに対する原罪論は原因の無いものが多いです。今更半世紀前の事を出してくるのは理に合いません。我々現在の被害者側が何故故に罪の意識を覚えなければいけないのか理解に苦しみます。強盗やスリ、窃盗がありえない数字で増えているというのにそれは日本人だけが起しているとは到底思えません。実数として支那・朝鮮系の犯罪の多い事を鑑みれば、次善の策でしょう。最善ではないものの、当事者としてこの国で寝起きしている国民を守るのが第一の官警の努めですしね。例えばじゃぱゆきさんとかが問題視された時期も在りましたが、あれだって向こうの国が進めてたりするわけですよ。知ってますか、フィリピンは出稼ぎ国家です。しかも性関係の出稼ぎで相当量の外貨を獲得してたりします。で、日本との外交問題でもっとフィリピンの人間を水商売で働かせろと迫ったぐらいですよ。そりゃ、日本のヤクザが絡んで、人身売買に近い事もありますが、全部が全部そうとは限らないという事です*2。新宿・大久保あたり歩くと分かりますが、雑多な水商売系の人間がそこら中に立ってます。国籍不明な系統で人種を問わず色々居ます。でも、外国人たってそういう風俗産業で働いているたぐいの人ばかりじゃないのですよ。ただ、日本の場合日本語が喋れるか否かという面はあるとは思います。しかし、筆者はそこら辺も用意周到に潰して回ってますな。作中実例として日本語が喋れる外国人医師を登場させてますが、日本人は権威主義で、欧米人しか受け入れないと。そんなに自虐的にならなくてもいいと思うんですが。よっぽど筆者は日本という国と日本に住む人が嫌いなんでしょうねぇ。
外国人の拒否には心情的に異物感や文化の違いも勿論あるでしょうが、それよりも私が気になるのは富の流失でしょうかね。出稼ぎ労働者やら出稼ぎ犯罪者で日本の金はかなり海外に流失していると考えられます。水商売関係の労働者は=仕送りなんて当たり前の図式ですし、経済に全くいい影響は無いですよ。ただ、それをもって全ての外国人の排除を一括りにしてしまうのは当然問題ですよ。真っ当に店を持って経営している人に対して実に失礼ですし。というか、日本では外国人であることは絶対的な差別対象のように書かれてますが、差別ってどういう事か筆者はわかってませんね。クルド人の虐殺とかああいうのを世界的には差別というのですよ。問題を卑小化させすぎです。まるで日本では外国人である事が道を歩いてるだけで自爆テロを起す人種か、いわれなき有形無形の嫌がらせを受けるような印象で書かれていますが、これが現実と遊離していると言えなくてなんでしょう。
それに右翼=天皇崇拝っていうのは昨今変わってきてますね。というか、ちょっと強硬な論を出すとすぐに右翼右翼言われているだけなのかもしれませんが。故に右翼=天皇崇拝じゃないケースが増えてるんでしょうな。まぁ、出版されたのが2003年9月という事で、時期的には韓国に対して風当たりが強くなってきている時期では有ったものの、そこら辺はスルーしたんでしょうかね。まぁ、ネオ・ナチのファッションを暴力結びつけるあたり実にステレオタイプで陳腐ですな。暴力を働くのはあたかも国粋主義者と印象操作したいんでしょうが・・・若者の暴走にあんまり理由は必要ないわけで。供述は大概「遊ぶ金が欲しかった」、「むしゃくしゃして」、で最後に「反省している」ですよ。
それに日本で暴動沙汰みたいになった事ってここ100年ありますかね?安保闘争とかぐらいなんじゃないかな。反社会的である事がファッション的に格好がよかった時代。そんなどうしようもない時期だけでしょう。地震で壊滅的な被害が出ても世界で唯一暴動にならずに火事場泥棒するでもなく、冷静に救助するような土地柄ですし*3、外国人だからという事で暴動が起こるなんて事はあまりに現実から遊離してます。東京大震災時に朝鮮人が井戸に毒を入れて回っているという流言飛語に関しては彼らの身から出た錆であって、当時は暴動にはならず、自衛団で見回りをするぐらいであったらしいですし。まぁ、ここら辺も皮肉っているんでしょうな。
野犬の問題については、保健所に無差別に犬を捨てるのはよく無いですよ。保健所だけじゃなくて勿論捨てるという行為そのものが問題なわけですが。できれば保健所はない方がいいです。でも、野生化している猫や捨てられた犬、そして無計画にただ繁殖していく形では駆除という形を取るしかないでしょう。それとも犬公方の様に増えるに任せて被害が出るまで傍観しますか?現状では駆除する次善の策として避妊処理や里親制度で数を減らそうとはしています。ただ、ブリーダーが金儲けのために過剰な繁殖を行ったり、飽きたから捨てるなど問題外な行為が根源から断たれない限りそれでも現在の最善は殺処理なんですよ。救う事も出来なくはないでしょうが、全部が全部救う事は現在は物理的限界が在ります。毎日日本では千頭を超える動物が安楽死させられているという現実は決して簡単には変わらないでしょう。義に悖ると思われた方で自分も何か出来ないか?と思われた方は「犬猫 里親」ぐらいのワードで検索かけてみるとワラワラでてきますよ。ただ、最近は里親詐欺見たいな事もあるみたいなので、そこら辺も調べてみるといいかと。(本題と関係ない
山窩論なんかはちゃんちゃらおかしいですよ。大塚英志じゃ有るまいし。わざわざ天皇を引き釣り下ろすためだけに振るわれる偽史や古文書はあまりにもあほらしくてやってられません。わざわざ日本を分裂させようとする必要はどこにあるんでしょうね?地方分権を徹底する意味でアメリカ等のように州制度っぽくするならまだ話はわかりますが、ただ、分離のための分離になってるケースが殆どですね。そのための種としての日本先住民族説なんかはよく出てくるわけですが、寡聞にして当の山窩が語るなんて話は聞いた事が在りません。まぁ、創作または、かつての話を現代に持ち出す時点で問題外なわけですが。もう一つの要素として日本の国籍を持たないオーバーステイの外国人が日本に住んでいるという事で人権を持ち出して、居住を正当化して独立を後押しする形になるのは物語の上では有りでしょうが、実際との隔たりを考えると実に不合理です。別に実生活に天皇が居ようが居まいがどうでもいい事ですし、そんな事に拘ってるあたりが小人閑居して不善を為すって感じでしょうか。権威に反抗するなら、まずは官僚の天下りなんかで散逸される税金なんかを追って欲しい。あと、逆差別で儲けている不善を正すとか、保守系の議員が地元に利益供与をしている件とか、非主流の政党の行ってきた事に対する検証とか、自分達が行ってきた事のけつ拭きぐらいして欲しいところですな。
純潔運動ってナチスじゃあるまいし・・・、ナチスって極右政党だと思われてますけど、あれ極左政党ですから・・・。
なんか読み進めば進むほどそれってどんどん本題と関係なくね?と思う内容に移行していく摩訶不思議。

どう考えてもカタストロフ小説とは言いがたいし、何を狙ったのかも見当もつかん。東南アジアに惹かれてる感じは分かりますがね。

さて、思想的な方向については放置するにしても、リアリティという事に凝ってるようでどこか抜けていて、作為的過ぎる感じがします。後半のレニ編に関してはもうなんかリアリティを放棄してしまってどうしようもない内容になってると感じですが、結局何をしたかったのか、トウタも何をしたかったのか不明瞭極まりないわけですよ。意味をいくつも取れる不明瞭ならまだしも、まったく見当もつかないものを類推しろと言われても無理なものは無理です。ヒツジコというかテレジア学園編は終末を求めた話というのはかろうじて分かるものの、理由付けの部分が正直無いに等しい。要は動機が完全に欠けているんです。納得いく動機は語られません。ラストも雲散霧消するような手ごたえの無さで中途半端すぎる。
ええ、もう分かるでしょうが、この本読んでても時間の無駄です。20点。
「ベルカ、吠えないのか?」は面白かったんだけどなぁ

参考リンク

サウンドトラック
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ネタばれ

大した内容じゃない
しっかし、東京独立とか最後に言ってるけど、それって端的に言って内戦だし、それを書いて虚しくはないのかねぇ・・・。
内戦のある国ってない国と比べて明らかに国力低下するしなぁ。いい事はあんまりないと思うんだが。現在では選挙で少なくとも議員の首は切れるんだし、江戸時代よりはましだし。犬公方みたいな暴政がまかり通らないだけまだまし。まぁ、日本の借金は返せる時にガンガン返した方がいいとは思うけど。
内戦ある国って言えば、東南アジアには反政府組織がゴロゴロしてますな、インドネシア、タイ、フィリピン、とか挙げていったらきりが無いけど、大体イスラーム系か共産ゲリラですか。
まぁ、イスラム系の人にとってはイスラム過激派は厄介ですな。全部イスラムのせいにされちゃいますし。キリスト教のファンダメンダリストとかわりませんしねぇ。狂信者には打つ薬はありませんもの。

*1:作者に言わせると再リミックス作業だそうだが、死んでも統一等とは言いたくない

*2:わざわざ東南アジアまで行って少女回春してくるツアーなんかは明らかに恥知らずだし、そこら辺は弁解すら出来ませんがね。ただ、出張で行くと日本人だからってわざわざホテルの方から売春婦の斡旋が来たりするそうな。それに乗るのもどうかと思いますがね

*3:勿論最近はボランティアを騙って怪しげな事をしたりする連中が居たりするので完全に無いとは言えないわけですが