西尾維新 零崎双識の人間試験

あらすじ

この世には七つの殺し名と呼ばれる集団と六つの呪い名と呼ばれる集団がいる。
題にも出ている零崎双識が主人公のお話だが、この零崎という一賊は殺し名の威列で三番目に数えられるそんな一賊。
零崎双識はその零崎一賊の長兄で弟の人識を探しにでていた。人識は零崎一賊のはみ出し者で放浪癖が在りフラフラしているのが、長兄の双識にはどうにも気にかかるらしい。
そんな双識が、弟探しの途中で無桐伊織という女子高生と出会う。あまりにも非日常的な形で・・・。

感想

えー「クビキリサイクル」読むつもりでしたが、無かったので独立系と思われるこれを読む事にしました。
手元にある戯言シリーズの「ヒトクイマジカル」に七つの殺し名の一つ匂宮兄妹の名が冠されている事から、どうやら戯言シリーズって七つの殺し名と六つの呪い名が関わっている話のようですね。
なんとなく備忘録的にそれら一族の名をここに列挙してみる。

  • 七つの殺し名
    • 殺し屋の匂宮(においみや)
    • 暗殺者の闇口(やみぐち)
    • 殺人鬼の零崎(ぜろざき)
    • 始末番の薄野(すすきの)
    • 虐殺師の墓森(はかもり)
    • 掃除人の天吹(てんぶき)
    • 死神の石凪(いしなぎ)
  • 六つの呪い名
    • 時宮(ときみや)
    • 罪口(つみぐち)
    • 奇野(きの)
    • 拭森(ぬくもり)
    • 死吹(しぶき)
    • 咎凪(とがなぎ)

本書は零崎について書かれている本ですので呪い名についてはそれなりに程々といった所でしょうかね。まぁ、この本は外伝的であると思われるので、本編読んでない側からすれば説明的なところがかなり多く、アレでしたが。どうやら殺し名と呪い名は対立構造にあるらしく、零崎はその中でも特異な状況にある模様です。それぞれの位列にあわせて敵対構造になっているにもかかわらず、零崎にだけは明確な敵対者は居ないようです。なお、先に上げた一族名は上から順番に敵対する一族を表してますが呪い名の位列三位は空席のようです。ま、本書についてそんな事は度外視してもいいでしょう。というか、殆ど内容に係わり合いが在りませんし。
さて、本書の内容にもどりましょうか。この本のジャンルは・・・そうですねぇ、殺戮小説とでもいいましょうか。ミステリー的なエッセンスを用いているものの、そちらへと偏重する事は無いのです。ただ、人が居るから殺すという危なっかしい行動原理によってキャラクターは動いていきます。多分、戯言シリーズは大方同じような内容なのでしょう。七つの殺し名と六つの呪い名のキャラが出てくるようなので、そうなっていなければある意味不合理です。
まぁ、見方を変えれば、一種の不条理小説と見えなくも在りませんが、道理が通っているような面もありますので、そっちに分類するのはどうかといった所でしょうか。
同世代の書き手である乙一とも交流があるらしいですが、なんともはや似ているといえば似ていますな、両者。死というものを題材とするというと語弊があるかもしれませんが、両者死に魅入られているような話を書いています。安易に死を語りすぎな嫌いもありますが、昨今の流行なんでしょうかね?まぁ、ジャンプ漫画に代表される格闘物のカウンターカルチャーと見る事も出来なくはないかなぁとも思った次第。
ジャンプ系格闘漫画といえば「ドラゴンボール」や「聖闘士星矢」や「幽々白書」や「北斗の拳」など挙げていけばきりが無く在ります。これらで共通するのは死や暴力ではありますが、最も根本的な点は非現実的であるという事。剣で切られてもすっぱり切れなかったり、とてつもない打撃を喰らっても独自の力で跳ね返したり、特殊な技能で攻撃したりと色々と在りますが、一種のお約束がそれぞれの世界観に根ざしているわけです。そのお約束をはみ出ない限りキャラクターは超人的な力を持ち、非現実的な物理法則に左右されます。
翻って本書を見てみると、確かに超人的な殺戮能力を持つキャラクターは出てきますが、切られたら即刻回復不可能な傷を負いますし、ジャンプ的に死んでも蘇るという事は無いようです。そういう面ではリアルではあるものの、酷く残酷な気もしますが、リアルってそういうもんですよね。ただ、語り口があまりに軽薄なので、重厚さは全く在りませんな。*1
筆致は軽妙軽薄、かなり緩いです。ただ、作者が気に行った場面においては韻文をダラダラと書き連ねる事も在ります。ミステリー要素を巧い事エッセンスとして使えているので、一種の物語の起伏が生まれています。ある種ホラーといえばホラーかもしれません。所々言葉遊び・概念遊びをしていますが、京極ほどではないので、ライトノベルとして楽しめる範囲内でしょう。ラノベとしては笑い所が少ないのがちと残念ですな。もう少し娯楽小説として修練を積んで欲しいところです。70点。
最後に、まだ「戯言シリーズ」読んでないから適当な事かいてますが、ファンの人怒らないでねw

蛇足:前回読んだのと比べると上滑りな所は少ないものの、勢いがちょっと足りない感じでしょうかね。傍点多用はどうやら性分のようですな。
あとどうでもいい事だけど、双識と人識はまだしも敵役の名前を適当につけすぎな気がする。早蕨刃渡・薙真・弓矢で刀使い・薙刀使い・弓矢使いって・・・(呆
双識の武器の名前が「自殺志願(マインドレンデル)」で、人識は「人間失格」の二つ名の様だが読み方知らずといったどうでもいい備忘録的な事を書いておく。

参考リンク

零崎双識の人間試験
零崎双識の人間試験
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西尾 維新
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*1:ちなみにこのあたりは作者が意識して書いているような節がある。本文に自らそのあたりについて書いているから確信犯なのだろう