梨木香歩 家守奇譚

梨木香歩は「西の魔女が死んだ」で第二十八回日本児童文学者協会新人賞、第十三回新美南吉文学賞、第四十四回小学館文学賞を受賞。そして「裏庭」で第1回児童文学ファンタジー大賞を受賞しておりますが、今までスルーしておりました。というか作家の名前を知らなかったわけですよ。「西の魔女が死んだ」についてはちらほら題名は見たものの、あれだけ受賞しているにもかかわらず読んでないのはちょっと問題だなぁと思う今日この頃。近いうちにこの二冊も読む予定。

あらすじ

三文文士の綿貫征四郎は、学生時代に死んだ親友高堂の家族に請われ高堂の家の守人になることに。
日々を過ごすうちに様々な怪異に遭遇するが・・・。

感想

地元の図書館に頼んで入れてもらったわけですが、届いたとの報を受けても「ハテ?」って感じの本作。こんな本頼んだ憶えがなかったのですよ。で、検索してみて納得。本屋大賞のノミネート作だったわけですな。結果は三位だったわけですが、一位の「夜のピクニック」もまだ読んでないし、二位の「明日の記憶」も未読。
しかしトップスリーにはいるだけはあります。非常に優れた幻想譚です。植物を用い四季感に優れ、懐古的になりそうな舞台配置には感嘆の一言。明治大正の時代の日本の田舎の姿は情緒感に優れてもいるし、長閑で善いですな。
こんな長閑な世界観で妖怪やら怪異やらが起きない方がおかしい!というか、願望ですが。
技法のほうでは鍵括弧*1を暗に使わず縦線*2をニ個重ねて文頭に持ってくることで喋りを表現するとかあまり見ないことをしてますな。文体は主人公の綿貫征四郎視点固定で随筆っぽくなってます。なんか詩集を読んでるような気分になりますわ。
京極堂の「この世には不思議な事など何も無いのだよ」という言がひたすら脳裏によぎるわけですが、両方の意味に取れるのでこの幽玄な世界観が当たり前的な方に取る方向で。日常と非日常が非日常に傾いているにもかかわらず、それでも日常というストーリーと諧謔に富んだ内容には愛着を覚えますな。再読するのがいつになるか分かりませんが、分量的にも多くはないので何度でも読めそうだし、再び読んでみたい本ではあります。80点。

蛇足
しっかし、主人公は関口巽に思えてしょうがないw
鬱傾向のない関口といった所でしょうかねぇ。
高堂は毒のない京極堂って感じでしょうかな。

更に蛇足
筒井康隆の「佇むひと」って短編を思い出しました。全然関係ないんだけど雰囲気だけですな。時代設定も違うし。
個人的には「佇むひと」は筒井康隆の最高傑作と思ってたり。多作な人だから読んでない本も多々あることだし、更によい作品もあるかもしれないけどね。

参考リンク

家守綺譚
家守綺譚
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梨木 香歩
新潮社 (2004/01)isbn:4104299030
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*1:「」これのことね

*2:|これね