古川日出男 ベルカ、吠えないのか?

出来立てほやほやの新書でござーい。前回読んだのが「沈黙」で今回二冊目。何が出るかな、何が出るかな

あらすじ

二つの血統から始まる国を超えた犬の系譜の話と日本のヤクザの娘が変心していくお話が章をはさんで交錯していく。

感想

ある種特異点ですな。色々書き尽くされた感のある小説という分野で、まだこんな形の話が作れるんだと感慨を持たせてくれましたわ。
安易に擬人化させすぎないあたりは非常に効果的ですな。擬人化された犬というと手塚治虫やら高橋よしひろが思い起こされるわけですが、こちらは漫画という事で、必然的に会話が必要だったために仕方ないと見るとすると、なんとなく白土三平が書いた漫画みたいな内容に思えなくはないですな。もしくは故横山光輝御大あたりでも可ですかな。
しかしまぁ、犬好きにはたまらないものの、いささか帰着点周辺は微妙な気もしましたな。ハッピーエンドなもののどうだらうって感じで、人によりけりっぽいのは確かですな。途中で章のバランスが急激に取れなくなったあたりで、暴走でもしたのかなぁ?とかも思ったりするわけですよ。順調に書き進めていたものの、二次的に同一の時間軸に来るようにするために一方を長く書く必要性はそりゃああるものの、20ページぐらいで区切られていた話が唐突に100ページ以上一つの章に費やされるあたり、不自然さは感じ得ない方がおかしいですな。まぁ前回読んだ「沈黙」も同様な不自然さを持っていたところを鑑みると、狙ってやってる節も見受けられたりするわけで、ここを欠点としてみるのはお門違いなのかもしれません。まぁ、20世紀を丸ごと描くという点においては成功はしているとは思いますが、それに拘る理由はないんじゃないかとも思ったわけです。
まぁ、でもその不自然さを補って余りある小説が書けていると思うのでいいやね。ギャグ的な場面進行とかを試してるみたいだけど、これを基調路線にするのも有りだと思ったり。そっちの方が楽しめますよ、多分。エンタメが本流じゃないのかも知れんけど。
説明台詞は長いものの、極端に時代を遡っているわけではないので分からない類の事ではないし、必然的に犬に関係する話なので気にせず読めます。その時々によって視点は一人称で語る人物をかえ、説明台詞においては三人称視点が基本的に占める。読みやすいものの、ヤクザの娘の語彙の少なさがなんか苦痛だった。村上龍のじゃぱゆきさん系よりはまだましだけどね。罵倒がボケ、死ね、アホって・・・頭のねじが緩すぎる。まぁ、年が年だから仕方ないが。
しかしまぁ、犬にそれぞれ愛着がもてると共に、登場するキャラクターにも血が通った背景が読者にするりと透過していく様は心地よいですわ。動物ものは情に訴えかけて泣かせるタイプの話は卑怯だと思うんだけど、この本にはそういうのは一切ないですな。そういうのは期待しない方がよろしいかと。
メキシコ人の怪犬仮面にめんじて80点w

参考リンク

ベルカ、吠えないのか?
古川 日出男
文藝春秋 (2005/04/22)ISBN:4163239103
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