高田崇史 QED ベイカー街の問題

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あらすじ

棚旗奈々は職場の勤務割り当てをめぐる論議で欠員の出た日に出勤することで場を丸く収めることにした。折しもクリスマスである12月25日のことだからごたごたするのも仕方ない。今年も奈々は独り身で予定がないのだから問題はない。無いったら無いのだ。
前日、その当事者であるモアイのような頭を持つ外嶋が今日は半ドンでいい、と言ったので奈々はそれに甘えて街中でウィンドウショッピングとしゃれ込むことにした。天気も良いので足を伸ばして楽しもう、としている途中で大学時代の二年先輩である緑川友紀子と出会ったのはまったくの偶然である。二人は軽くお茶をしながら旧交を温めることにした。
話の中で彼女が「彼」と呼んだ桑原祟が話題になった。ちょっとどぎまぎした奈々だったが、友紀子がその名前を出したのには理由があるようだった。
「貴女か桑原君。ホームズに興味はないかしら?」
もちろんホームズとはあのシャーロック・ホームズのことだ。ベイカーストリート221bに住み、パイプをくゆらせながら推理して、友人&助手であるDr.ワトソンと共に事件を解決する"あの名探偵"のことだ。世界にはホームズ愛好家所謂シャーロキアンと呼ばれる人たちがいることは奈々も知っていた。はるか昔に子供向けのホームズの本は読んだことが有ったが既に中身は忘れてしまっているが・・・。こんな話になるまで当の友紀子自身がシャーロキアンであるということは知らなかったのである。
友紀子はシャーロキアンのクラブの会員なのだそうだ。そのクラブは元々少数精鋭のクローズドなクラブであったのだが、方向転換を期そうとしているらしい。オープンなちょっとしたパーティーをすることになったので少しでも興味を持った人物に声をかけているようだ。奈々は友紀子やそれ以外のシャーロキアンたちのようにホームズにかける情熱的な蘊蓄や意見などは無いと遠慮したのだがどうしてもと言われたので祟に連絡を取ることになったのだった。
翌日、祟に電話してみたが辞退を口にした。「是非二人で」と友紀子が言ったことを伝えると「・・・考えさせてくれ」と言って切られてしまった。
それから四日経って、祟から電話があった。バーで飲みながら話をすることになったが、祟はホームズについて興味があるという。では何故断るのか?その答えは明示されなかったが、彼自身の疑問の答えを得るために参加する運びとなった。
年が明けて一月六日、奈々はシャーロキアンの会合、「ベイカー・ストリート・スモーカーズ」に出席した。店の内装はホームズの部屋を意識して作られており、友紀子は普段は見せない柔らかな表情をしているのが意外だった。いつもクールな友紀子の一面を覗いた気になれたのは少し得した気分になれた奈々だったが、肝心のもう一人祟は一向に現れなかった。奈々は友紀子から会長の堀田総次郎氏、会員の坂巻晃司、杉泰輔の三人を紹介されたが、いずれ劣らぬ癖の持ち主たちのようだった。
会合も終盤に差し掛かった頃ようやく祟は現れた。会員達で寸劇を見せるのだという頃だったのだが、死体役になるはずだった坂巻が一向に舞台に現れない。どうしたのだろう、と寸劇を一時中断して探したところ、坂巻は寸劇ではなく実際に殺されていた。坂巻は控え室のテーブルの上に仰向けに横たわり、脇腹から大量の出血をしていた。つい先ほどまで坂巻は生きていたはずだった。一体誰が殺したのだろうか?

感想

高田崇史三作目。今回は今までと趣を変えてテーマは「シャーロキアン、あるいはホームズ」ですね。小説の主人公をテーマとしたのは中々興味がそそられました。なにしろホームズといえば世界中で知られている人物ですしねぇ。
こう言うのもなんですが、シャーロック・ホームズを知らない人を基準にして書いたようでメインのネタが一番始めの方の蘊蓄語りでほとんど割られています。そういう状況なので答え合せをしている気分でした。まぁそういうわけで、今までの作品と比べると難解性は確実に低減しています。読みやすい本ではあるんですが、謎の魅力にはちと乏しいかな。聖典(キャノン)は読んでおいて損はないでしょうが、あまり必要ないように思います。これ自体で完結している本でしょうから。でもまだ読んだことが無くてネタバレを避けるならば先に読んでおくことをお勧めしておきます。どうしても作中での原作のネタ割りは仕方ないですから。
本作も作中構造は以前と同じで奈々が外嶋の関係で祟と関係することになり殺人事件に遭遇、その作品作品でテーマとしているものに絡めて殺人の事件を解決するスタイルを採っています。ただ、三作目ということでそこへ持っていくまでの流れがスムーズになっている気がしました。そして本編とは関係のない謎を残しておいて結末の所に使う所など成長したなぁと思わせられましたしねぇ。
しかし、これを読んでいると佳い意味でも悪い意味でもオリジナリティとは何かと考えざるを得ません。殺人とは別の観点で語られる蘊蓄部分と愕然とさせられるはずの"事実"(それが本当かどうかは不明の説)をぶち挙げるわけですが、誰かの説を借用してきただけ、とかいう過去作を考えると、本作も似たような物なのかな、と考えざるを得ません。何故ならシャーロック・ホームズには特に熱狂的なマニア達がいるはずですからネタとして色々語り尽くされていると思うんですよね。亜流のホームズ作品なんか世界中にあるはずですし、誰かが書いていてもおかしくないかと。単にシャーロキアンではない私が知らないだけで本作のネタはマニアにとってはあり得る範疇なのかもしれないし・・・。
でもまぁ、楽しめて読めたのは良かった。
70点
なんにも考えずに読める本です。パズラーには軒並み評価が低いがそれは仕方ないところ。都合が良すぎると言われたらそれを否定は出来ないしねぇ。快刀乱麻ともいかずに遠慮してるような節が見えたのも確かだし、殺人事件が本論じゃないのもいつも通りだしねぇ。
ただ、あまり本を読まない人が読むのには適していると思います。そういう意味ではやっと普通の本までこれたかなと。
蛇足:祟と奈々の微妙な関係の進展がないのが気になる。一体作者はどこまで引っ張るつもりなんだろうか。
あと硬質って単語が頻出するけど、「硬質」の定義が蔑ろになってる部分がちょっと気になった。石頭・ガンコ=硬質ってのは違わないかなぁ。

参考リンク

QED―ベイカー街の問題
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