浅田次郎 きんぴか1 三人の悪党編 気分はピカレスク

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あらすじ

世間に見捨てられた三人の男がいた。
勘違いからカチコミに繰り出して敵対する組の親分のシルシを挙げたにもかかわらず、十三年勤め上げてみれば組織に放置されてしまった伝説のヒットマン、ピスケン。
自衛隊のことを考えて九条堅持することをまず第一として湾岸地域へのPKO派遣を自分の命に代えても待ったを掛けようとした筋金入りの最凶の自衛官下士官、大河原勲。
義父のことを考え、政治家の泥を被った元大蔵官僚の議員秘書は周到に計画された切り離し計画で妻と子供たちを失った広橋秀彦。
三人が三人とも失望と居場所を無くした犬のように彷徨して知るところに現れたのがオヤジだった。警視庁の第四課、つまりはマル暴で知らぬ者の居ないマムシの権左、向井権左ェ衛門は始末書と共に生きてきた様な警官だった。まわりに迷惑はかけるがその分有能。しかし、あまりにも被害が大きいので相殺されている為に出世とは無縁だった。そんな男が正直すぎる三人のつまはじき者たちに声を掛けたのだ。向井はちょうど自分の退職をめどに警察に出来ない世直しを三人にさせようとしていた・・・。

  • 三人の悪党

そんな三人の邂逅

  • 夢の砦

向井が退職し、三人の男が集まっている銀座の一等地にあるビル「キャッスルメンバーズクラブ」がどうして向井の管理下にあるのか?

  • 闇のページェント

ピスケンの復讐の始まり

  • 陽のあたる密室

広橋とピスケンの共同作業

大河原軍曹の古巣へのカチコミ

  • パパはデビル

「キャッスルメンバーズクラブ」には最新鋭のメインフレームがあった。広橋はそれの使い方を一人独学で修めようとしているのだがそこへハッカーが紛れ込む。復讐への手順は言うのは簡単だったが行うのは難い。そのハッカー「エンジェル」から「大食らいのデビル」というクラッカーの紹介を受けた広橋はその手伝いをして貰おうとするのだが・・・。

感想

浅田次郎七作目。読み始めた所で気がついたんですが、私この本読んでます。え、もしかして再読?とか思いながら読み続けたんですが、やっぱり再読のようです。うーんタイトルに対して記憶がないなぁとか思ってたんですが、読んでいけばいくほどじわじわと思い出す感じですね。で、はたと気がついたんですが、これ漫画化されてますよね。恐らくそっちの方の記憶なのかもしれません。漫画>小説の順番に読んだような気がします。確かビジネスジャンプだったかな。『企業戦士YAMAZAKI』と一緒に載ってたのを覚えています。
どっちにしろ面白いから良いんですがね。
それにしても独特の空気がたまらない本です。くだらなさが滑稽さと相まって絶妙としか言いようがないですわ。馬鹿三人よって文殊の知恵とならない所がユーモアの根源となっているんだろうけれど、この男所帯を鑑みると森見さんとはまた別の粗野さの漂うホモソーシャル的な世界ですよね。でも禁欲的という言葉とはかけ離れた場所に位置しているので手前勝手に縦横無尽、やりたい放題に暴れ回るという話はユーモアピカレスクな感じです。
ちなみにこの『きんぴか』よりも有名な『プリズンホテル』と同様の香りがしてきます。むしろ『プリズンホテル』よりも痛快さ・ユーモア部分は秀でているかもしれません。『プリズンホテル』はシチュエーション・コメディ的な設定の面白さが主であるけれど、こっちは冒険小説的なキャラクターの妙味が見られるからです。しかも四人の男を取り巻く環境はそれぞれ違うことでバリエーションの豊富さも演出されています。主人公の三人はそれぞれ渡世人浪花節勧進帳な見得、役人のハードボイルドとどれか一つは読み手の琴線にふれるんじゃないでしょうかね。それに本書の最後の「パパはデビル」以外は時代をあまり感じさせませんし、十分前線で十字砲火を交わすことが出来るだけの地力を持っています。
この本は作者の初期作品です。こんな初期作の頃から見得を切ってたんだなと感慨もひとしお。
前時代的という言葉すら褒め言葉に変わる本ですから今から読んでも決して遅くないかと。『プリズンホテル』が面白く感じた人は是非。
85点
ゲラゲラニヤニヤしながら読書が出来る極上のエンターテイメントですわ。
蛇足:自衛官が九条堅持で自決しようとするっていう話だけれど、これはまんま三島由紀夫をイメージしてますな。三島を追い求めていった作者らしい。
あと、主人公の三人は元々作者自身がモデルっぽいですね。自衛官、ヤクザ、官僚というのはちょっとそぐわないかもしれませんが、自衛隊に作者はいましたし、アウトローの道にいたと大言壮語していた頃にはヤクザだったことを匂わせていました。後年になってヤクザであったということはない、と翻していますが、ネズミ講の組織にいたことはあったそうです。その頃に会計的な部分に携わっていたとしたら大蔵省という国の会計組織に興味があったでしょうし、コンピューターにも触る機会があったと思われます。法律に強くなったのも経済的な部分に目を向けられるようになったのもそういう過去があるからではないでしょうか。ま、類推に過ぎませんがね。

参考リンク

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