西澤保彦 なつこ、孤島に囚われ。

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あらすじ

バイセクシャルで耽美・官能小説家(異論あり)の森奈津子は<おなかの事件>という居酒屋で同業者の倉阪鬼一郎氏と牧野修氏と呑んだ後で帰り道、夜肉食獣的な雰囲気を持つ目鼻立ちのしっかりしている女性にコーラをぶっかけられて一見普通の民家に見える<羽菜名和弐苑(ばななわにえん)>という小料理屋に連れ込まれてしまう。そこでその女性に迫られて以降奈津子の意識は遠のいた。
気がつくと南の島の別荘に奈津子はいた。孤島には奈津子の他に誰もおらず、外界と連絡するための電話は外されていたが仕事をするためのワープロは備え付けられていたし、冷蔵庫の中には食料たっぷりであったので特に気にもせず気楽にバカンスを愉しむことを決めたのだった。一般的には誘拐と言うことになるのだろうが、締め切りを破っても問題ない状況やら、ボイルされた毛ガニがわんさと入っていた事に惹かれたのはいうまでもない。奈津子は思う存分毛ガニと酒を愉しみ、南国の気だるい雰囲気を満喫した。
ふと気がつくとこの島の隣にはもう一つ島があった。部屋にあった双眼鏡で覗いてみるとそこには男性が一人いた。奈津子は危機感を全然感じていなかったために自分が居る島を百合島、男性が居る島をアニキ島と名付けて一人妄想の世界に飛び込んでいった。
島に連れ込まれてから一週間が経過した。一向に現れない誘拐者であったが、その誘拐者ではなく隣島から闖入者がやってきた。なんと警察官である。しかもその言葉を信じるならば東京、つまりは警視庁の所轄らしい。事情を説明する奈津子に刑事は言った。隣島で男が一人死んだと。

感想

西澤保彦七冊目。祥伝社文庫十五周年で書き下ろされたという本書。ある意味で酷すぎますw。
まず、森奈津子女史から始まる実名作家さんですが、フィクションとしてもそんな実物を元にして話書くってのはどういう了見なんですか。まぁ、友人らしいのでいいんでしょうけど。でもそこからしてぶっとんでますよね。しかも主人公が妄想癖の持ち主だと言うことを生かして(あるいは暴走して)延々といわゆるその耽美な描写を続けます。あのーこれって一応その記念書き下ろしっていう出版社にとってはある意味重要な意味を持ってる作品ですよね?それがこんなんでいいんですかw?まぁ、いいんでしょうけど。じゃないと出版されてないでしょうから口を挟むべき所じゃないんでしょうね。でもやっぱりもしかしたら出版社サイドも後悔しているのかも知れない。そんな一冊です。
ある意味で一番西澤保彦のセクシャルな趣向が解放されている作品なのかも知れません。森奈津子のHPにはこうありました。
曰く「足フェチ」である。
曰く「戸籍上の性別は男性ですが、トランスセクシュアルで、
性愛の対象は女性という、トランスセクシュアルレズビアン」である、と。
西澤保彦の綺譚のない素直な言葉なんですが、正直引きますw。ああなるほどと思う一方でちょwwwとか焦るわけですよ。まぁ、作者本人が弾けているのは分かりやすいですね。
それはそれとして、内容的には内容はほとんど無いです。パイロット版の言葉に嘘はありませんでした。あくまでもシリーズの一つの骨子を作る粗野な仮組みといった所でしょうか。物語の1/4以上が妄想に彩られるこの事件は何も考えずに読むのには適してますが、ミステリーを読もうとして読んじゃあ駄目ですね。作者得意の視点錯誤がお約束のようにドンデンとして使われている状況からしてあまり意外性は無いですし。それに作者の本にしてはあまりにも薄すぎるのが難点でしょうか。まぁ、ちょっとした暇つぶしぐらいの分量しかないので正直物足りないですが、パイロット版ならば仕方有りません。
それに主人公が「森奈津子(現実の森奈津子と互換性はあるが一応フィクション)」であることで「お笑い」的要素を初めから持っていることに気がつかなきゃいけないんでしょうね。私は森奈津子の本は読んだこと無かったのでこういう方向に行き着くとは題からじゃ予測もつきませんでしたわ。ある意味地雷。
55点
好きな人は好きそう。でもこれじゃあ正面から笑い転げるのは難しいわな。変化球過ぎるわ。

参考リンク

なつこ、孤島に囚われ。
西澤 保彦
祥伝社 (2000/10)
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