奥田英朗 ララピポ

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あらすじ

  • 第一話 WHAT A FOOL BELIEVES

三十二歳のフリーライター杉山博の悲哀に満ちた生活と性生活

  • 第二話 GET UP, STAND UP

二十三歳のスカウトマン栗野健治の風俗へ女を落とさせる日常

四十三歳の専業主婦佐藤良枝の性の目覚めと芥溜めの壊れた家族

  • 第四話 GIMMIE SHELTER

二十六歳のカラオケボックス店員青柳光一の身内に引きずられる悪癖の悲劇

  • 第五話 I SHALL BE RELEASED

五十二歳の官能作家西郷寺敬次郎の新鮮体験と犯罪経過

  • 第六話 GOOD VIBRATIONS

二十八歳のテープリライター玉木小百合の変わった収入源

感想

奥田英朗八冊目。
本作はルサンチマンが溜まり溜まった鬱屈日常生活群像短編集です。それぞれの短編はリレーを描いて続いていきます。隣人の秘密、不幸な日常をのぞき見して対比をはかるそんな後ろ暗い小説とも言えるかもしれません。窃視願望持ちにはうれしいんだろうけど正直微妙かなぁ。爽快さは多分無いから気分転換に読むには向かないと思う。作者の方向性からすると『最悪』、『邪魔』のダークサイドかと。明るくてギャグ満載な『イン・ザ・プール』とかをイメージして読もうと思う人はやめておいた方が無難。
登場人物達は皆所謂負け組とされている社会の底辺の人々です。ここには一時の快楽とそれに伴う現実の厳しさが大きく大書されているのです。本書をなぜだか知らないけれどギャグとして読む向きもあるようなのですが、正直正気を疑うね。それだけ笑える立場にいるからかもしれないけれど、一寸先は闇なのですよ。今は大丈夫でも明日は我が身と成り得ないとは限らない。想像力が貧困なのではないかな。
さて、どこにでもある今を焼き付けた本書はあくまでもとことん残酷なまでにリアルです。ただし負の側面のみに偏っていますがね。そこに『セックス』という悪趣味が加味されます。根源的欲求の一つ性欲を狂言回しに初っぱなからガツンとやられるというわけです。ただ、あくまでセックスはそれ以外を引き立てるための添え物に過ぎず、陰鬱さはそれ以外にあるのです。また現代人の関係性の希薄さを逆手に取った関係性をも主題にしていたりもします。ここに描かれているのは作られた完璧のまがい物ではなく、人生に疲れたり、日常を捨てたかったりした普通の人なのです。道を違えただけでこうも落ちぶれてしまっていますがね。
こういったうらぶれた掃きだめに作者は惹かれるのでしょうね。あるいはそこに人間性を観るのかもしれません。ここには成功はなく、失敗ばかりです。
果たして人生に疲れた人にこそ求められるのでしょうか?この本が。残念ながらそれはないと思う。これをバネにするのは難しい気がする。逆に落ち込んでしまうんじゃないかなぁ。ではどういった人が楽しめるのだろうか、それは私には解らない。何故ならば「面白い」と感想を述べている人たちはその先について無頓着で「何がどう面白いのか」という人に伝える気持ちがないようだからだ。感性の違いといってしまえばその通りなのだろうが、一様に「人に勧めるのはちょっと・・・」という本の面白さを伝える気がないなら書かなきゃ良いのにと思わなくもない。
なお、題名の『ララピポ』とは「A lot of people」という言葉が早口になったときに日本人に残る言葉の残滓だ。つまりは「沢山の人々」ぐらいの意味ですな。
後味が悪すぎるのと単に話がブツ切れな所は石田衣良の『LAST』に近いかも。でも構成力と多様性のある話の作りではこっちの方が上手いとは思う。
暗く沈みたい人、昏い話にこそ平穏を見出せる人、悪趣味だと自信を持って言える人ぐらいじゃないですかね、読んで面白いのは。
軽い読み物だからあっという間に読み終わり。一つ一つの話は短いのとただただ落ちるだけなので感情移入は出来なかった。だから昏い話だけどあんまり好きになれないんだよなぁ。もっと描写細かく感情表現があって能動的であった方が面白いと思うんだが。ま、ここは個人的好みだけどね
40点
個人的好みでいえばこれぐらいしか点は付けられないわ。好悪による物なのであくまで指標でしかないです。文章的にまずい部分とか特にないだけにこんな感じ。
明らかに人を選ぶ本かと。特に低俗、エログロが駄目な人は読んだら失敗するね。
追記:悲哀に際限がないから駄目なのかもしれない。相反する正の方向への何らかの希望が何もない点が気に入らないんだろうね。ただ、こういうのが好きな人も居るんだから世の中は面白い。

参考リンク

ララピポ
ララピポ
posted with amazlet on 06.02.23
奥田 英朗
幻冬舎 (2005/09)