西澤保彦 解体諸因

ASIN:4062636735
ASIN:4061817280

あらすじ

  • 第一因 解体迅速

交通事故とその加害者。松浦康江死亡、土居淑子は生き残り。そして主人公のタックこと匠千暁初登場。

  • 第二因 解体信条

愛し合う男女の両親はかつて同じ相手を競い合った仲だった。川村咲子死亡。ボアン先輩こと辺見祐輔初登場。

  • 第三因 解体昇降

マンションエレベーター内でとてつもない早業解体死体が出来上がる。飯田頼子死亡。中越正一警部と平塚聡一郎刑事登場。

  • 第四因 解体譲渡

大量に買われたエロ雑誌の謎とボアン先輩のお見合い。鹿島扶美死亡。穂積陽子右足骨折。

  • 第五因 解体守護

ぬいぐるみの腕切断と血染めのハンカチ。タカチこと高瀬千帆登場。
(この本では唯一学内を描いていることからシリーズ時系列的には一番過去と思われる)

  • 第六因 解体出途

親子どんぶり男と人でなし女の死。沢田直子と若木徹死亡。

  • 第七因 解体肖像

首無しポスターの謎。兼松健夫死亡。島岡万里子登場。

  • 第八因 解体照応 推理劇「スライド殺人事件」

七つの首斬り死体が出てくる推理喜劇

  • 最終因 解体順路

全てはこのために・・・。

感想

西澤保彦五作目。匠千暁シリーズということでは一番最初の作品です。ざっと見て、二つに分かれますね。第一因・第四因・第七因が収斂されたのが最終因というのが大筋の構成。それ以外に関しては彩るための基礎要素を紡ぐ突端と考えるべきかな。
作者曰く「新本格はちょっとしたトリックと首なし死体さえ出せば書ける本だから低く見られている」ならば、ブルネレスキの卵的に「ゴロゴロ無闇やたらに首なし死体を出したらどうだ!」という稚気なのか若気の至りなのか、それとも開き直りなのかようわからん理由で出された本です。もうね、光画部鳥坂センパイじゃ有るまいし・・・ってのが正直な感想。
全体的に文章が固め。現在のような小気味の良さはあまり感じられないね。あと、その一因となるキャラクターのアイデンティティの確立がされていないらしく、その後のタックシリーズと比べると砕けてないんだわ。だからよく知っているはずの面影は、片鱗しか垣間見ることは出来なかったのさ。どの程度この段階で設定が固まっていたのかには多少興味があるけど、黒歴史な可能性を秘めていることは否定できないよねぇ。だって作者のシリーズって時系列バラバラがデフォで四苦八苦してそうなんだもの。それに本書に関しては第五因は一つだけ時系列を思いっきり過去に持ってきてるわけだしね。
好意的に理解するならばキャラクターに感じる違和感はシリーズを経て多少なりともキャラが成長したってことになるんだろうね。でもそれはないかな。そこまで流石に考えてる人っていないでしょう。そうなると単に先を考えずにやったことが根底に有るのだろうと考えられるわけで。その証拠にタカチとの仲は後退しているように考えられる点を上げてみる。卒業以後の話には一切タカチは出てこないんだよね。時系列的に考えると、『依存』以後の関係は解消されたと考えるより、語られていないだけと考えた方が妥当なんだろうけど・・・後付設定があまりに豊富だからこういった違和感が出てくるんだと思う。ん〜タックシリーズでこれだとチョウモンインシリーズがちょっと心配になってくるな。
とりあえず、キャラに関する違和感はさておくとして、なんだかんだ言っていつもと違うなーという最大の点は男性上位を満遍なくちらつかせているところでしょうな。これは現在の作者のしつこいまでのジェンダー論(むしろ同権というより女性崇拝に近い気がする)からするとその前なのかな?とか思わなくもない。だとするとこれは意図的なのか、それとも転換点の前なだけなのか。おそらくは転換点の前なんだろうけど、じゃあ一体いつそれを迎えたのかが更なる疑問になるんだけど・・・これはシリーズ以外にも手を付けないと駄目っぽいなぁ。分水嶺の判断条件が少なすぎるしね。
さて、ちょっとキャラクターにツッコミ。それにしてもタックはフリーターか。探偵役にフリーター多いよね。御手洗にせよ猫丸にせよフリーターだし。動かし易くて良いかもしれんけど何とかした方が佳いんじゃないかなぁ、タックの場合。だってタカチの手前ねぇ・・・。と考えるとまた逆戻りか。いやはや面倒なこった。
掌編それぞれについては基本的にそこそこ楽しめたけど、最後の二編は狙って狙って作り上げた労作だけど読み手としてはめんどくさいなぁというのが本音。だって第八因はずーーーーっとダラダラ続くだけだし、最終因は相関図を書かなきゃ状況認識すら面倒くさすぎる。情熱は買うけどここまで余さず全てを使い切ろうとするのには正直ついて行けないな。それに第八因は心理効果からすると疑問が持てるし、切迫している状況を理解しようとも思わないしねぇ。劇場型人間とか言われても、情熱の傾け方が常識からえらく遠のいてるし流石に有り得ないだろうからなぁ。戯化されているからこうなってるんであって、それを参考にするとしても微妙。危ういバランスで保ってるジェンガみたいだよ。
そうそう、ここでタックシリーズに絡むことになった刑事2人は今後活用されるのかな?ちょっとそこが気になった。あと、ボアン先輩も探偵役にまわってるのもちょっと気にはなったけどこれがシリーズに対する伏線*1なんだね。
65点
違和感を持たずに愉しむのならば、シリーズの内部の時系列よりも作品発表順に読んだ方がいいのかもしれない。そうすれば余計な物が見えなくて済むしね。

参考リンク

解体諸因
解体諸因
posted with amazlet on 06.02.15
西澤 保彦
講談社 (1997/12)
売り上げランキング: 63,604

解体諸因
解体諸因
posted with amazlet on 06.02.15
西澤 保彦
講談社 (1995/01)

*1:いい線までいくけれど、結局きちんと解けるのはタックのみって言う奴ね