岡嶋二人 99%の誘拐

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あらすじ

三億円強奪事件の起こる三ヶ月も前のこと、当時幼稚園に通っていた生駒慎吾は誘拐されてしまう。それは昭和四十三年九月九日のことだった。
父親の生駒洋一郎は半導体製造会社イコマ電子の社長で元々米国のコープランドという半導体製造会社で学び、運良く提携を得ていた。言うなればコープランドの日本支店・代理店がイコマ電子だったわけだ。だが、順調だったイコマ電子は革新的な技術を持ちながらコープランドがICの設計ミスでバグ持ちチップを市場にばらまいたおかげでその不安を一緒に受けてしまい窮地に陥っていた。元々設計は独自にやっていたためイコマ電子の製品にはバグはなかった。しかし、風評被害とはそうした物だ。やがて、コープランドは日本からの撤退を決意する。社長の洋一郎は社運をかけ、自身の全ての財を投げ打ち最後の賭に出ることにした。そうして捻出した金は五千万円に上った。
そこへ慎吾の誘拐である。しかも要求額は丁度五千万円だった。考えたくないことだったが、内部の犯行は否定できなかった。洋一郎は一つの決断を下さねばならなかった。全てを捨てて慎吾を手にするか、慎吾を放棄するか・・・。
そして洋一郎は決断を下した、慎吾の命を守る事を。
洋一郎は事件の八年後末期の胃ガンを患い死んだ。だが、死への苦闘として慎吾へ事件の概略を伝える驚くべき記憶力によって作られた大学ノート三冊にわたる手記を残していた。慎吾がこのノートを読むことになるのは更に十一年後の事だが、きっかけはある事故だった。誘拐当時リカードというカメラの製造を主とした会社がイコマ電子との合併を望んでいたのだ。会社の規模からすればイコマ電子は吸収されるに等しい。故に洋一郎は断ったのだがまさかそのリカードから誘拐事件の続報が聞こえてこようとは誰も考えていなかったに違いない・・・犯人以外は。
リカードの総務に勤めていた長沼栄三が海で死んだのだ。慎吾を誘拐した犯人は身代金を1kgの金塊×75個に換えるように指示し、フェリーから投げ捨てさせた。当時は全て回収された物だと思われていたのだが、実際には金塊は投棄されたままだったらしい。長沼は鞄に入った金塊が穴から落ちるのをロープで防ごうとして絡まって混乱し、エアが尽きて死んだようだった。状況は長沼が犯人の一味であったことを示しているとしか思えなかった。しかし既に時効は成立し事件は風化していたのだ。
慎吾はリカードがイコマ電子の技術を吸い上げるために誘拐されたのだと判じた。そして自分の命の代償として父の未来を奪ってしまったことを・・・。自責の念はある。しかし、それよりも犯人の一味の方がよっぽど酷いことには間違いがない。
慎吾は現在リカードに勤めている。それを利用して今度は犯人への復讐を実行に移す事にした。

感想

岡嶋二人初読み。本来ならばデビュー作から読むべきなんだろうけど本作はシリーズ物でもないので手を出しても大丈夫だろうという事で読み出しました。なお、第十回吉川英治文学新人賞受賞作です。作者はエラリー・クイーンの如く徳山諄一と井上泉の二人組でしたが、後者が井上夢人として活動をしている状態らしいです。どうして決別することとなったのか、私は今のところ知りませんが、井上夢人名義の『おかしな二人』を読めば解るそうです。そのうち読んでみることとなるでしょう。なお、岡嶋二人とは「おかしな二人」から来ている筆名とのことです。
しかしまぁ、全部読み終わった人間が言うのもなんですが、「99%の」って所が気になりますね。全ては上手くいかなかった、それを暗示しているわけですがそれを書く必要はあったのだろうか?という疑問がわくわけです。まぁ、完全犯罪を成し遂げるという倒叙の作品なので読む前にも十分気になるでしょうが、核心は置いておきましょう。
本作は倒叙です。正直第一章の部分だけでお腹一杯だったりします。いや、だって概略にとどめてあるけど一個の事件を余すところ無く語っているわけですよ。ふぅ終わった、と思ったらまだきっかけでしかないとかね。それだけで十分面白いんだからこれでよくない?とか思ったりもしますよ。でも本題にすら入ってないわけでそこで留め置くこと自体ナンセンスですが。
ミステリーの王道基礎要素としてあげられるのは殺人・誘拐・何らかの偽造(偽札作り)あたりだと思うんですが、本作は誘拐に絞ってギミックを練ってあります。流石に十八年、約二十年近く前の小説なので色々と風化している部分もありますが仕方ないでしょうね。当時は最先端の電子技術を使っていたのかもしれませんが、cpuクロックだとかメモリの量とか1チップの複雑度を考えると今じゃ結構簡単に実現できそうな感じですよね・・・。例えば人間の声を合成して読み上げする・・・現在では非常にありふれた技術ですが、当時はまだまだそれ自体が難しい時代ですからねぇ・・・。他にも何しろノートパソコンが電池で動いたりと時代がかってますねぇw。
なお、本作に於いては一点非常に大きな瑕疵があります。これは完全犯罪を実際に行われないための予防線なんでしょうけど実行しようとしない限り無視していいです。超音波は電話越しでは意味がないことです。可聴音域と言って佳いのか解りませんが、あらかじめ電話で伝えることの出来る声は高いところと低いところをカットしてあります。故に電話越しだと声が変わって感じられたりするわけですね。もしも電話越しに超音波をやりとりしようとしても応答をやりとりしている側に伝わることはないです。あと、当時としてはオーバーテクノロジーな部分もあるようですね。現在では気になりませんけど。
いつものミステリーと違って今回はあらかじめ感情移入のしやすい状況が作られていたため、読みやすかったです。まぁ、私の場合ミステリーというよりは復讐物として読んでいたわけですが・・・。
今更ですが他の本も読んでみたいなぁと思いました。
80点
ただ、復讐が生ぬるい気もする。やるなら徹底的にやって欲しかったとも思う。故にラストがインパクトに欠けるのは仕方ないか。

参考リンク

99%の誘拐
99%の誘拐
posted with amazlet on 06.02.03
岡嶋 二人
講談社 (2004/06)
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