古処誠二 少年たちの密室

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あらすじ

九月五日、長年恐れられてきた東海大震災が起こった。マグニチュード八、局所的には震度七のとてつもない揺れは全てを飲み込むかと思われた。
しかし、宮下敬太が死んだのはその自身が原因ではなかった。自殺の名所で一人死んでいったとされたのだ。勿論彼の親しい友人達は全くそれを信じては居なかった。学校の癌である城戸直樹が関わっているとしか思えなかった。婦女暴行、傷害などの犯罪を犯しても父親に全てを片付けて貰い、会社の若い者をけしかけて口止めをする。奴は父親の溺愛を思う存分利用して恐怖政治を敷いていた。
その日相良勝は親友の宮下敬太の葬儀にでるところを担任の塩澤の車で連れられることとなった。他に乗り合いになったのは香椎紀子、早名由梨江、大塚和也、小谷孝、城戸直樹というメンツだった。まさに呉越同舟。城戸は宮下の死に関わっていると思われているし、小谷は城戸の子分だ。宮下と相良、香椎と早名は仲良し四人組でいつもつるんでいた仲でもある。ただ一人大塚が中立地点のように浮いていた。
丁度城戸の住むマンションの地下駐車場に居たところだった。地面が躍り立っていた者達は転げ回り、そして閉じこめられた。広い空間だったのと地下施設だったことが幸いして大きな怪我は皆しなかったが閉じこめられたことは確かだった。宮下の自殺の原因としか思えない城戸と宮下達は一緒にいることが我慢できなかった。それを演出した塩澤がにくかった。塩澤は所謂事なかれ無能教師だった。自分の責任になることを恐れ、もめ事は極力大事にしないように立ち回っていた。この葬式行きの車だって元々はそういう意図でやられたに違いないのだった。対立構造の人員を集めていたのだから・・・。
それは兎も角として、生き埋めになったことは事実なので小谷と城戸を除く五人は元々地上に口を開けていたスロープの瓦礫をどけて、脱出口を作ろうと藻掻く。しかし増えるは指の傷ばかり、人力では持ち上げるのも無理なほどの巨大なコンクリートの破片がしっかりと口を閉ざしているのがやがて判明する。徒労だったのだ。
やがて小谷と城戸は車の中で、それ以外は外で救助を待つことにする。相良はこの絶好の機会を使って城戸が宮下にした一連の言質を取ろうとするのだが・・・救助を待つために温存された光によって生まれた闇が希望を打ち砕く。城戸はコンクリート片を頭に受けて死んだのだ。事故・・・いやその場にいる物全てが殺人だと思った。

感想

古処誠二二作目。前作とは随分趣が変わりました。個人的にはうれしい限り。
仇を取るために情報収集をする者が艱難辛苦に立ち向かう様や現世から隔離された密室状況の危急性などドラマチックな展開を煽るには非常によい舞台ですね。東海地震はマジでいつ起こってもおかしくないわけですしね。ちなみに第二次関東大震災もいつ起こっても不思議じゃあないです。東京は防災都市としての機能がほとんど無いため阿鼻叫喚の地獄と化すのはほぼ間違いなく、下手をすると海抜0地帯は水没する恐れすら有ります。自宅へ帰ろうとする難民もとてつもない数に上るでしょうし、中央集権を推し進めた関係で政治も経済も麻痺し確実に非常事態宣言ものですな。ちなみに東海地震はもっとある意味ヤバイです。東海地震東南海地震・南海地震は100年ごとの周期で同じ時期に起こるらしく、四国から愛知のあたりまで津波が押し寄せてくるのが確実とみられています。これは古い文献や地層の断裂状況などの情報として残っている為に確実に来ることがわかっているのと、三つが連動して起こるとされています。実に大規模な震災になることは確実なのでよく地震予知とか地震が起こるかもしれないと週刊誌なんかで取り上げられることが多いですね。まぁ、備えあれば憂いなしって事で当該地域に住まう人は気をつけましょう。明日は我が身です。私は自宅では本とタンスと本棚で圧死確定、職場は倒壊確定、運良く生き残っても職もなくなり自宅まで帰ろうとしたらその前に力尽きて完の可能性大ですw。
ま、地震ネタは置いておくとして実に簡単に怒りを誘ってくれる本ですね。誰しもこれを読めば自身の獣性を意識できるでしょう。私にはこれが心地いいんですが中には嫌いな人もいるでしょう。本作はある意味ではがちがちの本格ミステリでありながら一方では明確なバイオレンス復讐物なんですよ。どちらかが完全に駄目だと読んでて面白くないかもしれません。加えて青春物っぽさも兼ね合わせています。貴志祐介の『青の炎』に方向性は似ていますね。
前回の作者のデビュー作『UNKNOWN』では薄口でライトな語り口で自衛隊の内部を描いていた事から軍事方面に進むと見せかけてこれですからねぇ・・・。味付けしっかりミドル級ですわ。
しかしまぁ、この類の鬱屈した巨悪と闘うみたいな話をみる度になんで復讐を端的に行わないのか不思議ですよね。得物を使う使わないなど、方法論は色々ありますが、どんな人間だって隙だらけの瞬間なんていくらでもあるもんです。複数でつるんでるならば一人になったときにやればいい・・・とか考えるんですよ。やられたら倍で返す、それぐらいの意気込みじゃなきゃ舐められるだけだからね。きちんと恐怖を刻んでおかないと面倒なことになるし・・・。本当に駄目な場合は正攻法から行くべきですわ。話を大きくして問題が露呈してどこかが必ず責任を取らねばならない形になるほど迄にする、これですよ。警察が動いてくれない?いじめはなかった?最終的にナイフで一突きすればそんな話は通らんでしょう。でもその前に地道にカメラで盗撮して外部に流せる情報として使う、音声情報もICレコーダーにきちんと残す、そして自殺するぐらいならその情報をネットでばらまけ、相手を殺すつもりで向かっていった方が百倍マシだわな。それがネットにばらまかれれば学校側がどう言い訳しても話にならん。問題化するのは実に簡単だ。
なお、相手を刺した場合場所によるだろうけど当然賠償請求はされるわな。それに殺しても多大な賠償金を請求されることは確定。ちなみに未成年であった場合は親にそれが行ってしまうので極力闇討ちで誰がやったかわからないレベルにとどめておいた方が吉。というか、ナイフとか銃の類は始めから殺す意味で使わないといけない類の物なので、威嚇としてはやめておいた方が佳い。故にナイフよりはブラックジャックや鉄パイプ、特殊警棒なんかでで足の腓骨を折るのお勧め。それからじわじわやるといい。ただし、自己責任でね。
まぁ、この話の場合「緊急避難」が適応されそうな感じなんだけど一言も書かれてないんだよね・・・。そこがちょっと謎。ただ調べてみたところ、緊急避難と正当防衛だと両方とも適応例が少ない上、緊急避難の方が認められるケースが少ないらしい。所謂カルネアデスの板も今じゃ過剰避難(過剰防衛みたいなもの)となるようだ。なんか理不尽な気もするが現在の法の運用上ではこんなもんらしい。だったら混乱させないように書かないのも手だったのかもね。
まぁ推理部分に関してはこの人物は実はこんなだったのか・・・と主人公が族里としているあたりからもう割れちゃってましたね。これについては演出過剰でよくあるパターンにはまり込んじゃってたと思う。もうちょっと慎重にやっていればもっと面白くなったかもしれない。そこが残念だけど落ち込むほど酷い出来ではなく、むしろいい出来なので更に次作に期待。佳い意味で飛躍しそうな作家の一人と脳裏に刻んでおこう・・・。
85点
修正追記:同著の『フラグメント』は本書『少年たちの密室』から改題&地の文に多少手を入れて乾いた文体にしているとか、サンテンリーダ(「…」←これね)をなくしているとかいう話。
更に追記:怒りを煽るためなんだろうけど城戸が原始人、塩澤がデブっていうのどうなのよ・・・。やられる方の四人の容姿説明がないけど明らかに好意的に書かれてるよね。このあたりはどうなんだろ。

参考リンク

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