あさのあつこ バッテリー(1〜6)

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あらすじ

父親の体調悪化から転勤を決意した両親は母親の田舎へ引っ越すことを選んだ。父親の両親は交通事故で既に亡くなっているため必然的に選択肢は限られていたのだ。移り住むことになったのは広島と岡山の県境にある新田という地方都市で、よく言って自然が多くおおらかさのある土地柄なのだ。
原田巧はこの土地でも野球をすることに決めていた。自分にはボールを投げるただそれだけのことしか出来ないし、それ以外には全く興味がなかった。自分で決めたことはこなして、誰にも意見はさせない。そんな強気は自身の才能に裏打ちされたプライドだった。何しろ中国大会の準決勝まで行くほどの力量を持っていたのだからそんなプライドを持っていてもごく自然だった。
巧には弟がいる。名前は原田青波(せいは)といい、生まれた頃から病弱で少し気を許すと熱を出してしまうような腺病質な体質だった。喘息の気もあり、田舎の澄んだ空気が青波には心地よいようだった。青波には巧にはない親和性や柔和さ、人の気持ちを理解するだけの余裕があった。勿論病の床ではそんな余裕も消し飛んでしまうが、致し方ないだろう。
巧は越してきたその日にこの地での相棒とまみえることとなる。相手の名は永倉豪、野球のポジションは捕手でこの地の気の優しいガキ大将のようだった。巧は年下の子供達と遊ぶということはしたことがないのでよくわからない。しかし、相手も野球が好きだと言うことは理解が出来た。
永倉豪は大会時に巧のピッチングを見ていた。それ以来、あのすごい球を受け止めるのは自分しかいない、そう思っていた。実際巧の球を受けてみて更にその気持ちは高く強くなっていく。病院の跡継ぎという両親からの期待を忘れ、野球一筋に打ち込むほどに・・・。
巧が越してきたのは小学校を卒業した春休みの自分であったので、すぐに中学校の野球部に入ることを決めていた。しかし、野球部は巧からするとどうにもちんたらしているように思えた。その為入部届はギリギリまで待ってみた。案の定入ってみると巧の才能は認められるにせよ、それを潰そうと画策するもの、鼻をへし折ろうとするものなど野球とは全く関係のないことをしようとするバカがうようよしていた。髪の毛を短くすることがどう野球と繋がるのか、全く理解に苦しむ。野球に対する冒涜だ!そう巧は思っていた。
巧に対する潰し行為は他の一年生へも波及し、ついには露見して大会出場を断念することになってしまった。何しろ監督が怪我をしたのだ。事件の発端を作った者は部を出ていった。だが、大会出場が取りやめになって三年生の晴れの舞台は完全におじゃんになってしまっても部のキャプテンを務める海音寺はなんとかして思い出を作ろうと画策する。幸い全国ベストフォーに入った距離的に近い学校のスラッガーと知り合いであったため、そことの試合をやる方向に向かせようと巧の力量を見せて試合を執り行わせようとするのだが・・・。

感想

あさのあつこ初読み。所謂児童文学というやつです。『バッテリー』で第35回野間児童文芸賞を『バッテリー2』で第39回日本児童文学者協会賞を受賞しております。書店員プッシュをされていたので読むことにしてみました。よく置いてありますよね、平積みで角川の文庫の棚に。結果は・・・案の定というかやっぱりというか予想の範囲内に収まりました。しっかしハードカバーで糞重くて分厚い癖に内容がないから一冊にまとめろと。あと、この分量で10年近く(正確には大体8年だけどね)かかってることに驚き。量を書く作家の場合これ普通に一冊分しかないだろ・・・。なんで一冊書くのに二年近くかかってるんだか。それにハードカバーだと六冊で九千円近いなんて有り得ないわ。
以下ファンは読まない方が無難。
読み始めてすぐの違和感は地の文が誰主体で書かれているかわかりづらいってこと。唐突に視点変化するし、おまけに一体誰が喋ってるのかわからない会話文もよく出てくる。おいおいおい、大丈夫かよこんなんで。キャラも立ってないのに初っぱなからこんなんじゃ先が思いやられるって思ったけど、全編そんな感じ。巻を追っていっても進歩しているようには到底思えなかった。視点変化はただ文中で感想を述べるためだけに行っているようだから読者の混乱を避ける意味でやらない方が得策では?まぁ単一視点でやると見えてくる世界が狭くなっちゃうから仕方ないんだろうけどもう少しやりようがあったと思う。
では設定の方へ。青臭いのが好きな人はいいんだろうけど、私は年齢制限に引っかかっちゃったみたいだわ。心躍るのにはほど遠い。感情移入できないんだから仕方がないな。まぁ、すごい勢いでヤオイ警報発令中って感じですよ。こんな本をノン気に読ませたらあきまへん。主人公はなんというか、実に腐女子向けな感じだねぇ。性格悪くて孤高の人物でこと野球に関しては全能者(天才と言い換えても可)加えてちょっと天然ですよ。更につい本心とは違う言葉を口にしてしまうツンツンぶり。かと思えばナイーブさも醸し出していたりもする。未成熟な青い果実そのままですわ。こんなのが児童図書として、腐女子の英才教育用としてあるんですからそりゃあ腐女子が増える土壌があるわけだわ。ある意味理想的な性悪王子様キャラだからなぁ。不意に垣間見せる弱気にキュンとしてしまってハートゲットされちゃっても無理はない。*1
それにしてもホモソーシャル的すぎますよ。友情を描いているように思えて、あらぬ妄想を引き出すためにやられている場面とかが露骨すぎなんですな。女言葉でしなを作るキャラが多すぎる。そんなにカップリングさせたいのかよと。それは思いっきり作者の妄想方向へどっぷりつかろうとしているだけなんじゃないかと思えてしょうがないです。キャラクター間のコンセンサスの確認作業が男女の囁きになったり、愛の告白みたいになってたりと正直自分が自意識過剰になりまくってキョドってるように思えますが、多分これが正常な見え方なんでしょう。知識があるか、経験があるか、それによって随分と面変わりするもんですね・・・。正直これは腐女子にとっては萌え対象そのものですよ。ノン気の男同士が無意味に意識しあう、そんな微笑ましいライトな雰囲気ににくるものらしい、とこれはあくまで私の経験則に過ぎないし、また初歩の萌えの部類なので勘ぐり過ぎと捕えられがちだけど、足を突っ込む原因には十分なりうるよ。だってサドっ気あるキャラとか出してきてる時点でやる気満々でしょ。とりあえず、児童文学じゃなくてそれ相応の場所でやれと言いたい。低質の萌え燃料で評価されてるのはあくまで児童文学だからでしょうに。ホモネタはギャグでやるなら面白いけど、シリアスでやられると男は引きますよ。詩的な感覚で格好良さが引き出せてないとダメポ。
ま、それはともかく、物語としては指向性の低い部類だと思う。スピード感がないのと危急極まった切迫から生まれ出るキャラクターとの感情的な一体感なんかがないからボケボケーっていう締まってない感覚を覚えるね。キャラクターの葛藤を延々描いても仕方ないよ。てか、その手法は明らかに恋愛がらみじゃないと非有効。ただグジグジとしているだけで山場が無いから仕方がないのかもしれない。
あとはそうだな、野球に関してか。頼むからきちんと試合をしてくれ。しないで野球のなんたるかを語るのはやめてほしい。作者は試合の面白さよりもキャラクターの考えている事、それぞれがすれ違う様を描きたかったんだろうけど、それならば野球に拘ることは無かったんだよな。てか野球知らなすぎだろ。江川じゃあるまいし中一で140kmの球を投げる?加えてどこに投げても打ち取れる?大きい当たりを経験してないだぁ?どこのお山の大将だよ。そんなのアイドルはクソしないぐらいの夢見がちな設定はやめときゃよかったのに。野球に関してはリアルでは到底無いですよねぇ。ま、リアルである必要も無いですが。おもしろきゃ許せるけど、ここまで惚れた腫れた的な言い回しで終始させられると頭に来ますよ。
優れた投手は怪我との戦いでもある。アスリートなら当たり前の話ですな。きちんとリアルを求めたならば、その描写が欲しかったかな。ただ本当に優れた投手の場合は怪我をしないもんでもあるから難しい。それでも指のマメが潰れたり、爪が割れたりは十分あってしかるべきだと思う。てか、そこまで取材もしてないだろう頭の中での作者の野球像に期待するしても無駄か。
ま、ここまではそれでも許せる。積もっていっているとは云え所詮枝葉だ。しかし、最終巻の最後、勝ち負けは関係ないってか?まるで打ち切りになった漫画みたいに終わるのはどう考えても許せん。話の結末部分を放棄するなら始めから書くなと言いたい!最後まできちんと結末をつけるのは作者の義務だ。結局マルチエンディングを脳内補完しろみたいな終わり方は同人ならありかもしれんが、責任逃れ以外のなにものでもない。
まーこれではっきりしたのは児童推薦図書の場所からは出ることが出来なかった、それだけだな。
男性は読む価値無し。女性は萌えられるかもしれん。
20点/50点
忘れてたけど、これって典型的ビルドゥングロマンだわな。全然成長してないのがアレだが。苦悩しか描いてないからなぁ・・・。
久々に本を読んでガックリ来ましたよ。
蛇足:18.44メートルというピッチャーからキャッチャーへの距離を作品中に多用しすぎ。おかげで覚えてしまったじゃないか。即物的に同じ表現でごまかさない方が明らかに良かったと思う。てか、ここら辺が野球の説明の限界な時点でアレだが。
追記:『おおきく振りかぶって』と対比されることの多い本作だが、野球を描く事に関しては大きく劣っている。
なお、勘違いされそうなので書いておきますがが、ホモネタが全面的に嫌いなわけじゃないですのでお間違えなく。

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*1:巧は総受けキャラ確定だろ、これ