山田悠介 リアル鬼ごっこ

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あらすじ

西暦3000年、どう考えても日本としか思えない場所にその王国はあった。人口は一億人で科学技術はトップクラス。問題があるとすればその王国の百五十代目の国王ぐらいのものだろう。
暗愚な王は自身の姓が佐藤であり、その佐藤姓を持つ国民が500万人もいることに耐えきれなくなった。そして彼にとって明暗である一つの思いつきを実行に移すことにした。
「佐藤という名字を持つ者をすべて抹殺する」狂気に駆られたとしか思えないその計画は家臣に諫められることとなるが、「ならばゲーム感覚でやればいい」ということで実際に行われることとなってしまう。
100万人の王国の兵士が鬼となり、佐藤という名字の者を国民のデータバンクと直結させた機械<佐藤探知ゴーグル>で発見し、捕らえるというこの行為は「リアル鬼ごっこ」と称されて一週間にわたり毎日一時間実行されることとなった。捕らえられた者の末路は結局同じ、処刑されてしまう。
一方、幼少期に酒浸りの父親の家庭内暴力によって母と妹の愛と離ればなれになった佐藤翼は、短距離スプリンターの選手としてめきめきと力をつけていた。勿論彼も「リアル鬼ごっこ」の被害者となる佐藤姓の持ち主だ。父親は未だ健在だが嫌悪している。翼は七歳の時に出ていった母親が「必ず迎えに来る」と言ったことを十四年間片時も忘れたことはない。それでもやはり迎えは来なかった。恨むよりまず信じることを重んじた翼は母と妹がどうしているかを案じていた。
リアル鬼ごっこ」なる思いつきが世に発表されたとき、翼は母と妹が父と別れていてよかったと思った。父は佐藤姓だが、母は違う。狂気の宴に参加することはない。しかしそれが思い違いであることを翼は知らなかった。
準備は恙なく行われ、十二月十八日、午後十一時に「リアル鬼ごっこ」は開始された・・・。

感想

山田悠介初読み。徹頭徹尾虚仮にされ、貶されまくっている本作ですが、怖い物見たさの気分で読んでみることにしました。実際は弟が読んでみたいということで手にしてみたんですけどね。弟が先に読んだものの一切の感想は無し・・・。
なお、読んだ本は文庫ではなく、ソフトカバーの単行本の方です。文庫に収録される際に改稿を行ったらいいですが比べる気はないのでどうでもいいです。
一応この本が駄作であるという先人の意見をまとめてみると

  1. 文章が稚拙で下手であるということ
  2. 文章のセンスがないということ
  3. ストーリー構成が稚拙であるということ
  4. やおい(やまなし・おちなし・いみなし)であること
  5. 話の根幹に位置するアイデア・ガジェットが稚拙であること

この五点に集約されることとなるようです。
もう一方の褒める意見としては「疾走感がある」ぐらいでしょうか。
なお、短絡的に「つまらん」「時間の無駄」「小学生でも書ける」とかの意見が散漫にありますが、結局の所帰着点はそこではないようですね。最終的に否定的な意見が来たるべき場所は「結末に納得がいっていない」からだと推察されます。この作品は一種の闘争物で逃走物の二重意味を持つ話であるわけですが、「復讐の話」であり、「空虚な物語」に怒りがわいてきているのではなかろうかと思われます。
ただ、「アイデアが陳腐で短絡的で、論理的ではなく単なる思いつきのレベルを出ていない」事は確かです。これを否定すべき条件はないでしょうね。例えば西暦31世紀の話にも関わらず明示的な意味での社会的変容は一切なく、むしろ退歩的とも思える絶対王権をシステムとしている点、そして基礎的な部分では明らかに常識である「王権を持つ者に姓はない」という点や、氏(うじ)・姓(かばね)・名字(みょうじ)の違いがわかっていない点、そして何よりもどう考えても舞台が現代である点などは理解よりも先に諦めや怒りがわいてきても仕方がないでしょう。他にも矛盾点として王弟が王子であったり、その王弟が佐藤姓ではなかったりする点などもありますね。
常識的に考えれば、500万人の人間を100万人の人間で捕らえるとなったとしても一週間でどうこうというよりも、普通は革命が起こるわけですよ。内戦に突入してもおかしくないだけの状況なのに、一方的に狩られるだけなどそもそもありえないわけで・・・。それに高度情報化社会においては王権時代や幕府時代と比べて「明確な動機を持つ者」が反乱を起そうと考えた場合実に簡単に結束が可能になります。PCを持つ必要すらないです。携帯電話さえあれば絶対数がとてつもないわけですし、あっという間に乗っ取られる可能性は否定できません。なにしろ人口一億人の国において500万人ということは全人口の5%です。おまけに敵は100万人、1%に過ぎないわけですから数の理を働かせる事は可能かと。それにいくら現代戦闘が対人を考えた場合秀でているとはいえ、5倍の数を相手に市街ゲリラ戦となった場合はその限りではないです。全く持ってナンセンスですね。
ま、ナンセンスと言い出したら「リアル鬼ごっこ」という行為そのものが否定されちゃうわけですがね。そもそも佐藤という姓は一人だけでいいということになれば、決してその佐藤姓を持つ国民を虐殺するする必然性はないわけです。単に佐藤姓を国王以外全部別の姓に変えてしまえばいいわけですから。それに海外逃亡や離婚、海洋逃亡等は検討されなかったんでしょうかね。377,835k㎡もある日本の国土に海洋まで加えた場合、3.7k㎡以上に一人という割合では都市部なら兎も角、山野部では捕まえること自体が難しいでしょう。たった一週間ではとてもとても・・・。それに例え500万人も殺したとして、その人物を拘束しておく施設、死体の処理をどのように賄うんでしょうかね。
さて、少し見方を変えてみますね。その他にも心情的な拒否感は内在していることと思われます。その筆頭としては、けっしてリアルを感じさせてくれるわけではないにも関わらず、「リアル」という言葉を題に頂いていることではないでしょうか。どう考えてもフィクション筆頭としか言えないような内容なのは言わずもがなです。反発する気持ちが有っても仕方がないでしょう。
ストーリー構成については「先読みできてつまらない」との意見があります。ただ、そこまで悪くないようにも思えるのですがどうでしょう。結末でハッピーエンドというのは王道ですが、空虚感の漂う結末というのもまた一つの王道です。ノワールピカレスクなどと呼ばれるジャンルではごく普通のことですのでそこまで特筆すべき点ではないように思います。ただ、嫌いな人は嫌いなタイプの終わり方でもあるのでこれは好みの問題と考えるべきではないでしょうか。しかし、ガジェットの部分がすべてを駄目にしている部分は否めません。それでもなお、パーツパーツで見ていけばそれほど悪くないとも思うのです。疾走感(スピード感)は確かに有りますからね。
あとの残りは文章が稚拙であるという画一的な意見ぐらいですな。具体例を挙げてみます。

  • 「二人が向かった先は地元で有名なスーパーに*1足を踏み入れた。」
  • 「最後の大きな大会(「(大きな」で間違いとは言い難いが「大規模な」の方が良い))では見事全国大会に*2優勝」
  • 「もの凄く機嫌が悪く、不機嫌*3な顔をして」
  • 「騒々しく騒いでいる*4
  • 「罪として重罪*5が下される」
  • 「いかにも挙動不審な行動で*6
  • 「そう遠くなく*7、近いようだ」
  • 「十四年間の間*8
  • 「うっすらと人影がかすか*9に現れた」
  • 「しかし、洋の姿は何処にも見当たらなかった。何処を探しても、洋の姿は見当たらない*10
  • 「佐藤さんを捕まえるべく*11鬼の数である」
  • 「ランニング状態で足を止めた*12
  • 「遠く離れると横浜の巨大な*13遊園地ができた」
  • 「三人は分かち合うように*14抱き合った」
  • 「二人は鬼たちに目をとらわれていた*15
  • 「一人の鬼が瞳の奥に*16飛び込んだ」
  • 「九人の足跡*17がピタリと止まった」
  • 「記憶を全く覚えて*18いなかった」
  • 「永遠*19と続く赤いじゅうたん」
  • 「この話は人々の間*20とともに長く受け継がれていく」

日本語おかしいところは稚拙といわれてもしょうがないですな・・・。でも読み辛いってのはちょっと違う気がする。なんとなく意味は取れるからなぁ・・・。でも商品価値を持つまで至っていないという意見には「日本語がおかしい」と言われてしまうとまぁ仕方ないかなとは思いますよ。「他の作家への冒涜だ!」との意見も心情的には理解できます。でもこれ自費出版で世に出た本なんだよね・・・。なお、この「おかしい日本語」の部分を特に山田語とかいうらしいです。
結果としては、営業能力の高さで売れた本であるとしかいいようがないですね。こんな本がベストセラーになる今の出版業界はおかしいとか、日本の国語は大丈夫なのかと悲観する意見が結構多くて驚きでした。言葉の乱れっていうのは時代状況によって随分と異なることだし仕方ないっちゃー仕方ないと思うんですが。
おそらく多くの人にとっては壁本でしょうね。ただほとんどの小学生なら気にならないかと。
40点
疾走感は一応あるのでこんなもんですかね。洗練されるとどうなるかわからんけど・・・。
ああそうそう、何故かミステリーにジャンルわけされていますが、絶対にミステリーじゃないんで注意。
蛇足:調べてみると、「虐待を軽く描きすぎている」という意見もあり。
ネタパクリも沢山あるようだね。、バトルロワイヤルに明らかに影響されているのは言うまでもなく、日本テレビの「鉄腕DASH!」の「5人VS100人刑事」から近くに寄ると鳴る仕掛けが、同じく日テレの「ダウンタウンガキの使いやあらへんで」の企画からタイトルとその内容そのものをパクリ、唯一のオリジナリティであった同一姓皆殺しも過去に大陸であった事柄であったことがばれました。
李氏朝鮮において1394年に朝鮮王となった李成桂の命令で前王の系譜である王姓を持つ者を悉く皆殺しにするという事が有ったようです。でも実際に王姓を持っていた者は改姓を行い、難を逃れたとか。また逆説的ですが元王朝時代にはこの様なこともあったようです。
「伯顔(バヤンと読む、元朝末期の高官。漢民族の反乱の対応に苦慮していた)は元の順帝(元最後の皇帝、ばかとの)に『中国人(漢人)のうち、李・王・趙・張・劉の五姓の者を殺しましょう』と求めたが、皇帝は従わなかった」
ここで言う五姓の者とはすなわちかつて皇帝となった者が戴いていた姓です。割とポピュラーな姓でもあるので事実上根絶するのはむずかしかったでしょうねぇ・・・。なお、他にも中国の過去王朝で有ったようなんですがどうにも裏が取れませんでした。

参考リンク

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*1:にを取り除いて「であり、そこに」が多分正しい

*2:にを取り除いて「で」が多分正しい

*3:同じ言葉の繰り返し

*4:同じ言葉の繰り返し

*5:同じ言葉の繰り返し

*6:描写になってない

*7:「そう遠くない」の方が簡潔

*8:同じ言葉の繰り返し

*9:同じ言葉の繰り返し

*10:構成の問題。やはり同じ言葉の繰り返し

*11:「捕まえるべき」だと思うが文脈的におかしい

*12:いや、不可能だから

*13:巨大を沢山使いすぎ

*14:分けちゃったら駄目だろ

*15:「奪われていた」の間違い

*16:奥はいらない

*17:「足音」ね。もしくは「足」か

*18:同じ言葉の繰り返し

*19:永遠じゃなくてこの場合は「長々」あたりが適当

*20:「人々の記憶と共に末永く受け継がれていくことになる」が多分適当