新城カズマ サマー/タイム/トラベラー(1・2)

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あらすじ

卓人はその高校初めての夏休みを仲間達と過ごすことにした、というと仰々しいが例年通りの事だ。そのメンツは幼馴染みの悠有、お嬢様学校に行くことになってしまったお嬢様の饗子、一族が市政に携わっている医者のボンボンの涼、昔病弱で二歳年上の同級生だったけれど何故か伝説の不良とされているコージン、そして卓人の五人で新たに加わったコージンはすぐに溶け込めた。
この五人がやることは一般的なただの遊びとはひと味違っていた。<プロジェクト>と銘打たれたそれは生産的とは言いづらい事柄について、ただひたすらにつきつめる。今までは四人でこなしていたそれも今年は一人増えたことでひと味違っていた。
その<プロジェクト>が始まることになったきっかけはメンバーの一人悠有の奇矯な行動だった。饗子を除く四人は県立三原高校へと通っており、そこには代々続くマラソン行事があったのだった。そこで起きたことを正確に話すならばこうなる。
「ゴールのテープに接触することなく一度消えて、もう一度現れたときにはテープを超えてゴールした」と。
<プロジェクト>は饗子により提唱され、悠有の能力の分析と開発へと傾いていった。それが正しかったのか、間違っていたのか、それは卓人にはわからなかった。

感想

新城カズマ初読み。いろんな所で読まれているようなので手に取ってみました。
ネタはSFでタイムトラベル、そして青春物。要素的には好きな人多そうなんだけどなぁ。
一般的に言って学生時代(厳密に言うと学生は大学生を指すのでちょっと違うが)とタイムトラベルは相性が、そして親和性が佳いと思う。失われた楽しい時代と言うことでその時代を懐古したり、まだ現在進行形だったり幅広い読者を獲得も出来る。懐古する側からすれば必ずしも佳い思い出でなければそれを変えたいと思うのは至極当然ですら有るだろう。
ただ、残念ながらこの物語にはそういった潜在読者が爽快に楽しめるとは考えにくい要素が揃いすぎている。ガジェットがディティール不足で消化不良、衒学的な古典の引用でSFファンを、キャラクター造形でラノベファンを取り込もうとしているがどうにもどっちつかずでふらふらとしていないかな。それに登場人物の人物設計が平均的な高校生とは到底思えないわけだしなぁ。超人的な人物を描くのは別に佳いんだけど、それに見合うだけのシナリオ編成でもないわけで。
感想よりも考察が先に立ってしょうがないんだけど、この作品は作者が『蓬莱学園』の浮き世から遊離した異常性を引きずっている証左なのでは無いだろうかと思わざるをえない気がする。『蓬莱学園』は日常から離れた創作の世界で異常が日常といった世界観だからそれはそれでいいが、他の作品にまでその香り付けをする必要性は無かったんじゃないかなぁ。つまり『蓬莱学園』の亜流を再びやろうとしているだけなのではないか?そういった疑念は考えすぎでは決してないだろう。
作品を読んでいて気になるのは何故か主人公は直截な形で物語に介在せず、絶えず婉曲的に傍観を決め込んでいる点かな。中心から外れた場所でぐるぐると回っている印象が拭えない。更に衒学的な内容が場を占めると真に読者をのめり込まそうとは考えていないように思えてしまう。感情的に物語らないストーリー、一人称視点なのに神視点というなんとも奇妙な地の文は感情移入するには少々厳しかった。加えて衒学的なのはまぁいいとしても、それをきちんと消化できるだけの物語のリズムが形成されないままに、ずるずると話がのびのびになってるのと、引きを無駄に作る必要性がどうにも感じられなかったのが低評価の原因か。思わせぶりな台詞がどうにも癇に障る。
しかし、このあたりは凡て単なる一要素に過ぎず、決定打では決してなかっただろう。決定打となったのは結末部分だ。先に置かれてきた思わせぶりな部分がカタルシスとして結実する場面において唐突すぎる点、そして優柔不断以上のなにものでもない関係の破綻があれでいいのか?という疑問、そこに収斂されるだろう。結末に納得がいかないというより、その手段に手を抜いているように思えた。
結果読み終わった後に私にとって感慨と呼ぶ物が湧かなかった。怒りでも喜びでも悲しみでもない。悲哀でも哀れみでも楽しさでもそして笑いでもなかった。清々しさも言いしれぬ余韻もない、ただそこに存在したのは無関心という名の諦観だけが横たわっていたように思う。労力を費やしてそれではあまりに報われない。
正直言ってこの小説を評価できるのは作中に登場する同世代の人物くらいなのでは無かろうか。書かれるのが、読んだのが遅すぎたのではなかっただろうか。ペシミスティックでニヒリスティックな時代には佳いかもしれないが、はしかが過ぎ去った後には合いそうにもない。
そう、寂しすぎるのだ。ロマンチックかもしれないが満足にはほど遠い。人は分かり合えないからこそ話をするのであって、それを放棄してしまうのは問題外に思える。「こうなるだろう」という予測を覆すのが希望だ。本作においては希望は一片のロマンチシズムに打ち砕かれてしまった。
35点
追記:作中に登場するザールヴィッツ=ゼリコフ症候群(SZS)は当然架空の病です。ザールヴィッツは『蓬莱学園』のノベライズに登場する人物みたいですね。
しっかし鶴田さんは全然進歩しないなぁ・・・。味があるっちゃあるんだけど、ぬぼーっとした絵柄にはどうにも馴染めないわ。

参考リンク

サマー/タイム/トラベラー2
新城 カズマ
早川書房 (2005/07/21)
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