アンソロジー 赤に捧げる殺意
あらすじ
- 有栖川有栖 砕けた叫び
- 折原一 トロイの密室
竹内正浩と葉山虹子が雪山の山深い洋館で遭遇した起こった殺人事件
- 太田忠司 神影荘奇談
野上英太郎と狩野俊介が喫茶店で出会った人物が語った一年前に遭遇したという不気味な洋館にまつわる話
- 赤川次郎 命の恩人
新幹線に轢かれそうになった娘を救った男の裏側
- 西澤保彦 時計じかけの小鳥
小学校時代によく行った書店の前店主が何故死んだのかを高木奈々が一人解決する話
- 霞流一 タワーに死す
映画の撮影現場で特撮用のミニチュア東京タワーで男が背中から腹に向かってモズのはやにえの如く死んでいる様が発見される
- 鯨統一郎 Aは安楽椅子のA
アンナは両親を亡くし、おまけにようやく手に入れた勤め先すらも失おうとしていた。なんと両耳の聴力が唐突になくなってしまったのだ。だが、そのおかげで無機物の声を聞くという能力を得る・・・
- 麻耶雄嵩 氷山の一角
薬袋三条とメルカトル鮎はメルカトルの提案により、その格好を交換して探偵役を薬袋が行ってみることになるのだが・・・
感想
珍しくアンソロジーです。西澤保彦がらみという点で借りたのですが、後でアンソロジーと気がついたトホホな前歴があったりします。
でも、未だ見ぬ有栖川有栖、折原一、太田忠司、霞流一、鯨統一郎の話が読めて佳い試金石になったのじゃないかなぁとかいい方に考えることにしました。それにメルカトルシリーズにまだ手をつけていない麻耶雄嵩の話も読めることですしね。
うーん、アンソロジーとしてもこの本は、作品毎の方向性にあまり統一感がないですなぁ。それもそのはず、巻末に書いてありましたが他のアンソロジーの再録という経緯があるからなんですわ。それぞれ四つのそれぞれ方向性が決まっているアンソロジーから適宜抜き出して作った本というわけです。題に偽り有りとまでは言いませんが、決してそくしているわけではないです。そも、誰が編集しているのかさえわからないのもなぁ。再録の基準はいったい何だったのだろうかねぇ。対になる『青に捧げる悪夢』ってのもあるけど何が言いたいのかいまいち理解しかねる感じかな。
全体として枚数制限が話の骨子を作るところまでで押しとどめてしまっているために推理段階まで急ピッチで話が進んでしまい、伏線の仕込みと使い方がちょっと短絡的にならざるを得なくなっている感じが見て取れますね。その為に妙にこぢんまりしてしまう作品が多いように感じました。
本書の8作品中6作品が名探偵物ってのはちょっと偏ってますねぇ。
今後普通に合いそうだなと思った未読作家は有栖川有栖、鯨統一郎の二名。でも有栖川有栖はクイーンの国名シリーズとか先に読んでおいた方が良さそうなのが難点かな。鯨統一郎は毛色の変わった話を書くようなので、ミステリだけに縛られないジャンルのクロスオーバーに期待が持てそう。
誰とは言わないけど、犯人が犯行を認めた後に道徳話をするのは辞めてほしいなぁ。清廉潔白であるから言えるだけだろうに。
ま、未読作家の方向性を探るという*1事が出来たので僥倖かね。
全体として完成度が高い作品ばかりでなかったのはしょうがないかな。でもリーダビリティが高い作品が収められているのはいい点だろうなぁ。
60点
参考リンク
*1:多分これで判断するのは早計なんだろうけど