西澤保彦 依存

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あらすじ

いつもの四人組ウサコ(羽迫由起子)・タック(匠千暁)・タカチ(高瀬)・ボアン先輩(辺見祐輔)はタックをお気に入りとしている白井教授の言で同じくお気に入りのアイドルであるルルちゃんこと木下瑠留の誕生日を祝う為の集まりを開くことになる。ルルちゃんが自宅に帰省しているなど紆余曲折あり、白井教授の家に着くことになるのだが、かつて一度タックが来ている家は様変わりしていた。離れを書庫として、そして防音用に加工してあると言うことでそこで酒宴を行うことになるのだが、タックはそこで白井教授の奥さんがかつての奥さんとは違う人に気がついた。丁度一年数ヶ月前に教授のお宅を訪問したときとは別人というのは佳いとしてもタックはそのことに顔色は青ざめ、怯えているようだった。
酒宴が終わり静かになった明け方。ウサコはむっくりと起きあがり、回りの惨状を眺めた。見渡したところタックとタカチが居ないようだ。不審に思い、ウサコはパティオのあたりまで二人を捜しに出たのだが、ちょうど二人はそこにいた。二人はどうにも深刻な話をしているようで出るに出られなくなったウサコは二人の話を盗み聞きをすることになってしまう。好奇心も勿論あったろう。でも聞かなかった方がよかったのかもしれない。
タックは訥々と語る。
教授の奥さんは美也子さんといってタックの生みの母であること、そしてタックの双子の兄である千治を殺したと言うこと・・・。

感想

西澤保彦初読み。大ポカをしてしまいました・・・。またシリーズ物を途中から読み出すという愚を犯してしまったわけで・・・。しかもまた、この本中々面白いんだものorz。悔やんでも悔やみきれない。ちゃんと著作リストは読もうよ自分。ちなみにこのシリーズは匠千秋シリーズという物らしく、既刊として

  1. 解体諸因
  2. 彼女が死んだ夜
  3. 麦酒の家の冒険
  4. 仔羊たちの聖夜(イヴ)
  5. スコッチ・ゲーム
  6. 依存(本書)
  7. 謎亭論処(めいていろんど)
  8. 黒の貴婦人

があるらしい。新しい方に属する方から読むってのは後々後悔が高まりそうだなぁ・・・。
ま、なんにしてもこの作家のリーダビリティの高さは一体なんですか?一人称で進む地の文は元々三人称より読みやすいということはありますが、それをさっ引いても言葉遣いが実に巧みです。作者の年齢を考えれば非常に若々しい感性の持ち主なのだろうなぁと想像されます。言葉の機微は軽妙でスパイスとしての軽口が気持ちよいです。嫌味のない、読者を明らかに愉しませようとする文章は久々ですわ。他の本に目を通してないんであれですが、多分こういうスタイルが常態なんでしょうなぁ。読みやすさで言ったら赤川次郎並かな。でも赤川次郎と違うのは裏打ちされた構成の巧みさでしょうね。赤川氏は結末やらあらすじやら筆の赴くまま、ロジカルな形での終結よりも意外性をとってしまう人ですから。これはこれ、それはそれと二分して考えるべきなんでしょうな。
全体として「依存」というキーワードを元に物語は進行していくわけですが、マトリョーシカ方式とでも云えば佳いんでしょうか、一つの構造が例として出るとそれを元に他の事柄に結びつけれる要素の異なった同じ構造が出現します。「SEX」「アルコール」「ストーキング」と何かに「依存」している登場人物達はちょっとしつこいぐらいです。非常に面白い作品ではある物の、あまりにもしつこく同じ構図を繰り返すために、長々しい説明が不要なほど直感的にシナリオのあらすじが見えてきてしまうのです。ロジックを大切にしているのにそのロジックが無くても内情が透けて見えてしまうというのは作者策に溺れる、演出過多が徒になった感じですかねぇ。もうちょっと整理した方がよかったんじゃないかなぁと思わずにはおれません。
あと苦言を呈するならば、本筋とあまり関係のないジェンダー論が余分に感じましたね。これが有ったために元々重い話が更に重くなった気がします。でも、もしかしたらタカチはいつも出てるみたいだから、初めから読んでる人は「はいはいわろすわろす」でスルーする部分なのかもしれない。そこんところがわからないのが痛いなぁ。
なお、本作はどちらかと言えば、ミステリ内分類の「日常の謎」の系統です。「日常の謎」を得意とする作家では北村薫氏というより倉知淳氏に近いですね。
シリーズを初めから読めなかったことは悔やまれますが、西澤保彦氏とは末永い付き合いをしていきそうだなぁと思いました。
80点
蛇足:ウサコの好きな相手はやっぱりタカチにしか思えないんだがなぁ。

箴言

ボアン先輩曰く
「所詮男には、ほんとうの意味での女の怖さは判らない。女の怖さを知る者、それは女さ」

西澤保彦『依存』より

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メモ

ネタバレ含むかもしれんので見ない方がいいと思う














































ウサコがストーカーって下りは気持ち悪いわ。友人を利害関係だけで見るようなもんだし。ま、それはそれとしてまたネタが境界性人格障害ですか。しかも親の美也子だけじゃなくて、息子のタックまでそれに近くなってる。タックの場合乖離障害ですか。これが物を所有したくないという事に繋がるのかな。果たしてこの話に結末がついたことによって快癒しているのか否かがちょっと気になる。
レズは見る分にはいいですが、近くにいられると困りますね。偏見じゃなくて実体験から。頼むから人の女とらないでくれよorz。男より女の方が好きっていうバイな奴と付き合ってたのが悪いのかもしれんけど・・・。
職業柄「SEX中毒」とかいう病気はキャッチにしか思えないんだよねぇ。確かに病としてあるのはわかってるけど・・・。
「自分が受けた仕打ちを子供にする=虐待」という負の連鎖が元になってる話だからどうにももの悲しいねぇ。