乾くるみ Jの神話

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あらすじ

全寮制のミッションスクールの純和女学院に入学した坂本優子は絶えず飾られる花などからかつて自殺者がいたことを知る。それというのも上級生の優子に対する視線がどうにも落ち着かないせいであった。犠牲者の雰囲気は優子と似ていたらしい。細部で考えると優子には似ていると思いにくいが、同じく「信仰組」と呼ばれるクリスチャンであったという。ミッションスクールであってもクリスチャンが特別多いわけではないので、どうしても目立つのだ。その自殺した人物の名は親しくしている一個上の桜井さやかに聞いた。安城由紀という名前に引っかかるような点は何処にもなかったが、クリスチャンが自殺する、そのことがどうにも気になった。
純和女学院は全寮制の女子校だけに若い男生徒の接点がほとんど無いため、どうしても学内での偶像は同性になってしまう。とは言え、第一のアイドルである生徒会長の朝倉麻利亜は同性から見ても才色兼備であこがれを持つのが不自然でないほどの人物である事は確かだった。生徒会に属する人物は成績がいいのはもちろん外見も並より上だ。それはそれとしても麻利亜はそんな中においても一人群を抜く美貌を誇っていた。
そんな麻利亜が突発的に死んでしまう。死因は正確には公表されず、ただ病死とだけ周囲に通達されたが、警察が来るなどの騒動になった。その渦中で生徒会は支柱を失い、空中分解して二つの派閥が構成されるようになった。一つは旧生徒会の派閥、もう一つは優子と同じ一年生の高橋椎奈を担いだ派閥だ。高橋椎奈は優子が入学時に初めて会った同級生だった。二人はとても親しくしていたが、優子と椎奈のそれぞれの思いには違いがあった。優子は友情を、椎奈は愛情を覚えていたのだ。椎奈は優子にその思いの丈をぶつけているのだが、優子にはそれに答える事が出来なかった。以来二人の関係はぎくしゃくしていた。
優子はひょんな事から二つの派閥の対立を目にしてしまい、そこで「ジャック」という言葉と、麻利亜の死の不審についての話を聞いてしまう・・・。

一方純和女学院の外では朝倉麻利亜の両親が一つの決断を下していた。その決断は≪黒猫≫と呼ばれる凄腕の探偵、鈴堂美音子に連絡を取らせていた。麻利亜は死んだ。だが、その一年前に麻利亜の姉である百合亜も死んでいたのだ。朝倉剛蔵は二人の娘の相次ぐ死に疑問を持ったのだった。彼は≪黒猫≫に「二人の死の原因の調査」を依頼する。≪黒猫≫は独自の調査の中でやがて「ジャック」という言葉にぶつかるのだった。

感想

乾くるみ初読み。なお本書で第4回メフィスト賞を受賞。作者は専業でやれるほど稼げていない模様。年二冊かいてようやく年収が七桁にのったとかいう話を聞いた。ちなみに名前は「くるみ」で女性的だが、中の人は男性らしい。一応覆面作家とのこと。
正直言って本作はミステリとは言い難いと思う。メフィスト賞はミステリに限らないので仕方のない話ではあるのだけれど・・・。ミステリジャンル内でも推理方向ではなく、サスペンス・スリラー方向だね。なお内容的にはエンタメなのだけど、少しばかり筆の方向性が古い気がしないでもない。多分リアルを感じさせる内容に遠かったのだと思う。年代不詳な物語ということかな。しっかし、細かいことをツッコミ出すとあまりにもすぐにネタバレに直結してしまう厄介なストーリー故、くわしくはネタバレ参照にならざるを得ないので端的に。先に言っておくと「Jack the Ripper」の『J』では決してないです。一言で言えばSFミステリでセクシャルバイオレンス*1大藪春彦になるかな。SFミステリをホラーに変えても可。うーんこれだけネタバレしちゃうとそれだけで危ない気もするが・・・。なお、これで完全に作品の印象を網羅できているわけではないので過信は禁物。
ちなみに作者の他の作品ではミステリの色濃いものが出ているために、本作は異色であると言えなくもない。元ネタはどうやら竹本健治の『眠れる森の惨劇』らしい。らしいというのはあくまで又聞きでことを示していて確証はないです。作者は竹本健次をリスペクトしているらしく、同著の『匣の中の失楽』からのパロディである『匣の中』なんかも書いたりしています。竹本健次の作品は手を付けてないので何処がどうという点についてつっこめないのが悲しいところ。
しかしまぁ、似たようなネタが世に出てヒットしてたりする所からするとこれでデビューさせた編集部も肝が太いなぁと思ったりする。ストーリーの意外性は相当な物だけど、ネタがネタだけに一歩間違えば完全にギャグになってしまう話だしね。それがギャグにならないのは地の文からにじみ出る切迫感や物語を補強する存在感がしっかりしているからだろうと思う。
決して手放しでは喜べない作品だけれど、マニア・ライトユーザー両方が読んで両極端な評価のメフィスト賞受賞作品らしい作品だろう。個人的には嫌いじゃないね。SF方向に話を進めるならばもっと説得力が欲しいところだけれど、デビュー作だし他の作品の出来は悪くないとのことなので今後に期待。
70点

参考リンク

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ネタバレ

未読の場合は読まない方が吉
愚痴とも言う





















































というわけで、ネタバレ込みの感想をば。
読み始めでちょっとビビリましたよ。正直に言うと
「これなんてマリ見て?」
と思ったぐらいですから。ちなみに『マリア様が見てる』が小説として世に出たのは『Jの神話』が世に出た二ヶ月後ですから被ってるのは向こうの方だったりするわけですが、この際気にしない方向で。ふつうの感想の所に書いた『眠れる森の惨劇』は内容からして「ミッションスクールの女子寮で起こる惨劇」らしいので、完全に元ネタとして考えて良さそうなんですが、やっぱり実際に読んでないもんだから気になりますね。
なお、他に被ってるネタとしては『パラサイト・イブ』でしょうかね。染色体とミトコンドリアの違いはあれど、普通の人間以外が知性を持つという内容は似てますから。しかしまぁ、SF的な方面からみるとYYの染色体がどうのこうのというのは読者を舐めてますね。やっぱりSFやるならきちんと虚実を紛れ込まさなきゃ。染色体については普通有る程度の人が常識として知っている以上、もっと細かいネタでやらないと興ざめしちゃう可能性が高いしねぇ。ベースの性染色体がYYだとそもそも生存できないっていう事実を蔑ろにしてるのはちょっと問題かと。それに、染色体異常は必ずしも絶対じゃないにしろ何らかの欠陥を持ってるもんです。それが知的な面にしろ、肉体的な面にしろこれはほぼ確定。加えて染色体異常の場合は軒並み生殖能力がありません。Jとして出てくるYY性染色体生物が生殖行動を取るというのは合点がいっても、終章に描かれているような自身での生殖を行うというのは甚だ超展開。マクロな世界に生きる生物がミクロな世界での現象をなんら機材を用いず行うというのは流石に無理がないかねぇ・・・。それでなくても

  • 人間に取り憑く
  • 取り憑いた人間を支配コントロールできる
  • 離脱された人間は死ぬ
  • 媚薬効果を持っている
  • 形はペニスそっくり

どう考えてもエロゲです。本当にありがとうございました。って感じだからなぁ。いや、エロゲが嫌なわけじゃないんですよw。でも、ファンタジーエロスの常套手段のふたなり触手なわけですよね。これミステリのそれも推理物読もうと思った人には流石に勧められないでしょ・・・。生徒会が性奴会とかありえないからw。
個人的には結構好きな部類に入るんだけどねぇ。エログロバイオレンスは読む人を選ぶよ。
エンディングはエロゲのバットエンドを彷彿とさせてたり、これもしかしてわざとやってないか?

*1:極度の銃・狩り・車・バイク関連の蘊蓄を除く