岩井俊二 リリイ・シュシュのすべて

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あらすじ

ネットの海にたゆたう芸能人のファンサイト、その中の一つに「Lily holic」がある。このサイトはリリイ・シュシュという歌手のファンサイトなのだが、元々「Lili-philia」という同じくリリイ・シュシュのファンサイトが無くなったことによってかつての常連の一人であるサティによって作られる事になった。「Lili-philia」の管理人フィリアはリリイのライブで刺殺事件が起きた時以来全く音信が取れなくなっていた。丁度そのライブの時にOFFが企画されていて主だった常連が一堂に会したのだが、ちょっとした茶目っ気から目印は決めていてもお互いに声をかけないという制約を科されていたので目視される程度だった。常連は殺された人物がもしかしたらかつての管理人フィリアであったのではないか?と疑いを持っていた。
「Lily holic」が開かれて以来、「Lili-phila」には続々とかつての常連、そして熱狂的なマニア、自己主張の強いアンチが引きつけられていった。そこのやりとりで判明したのはフィリア以外にも青猫と名乗っていた人物の音信が完全に不通になっていることで、ネット上で疑似恋愛を繰り広げていたふゆという常連も連絡が取れないらしい。果たしてどうなっているのだろうか?

感想

岩井俊二の本はこれで四つ目ですね。もう読む気は無かったんですが、弟の本棚に有ったので読んでみることにしました。
しかしまぁ、電波具合のレベルの低いこと低いこと・・・、これがリアルと言い切ってしまうアマゾンの書評にびっくりですよ。映画化されたそうなので、映画から入ってこの小説を読むって人が多いみたいですね。まぁ、この本は音楽とは切っても切り離せない内容なのでサントラ聞きながら読むのが妥当なんでしょうが、わざわざサントラ引っ張り出してくるのも面倒なので放置。
ちなみにどんな形で話が進行しているかというのを内容説明しておくと章の始まりに歌の歌詞が来て、本文はBBSをそのまま載せるって形ですか。元々このBBSは実在するサーバー上に解放された形で運営されていて、誰でも書き込むことが出来るようになっていたそうです。そこに不定期連載として「リリイ・シュシュ」ファンサイトの常連が書き込むって形になってたそうですね。発想は悪くないんだけどどうにも微妙に感じてしまうのは、熱狂的と言うより偏執的なファンサイトの内部のドロドロした感覚を全然感じないからですかね。そこら辺にリアルが欠けているんですよこの本。2001年というと私はそういう内部がごちゃごちゃしつつアンチとファン、そしてファン内部の派閥抗争みたいな事を繰り広げているサイトを趣味で観察してました。大抵その時は2chでも恥部として扱われているネトヲチ板が叩いたり、揺さぶりをかけたり多数してましたから手頃な娯楽としての人間観察には事欠きませんでした。まぁ褒められた事じゃないのは確かですが、あくまで傍観者としてROMってましたから実害のないところですし、何よりネットの暗部はそう言うところにありましたしねぇ。
そう言うところを見て回ってきた感覚としてはどうにも荒らされている感じが作り物めいているし、ジサクジエンの手口もかなりあからさま。それに投稿日時を見てると推敲以前に投稿時間が目茶苦茶短時間になされてたり興ざめ。あらかじめテキストを打ち溜めてペーストしているって事だもの。それにチャット状態になるってのは相当ヒートアップしてないと無理だしねぇ。確かに多少ヒートアップしている場面もあるが、ほとんど単なる煽りだしなぁ。後は異分子、新参者の排除としてはもっと普通は上手く処理されると思う。
その他荒らし行為の基本のscript荒らしやらコピペ荒らし、HPのCrackもないし、管理人が反撃としてリモートホスト晒しやら、串の制限もしない。パブリックスペースだけじゃなくて、閉鎖的傾向があるファンサイトの場合、多くは常連専用のPASS付きBBSが備えられていることも多いのにそういった行動も取っていない。そもそも厨房行動だけで成り立っているファン達が集うイタイ感じのファンサイトなのに叩かれない方が不思議っちゃあ不思議。一応メジャーな歌手でメンヘル系ならばファンと同数アンチが居るのが普通だからねぇ。ま、小説のご都合主義って奴ですか。
あと、この本は前半部分がライブの時に誰が殺されたのか?そして犯人は誰なのか?っていう推理が主題になっている。だが、推理推理と探偵役が言うけれど、お前の言っているのは予断の過分に含まれた単なる邪推だろうが。それで推理を口にするなんておこがましいにもほどがある。本格ミステリを書いている作家達にあやまって欲しいぐらいだ。そもそも数千人単位で集まっているライブ会場で無数にあるファンサイトの一つの登場人物が殺人事件にからめられるのはありえない。この場合は偶然と言うより単に必然、理由が有ったと見なした方が楽だわな。でもまぁこのノリで終了した方がよかったと思う。正直後半は蛇足。
後半部分はライブでナイフによる刺殺を行った人物のリアルの話。青春小説によくある傷つきやすい子供達って形で社会問題を詰め込んでますよっていう大雑把な良い例。兎に角不幸が連鎖すればいいやっていう投げっぱなしな形になっているし、リリイの詩がどうのこうのと日頃から散文詩を読んでる人じゃないととてもじゃないが楽しめるとは言い難い。それに大前提としてそんな暢気に自分語りなんかしてて佳いのか?普通通報されてHP閉鎖だろ。えらい長いスパンかけて自分の苦境らしきものを綴っているけれど全く抵抗しないで無力だ無力だと喚いてるだけのガキは胸くそが悪くなるばかり。それに一応体裁はBBSなんだから自分語りが始まってからも茶々入れがあってしかるべきなのにそれを載せないいさぎの悪さ。まったくもってリアルってなんなんだよ!とこちらが問いたい感じです。
でもこういう内容ならメンヘルな中学生には受けそうな内容だね。人生経験が希薄でTVドラマやニュースで取り上げる問題が周囲で蔓延しているという事が普通だと思っている薄っぺらさとダウナーな感覚。別に格好良くもないのになぁ。
映画を見たならば、サントラを聴いたならば評価も変わるのかも知れないけど、本単体で考えると思索にふけれる人向け。というかそれ以外だと中学生ぐらいの感性を持続してないとダメな気がする。良い例が私。感性がすり減って居るんだろうね。
45点
あら探しばっかしてて大人げないね・・・。
追記:「エーテル」って概念が出てくるけど、全部「電波」に置き換えても問題ないね。

参考リンク

リリイ・シュシュのすべて
岩井 俊二
ロックウェルアイズ (2001/09)

リリイ・シュシュのすべて
岩井 俊二
角川書店 (2004/02)
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