倉知淳 占い師はお昼寝中

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あらすじ

占いという山っぽい仕事をしている叔父の辰寅と母親から言いつかって叔父の面倒を見る為に叔父の元でバイトをしている姪の美衣子の織りなす短編集。

  • 三度狐

依頼人は一流商社のサラリーマン。依頼の内容は失せ物が三度続いていること、近々上司が出世して芋づる式に自身も出世する見込みだと言うこと。辰寅は言う、これは武蔵乃國怪異志記に出ている「三度狐」であろうと。

  • 水溶霊

依頼人はヒモ付きのキャリアウーマン。彼女が外出するときによくポルターガイストが起きているという。化粧品のビンの蓋が開け放たれていたり、皿が割れたり整然と並んでいたり。辰寅は言う、これは古くはヨーロッパで『水に溶け馴染む物』と表記される「水溶霊」であろうと。

  • 写りたがりの幽霊

依頼人は女の尻ばかり追いかけていそうな三流大学の大学生。旅行先で使い捨てカメラで撮った写真に心霊写真らしい物が写ったから見てもらいに来たと言うことだ。辰寅は言う、これはよくある自爆霊だと。

  • ゆきだるまロンド

下町で専業主婦をしているという依頼人。ここ最近まるで自分が二人いるような感じらしい。銀座の宝飾品店に手袋の忘れ物があったり、町内会長の奥さんは町内で行く旅行の方で依頼人が直に断りに来たとか、ウワサの上で町内では依頼人が旅行に行ったことになっていたり・・・。辰寅は言う、これは雪だるまの仕業だと。

  • 占い師は外出中

辰寅は同業者に不幸があったとかで今日は留守。その留守の隙をつくようにちゃきちゃきの江戸っ子の爺さんとボケ老人らしい爺さんの二人組がやってくる。兎に角美衣子を連れ出して除霊の祈祷をして貰おうとするのだが、叔父の真似をする事を思い立った美衣子はこの場でなんとかして相手の状況を聞きその場に行くことなく解決を図ろうとする。

  • 壁抜け大入道

小学六年生の男の子の父親は小さな板金工場に勤めているらしいのだが、そこで二百万円盗まれたという。その男の子は父親がそんなことをするわけはないし、その日は一つめの大入道が工場を蠢いていたのを見ていたという。大入道は壁抜けが出来るそうだ。基本は占い師だが、看板には除霊やらと書いているからそれを目当てにやってきたのだが・・・辰寅はそれをお茶を濁すようにして帰してしまう。「警察沙汰に占い師が出ていっても出来ることはない」だそうだ。美衣子はそんな薄情さに腹を立てて一人で解決しようとする。

感想

倉知淳はこれで五冊目ですな。ただ、今まで読んできた猫丸先輩シリーズとは違った短編シリーズです。占い師辰寅シリーズとでも名付けるのが良いんでしょうが、この本に出てくる物語はミステリーと呼ぶにはちょっとその謎と解法が簡単過ぎやしないかと感じずにはおれません。創元推理に掲載された頭から四編は説明されるまでもなく呼んでる途中で自明になっちゃうんですわ。正直「ああこりゃあ失敗作だ」と思わなくはないですが、対象読者が違うのかなとも感じます。多分オカルトとそれを否定するという点で小学校高学年〜中学生ぐらいをターゲットにしてるんじゃないかなぁ。ただ、クライムクラブノベルは学校の図書館に置いておけるような本なのか?とも感じます。シリーズとしては読んで読めない物ではない作品が多いんでしょうが、わざわざ購入して置くことは多分しないでしょうね、題名の通り犯罪を取り扱ってる本も混じってますから。ってことは出す媒体が間違ってるんじゃないのかなぁ。ポプラ社あたりから出してれば読まれる可能性は有ったんでしょうな。
このミステリーの謎解きにそこまで慣れていない私ですら分かっちゃうんですからその簡単さは言うまでもないでしょう。故にあらすじは最低限に抑えてあります。
なお、書き下ろし作品の後ろから二編は水準作ですからそっちから読むってのも一つの選択肢。といってもそこそこってのが佳いところであんまり褒められない感じではあります。
解説で栗須一氏が述べてますが、至極簡単になった京極夏彦京極堂シリーズってのは当ってますね。ただ、見得を切るような台詞回しや滔々と流れるように出てくる詭弁、蘊蓄の類は無し。少しの妖しさと「この世の中に不思議な物など何もない」って道理を説くだけ。ほんのりと匂いを嗅ぐばかりなりってとこでしょうか。京極の詭弁蘊蓄の長文がいやだけど雰囲気は嫌いじゃない人や関口巽が嫌だから読まない人などはオカルト的なミステリーの味を経験する意味で本書を読んでみても佳いかもしれませんが、私にはこの本の内容は倉知淳の本領発揮とはどうも思えないんですよね。
確かに作者の趣味の人間観察から生まれた話だとは思うんですが、ちょっとこれでは掘り下げが浅い。講談社に猫丸先輩シリーズが拾い上げられたのに対し、こちらのシリーズは続いてはいないようですからやっぱり世間的に評価は低いんでしょう。中年の叔父と大学生の姪という間柄の解決する人、その解決方法を聞く人、そして日常の謎系ミステリーという対比では実に北村薫の円紫師匠シリーズに似てますが、円紫師匠シリーズが高尚だとするとこちらはどちらかというと俗ですわな。何も高尚が佳いとは言いませんが俗っぽさを演出する方法が帯に短したすきに長しな感じは否めません。馬鹿馬鹿しさなり、恐怖を喚起させるような内容なりもっと大げさな演出が必要でしょう。その意味でこの本は習作って所でしょうな。作者の本はすべて読みたいって人以外はスルーして構わないかと。
50点

参考リンク

占い師はお昼寝中
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