藤原伊織 シリウスの道

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あらすじ

広告代理店に勤める辰村副部長は中途入社の戸塚秀明のお守りをこのところの主な仕事としていた。戸塚は現閣僚の大臣の息子という奴なのだが、それとは関係なく、努力家で見所のある奴だった。一度聞いたことをしっかりと頭に入れて、二度目の失敗をしない。むしろお守りというより巣立ちまで面倒を見ると言った方がいいかも知れない。
そんな戸塚から不安そうな声でカタログライフ社からテレビ局のCM番組を途中で降りるという話を聞かされた。テレビ業界では契約は普通2クールなのだが、先方はそんな話は聞いていないという。最悪の場合も想定しなければならない。辰村は戸塚に先方を説得するためのアポを取らせた。一方で、元上司に話をつけて、万が一の場合のカタログライフが降りた後の後釜のキープを頼んだ。
万事この調子で華やかなはずの広告代理店というこの世界では人手が足りない。カタログライフ社を契約まで漕ぎ着けることの出来た功労者の野崎は大量の吐血をして一月先まで病院から返ってくることは出来ない。色々あって戸塚にはカタログライフとの交渉を任せることになった。
日々はこうして過ぎていく。燦然と輝くシリウスの星の下で。
シリウスという言葉では大阪時代の幼少期の事が思い出される。東京から転校してきた辰村祐介には二人の友人が居た。勝哉と明子だ。明子は勝哉と祐介をまるでシリウスのようだと評した。

感想

藤原伊織4冊目ですかね。最新作って奴ですが、原稿が挙がってから本になるまで半年かかってる希有な本です。多分相当手が入った上にゲラチェックも綿密にやったんでしょうねぇ。というか、週刊誌に連載されていた当時のことはよく分からないので、どの程度違うのか全然分からないわけですが、単行本という形になっているので読めば佳いんですがね。普通発行される迄ってそんなに長いことはそもそも無いじゃないですか。大体それぐらいしか見当がつかないですねぇ。ま、作者の遅筆は有名なんでやっぱり加筆なのかな。でも裏書きには加筆の言葉は無かったしなぁ。ゲラチェックだけで半年じゃあ長すぎるような。
さて、本編について行ってみるか。読み始めにはまず疑念が生じました。広告代理店特有の専門用語の羅列と説明を徹底して廃している点、更に株に関する専門用語まで出てくる。これらは読み手の知識についての可読性を廃しているのではないか?つまるところ駄作なのかも・・・、っていう疑念ですな。でも疑念は確信へと変わるかに思えましたが、方向転換してどこかへ行ってしまいましたよ。残ったのはそう、『テロリストのパラソル』の時の懐かしい感覚。古きことは佳きことかな、素晴らしきことかなと説く内容。「一期一会」と「雀百まで踊り忘れず」あたりをミックスしてますね。努力と結果は必ずしも結びつかないが、努力にも評価は必要だとかってことも言えますか。他にも格好悪さの良さも説いてますね。
結末はビターな味付けでした。物事の難しさと堅持しなければならないこと、その教訓のようにも感じます。故に誰しもが気に入るとは言い難いです。懐古がにび色になる頃合いが好きな人には大丈夫ですかね。
本編はそんな感じですが、ちょっと気になったのは装丁の装画ですか。この装画は何故空をこの色にしたのだろうか?とか思ったわけですよ。薄い薄い青空色のグラデーション。とてもこれでは空の色とは言えないのではないかと思えるぐらいに極端に濃度の低い透明感を感じさせる色。題字の書かれた面は青が買っているがむしろ夕陽が指しているような麦わら色っぽさを帯びているように感じる。暮れがかりって奴ですな。でも曇りにも近い気もする。灰色がかった鉛色っぽい空とも思えなくもない。でもここはもっと明るい青を、色味の濃い青を必要としていたんじゃないかなぁ。これは多分本編の有る部分を切り取った装画なのだから。私にはそれらしいところが見つかったので、その場面を表すならばもっとはっきりした青にして欲しかったという気持ちがあるが、翻ってこれも順当なのではないかという背反した気持ちも無くはない。それは勿論本文を最期まで読むと分かるのだが、あくまで風景ではないのではないか?という疑問だ。この装丁画は風景画を用いた心象風景を表しているのかも知れないとも思えなくもない。その場合はこの装丁画はしっくり来る。でもやっぱり引っかかるんだよなぁ。気にしても始まらないんだろうけどね。
そうそう、シリウスについてちょっと調べてみました。ググルと一番始めにこれとか出てくるけど無視でw。
こんな感じらしい

表題の『シリウスの道』の「道」ってのは人生を意味するんだねぇ。
78点
『テロリストのパラソル』みたいなのをあまりにも意識しすぎるとこけるかも。でも私は嫌いじゃないなぁ。作者の癌治療も一段落したとかいう話を小耳に挟んだので新作を上梓するための準備をして欲しいところ。でも遅筆だからなぁ。亡くなるまでにあと何作残せるのやら。元々兼業作家だったので少ないしねぇ。ちなみに2002年までは電通社員だったそうな。なので、かなり自分と本作の主人公は重ねてるんじゃないかな。現在は退職して作家専念っぽいけど、白髭の時にデイトレの話題を出して、本作はそれを引き継いでいるので作者の趣味はもしかして株?
この本はジャンルで分けると難しいなぁ。広義のミステリーに入るかもしれんが、広義のハードボイルドの方が近いような。ミステリーとして読むのは間違ってるので、そこら辺は気をつけた方が佳いかも。

参考リンク

シリウスの道
シリウスの道
posted with amazlet on 05.10.31
藤原 伊織
文藝春秋 (2005/06/10)
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