荻原浩 さよならバースディ

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あらすじ

田中真は東京の西端に位置する奥多摩町の霊長類研究センターに勤める助手だ。大学に勤めていると言うよりこのセンターに勤めていると行った方がいいだろう。彼の研究対象は雄のボノボ、バースディの言語研究だ。平たく言うと日本語の文字や言葉を教え込んでコミュニケーションを取ろうとする試みだ。元々この研究は前任者である安達の物であったが、彼は去年類人猿の飼育舎で首を吊って死んでいた。自殺ではあるが、その理由が分からずなんとも後味が悪かった。とんとん拍子でその後を継ぐことになったのだが、研究は順調でなんの問題があったのだろうと記憶を遡っても死者の面影を感じるだけだ。
安達が死んでそろそろ1年たとうという頃、センターの上司である主任教授の野坂に呼び出され、研究の進捗状況を資金提供者にお披露目すると通達を出した。野坂に逆らっても仕方がないので真はバースディの実験の準備をし、滞りなく終えたのだった。
それから数日後、真は共同利用研究員でほとんど真のアシスタントと化している藤本由紀に大事な話があると言った。青梅市にあるレストランでついに真は由紀に打ち明けたのだった、結婚して欲しいと。しかし、由紀は次の日霊長類研究センターから飛び降りた形で遺体となっていた。

感想

ポーの『モルグ街の殺人事件』が下敷きになってるとしか思えないのはうがちすぎなんでしょうかね。またインスパイヤか!とか騒ぐのもあれなんですが。
まぁ、ミステリに見せかけた恋愛物という何とも微妙な方向性。いつもながらの荻原センセの文体なんですが、作品そのものは前回読んだ『僕たちの戦争』に比べると相当まし。つーかあれが酷すぎただけか。
しっかし馴染めないなぁこの文体。文体からにじみ出る不安定感というか不安にさせる要素が一種の味なんだろう。ミステリーというより、本格とかホラーとかに向いてそうなんだけどそういうのって多分書いてないよね?純然たる趣向でど頭からそうだって確信を持たせるようにはやってなかったと思うんだけど。是非ともホラーとか本格とかを書いて欲しいところ。それならば味が生かせそうだと思うんだが。
ああそうそう、作者が偶にユーモアを薬味のように添えてるけどこれって配分見直しをした方がいいような気がする。このままだとアクセントには弱いし、不必要な場合もあると思う。個人的には分布構造を散発的ではなく局地的な地雷原とシリアス部に分けた方がすっきりすると思ったりする。これはよく漫画である手法なんだけど、小説でも見習っても佳いと思うんだよね。
シナリオ部ではちょっと自殺の原因に無理があるような気がしないでもない。もっとしっかりしたミステリーに仕上げるべきではなかったのか?更に怒りの発散を中途パンパに終わらせるのではなくきちんと徹底的に叩き、ひねり、ぶち壊すべきだと思う。結末を先送りとかにするのも便利で佳いけど、決着はつけるべきだと思う。バースディと別れると決意するだけで終了は後味が悪い。
悪くはないと思うけどそこまで良くもないかな。感情面でのメリハリがしっかりしてくれば読んでて楽しい話が読めそうな予感。
70点。

蛇足:取材先とか参考文献とか明記されてないけど、一体どこで取材したんだろ。国内でピグミーチンパンジーなんて居るんだろうか?
とかおもってググってみたら京都にいるらしい。
http://www.wako.ac.jp/~itot/bonobo/
多分ここなんだろな

参考リンク

さよならバースディ
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