坂口安吾 白痴

ASIN:4101024014

あらすじ

  • いずこへ

作者の日頃考えていること。私小説

  • 白痴

伊沢という男が隣家のキチガイの長男の嫁である白痴の女と同居する話

  • 母の上京

夏川という中年男が母親が怖くて帰宅できない話

  • 外套と青空

落合太平が碁会所で知り合った生方庄吉は何故か太平に好意を持ったらしく、いつも碁を打つ仲になった。
そのうちに自宅に誘われるようになり、奥方に誘惑されるのだが・・・。

  • 私は海をだきしめていたい

私は世界に失望しながらそれでもなお生きながらえる。妻と彼は肉慾に生きているが同時に彼はそれに厭いてもいた。

  • 戦争と一人の女

私は戦争という悲劇で燃え上がった女。破滅の音が聞こえるまでの短い間の一対の蜻蛉に過ぎない。

  • 青鬼の褌を洗う女

ぼんやりでウスノロの箱入り娘はその箱が壊れたことで世間に出る。しかし、もっとも忌み嫌った母親とどんどん似てくる自分に気づく。

感想

戦後文学の旗手と言われた坂口安吾を読んでみました。勿論初読み。
読む前は鬱文学な感じで太宰の系譜なのかなぁとか思ったわけですが、もっと堅苦しくてダメポ感が漂ってることが判明。それでも閉塞を感じるわけじゃなく、アッケラカンとしてます。しかし・・・肉慾方面に話を進めるだけってのはちょっと画一的なんじゃないかなぁ。当時はそれが鮮烈だったりしたのか、それとも人間なんて一皮剥けばみんなこんなもんだって事なのか判断は難しいけど、性が淫奔でありながらストイックでありたく、しかしそれを成すことは出来ないとか敗北主義的な底流はなんか微妙。思惟と現実とのギャップに悩むというより、今風に言えば流されているだけの漂泊民でしかありえないわけで。これらをもってロマンチストとかセンチメンタリストとか言われてもどうにも楽屋裏の乱雑具合が見えてしまっているので説得力がないような。
延々下卑た女郎屋的やったやらないの話ってのは正直うんざり。一人称でやたらめったら描写しすぎな感もある。特に心情吐露がひたすらくだくだしい。ここら辺は書くという文化が発達して大衆化する以前なので仕方ないか。まぁ、前回と違って旧字旧仮名遣いで読んだわけじゃないからまだましだけれども。

  • いずこへ

作者は矛盾を抱えすぎですな。あまりにもどうしようもない放蕩者であるってことを自分で暴露、つまり自爆してるわけですが何とも痛々しい。「自分は無一物の何者でもない只人になりたい」とか自意識過剰でもあったりするわけです。金さえあれば一月の生活費を一日で使うとか、女房を「所有」するとか、ストイックで有ろうとする建前とか、なんかもう薄紙一枚の上にぶちまけられた汚点そのもののような。
これが飯の種になるんだから作家ってのも因業な商売ですな。奥さんに乾杯。

  • 白痴

いくらキチガイでも人の嫁を勝手に住まわせるのもどうかと。芸術家がどうのこうのって下りは、作者の心の叫びですか?
純愛とかよりも単なる庇護心にすぎないからなぁ・・・。通俗小説を下に見ているのにその通俗小説に及ばない面白さってのはちょっとねぇ。情愛を中に込めるならもっときちんとした手順でやって貰いたいと思うけど、わざとやってるのかねぇ?

  • 母の上京

なんか私小説っぽい。作中ただ一つの諧謔物。男娼を単に「変態」とかいうあたり時代を感じさせますな。人の醜さをあげつらってるのは確信犯的?

  • 外套と青空

男と女は永遠に分かり合えないというか、作者の地金に根ざす浮気性を軽妙に書いたって云った方が・・・外聞も何もあったもんじゃないか。無意味な男の友情と嫉妬、猫のような女の織りなすロンドとかそんな感じ。傷心時に読むのが最適なのかも。

  • 私は海をだきしめていたい

爛れてますなぁ。精神ではなくただ肉体のみで繋がっているとか露骨すぎる。まぁ、世の夫婦って言われる人たちが必ずしも精神のみによって繋がっているわけじゃないですから不正解であるとは言いづらいところ。作者は決してモラリストではないんでしょうな。

  • 戦争と一人の女

やっぱり恋愛物。世帯じみててあんまり好きじゃないな。当時の受難を生きていた人たちの生な声と思うことも出来るか。

  • 青鬼の褌を洗う女

何が言いたいのか途中から曖昧に。生に執着してるってのは分かるんだけど、肉慾に生きながら初さを忘れないとか、なんかとっても不思議というかファンタジーな趣き。でも、一人称で語るってのはかなり失敗気味。主人公がきゃんな跳ねっ返りってイメージがどうにもぬぐえない。180度違うタイプの人物を想像させるとかどうなっているんだか・・・、これがジェネレーションギャップって奴なんだろうか?



うーん、混沌としていて好きな人は好きなんだろうが、題材が戦中戦後に偏って、時代背景を言い訳にしてる気がしてならない。それに一番大きいのは多分私がリアリスト*1な人種であり、快楽肯定派であるって事ですかね。テーマが同じ作品ばかりを読むのは正直飽きます。私には合いませんな。
40点。

蛇足:どうにもフォントの大きさが小さいような。詰められているようなので1ページを読むスピードが非常に遅く、くだくだしい文章が続くので眠くなって仕方なかった。古典ってこんなのばっかりなのかなぁ。

参考リンク

白痴
白痴
posted with amazlet at 05.09.20
坂口 安吾
新潮社 (1996/00)
売り上げランキング: 84,784

*1:何を持ってリアリストであるか?っていうのは流動的なイメージであり、決定性に欠けるので多分に私見