エドガー・アラン・ポー モルグ街の殺人事件

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あらすじ

  • モルグ街の殺人事件

C・オギュスト・デュパンがモルグ街で起こった殺人事件を解決する話。
舞台はパリのモルグ街に位置するひっそりと暮らす老婦人とその娘が住まう家で、二人はそれぞれ手ひどい暴行を加えられた後に、老婦人は首を断ち切られ娘は煙突の中に突き込まれていた。

  • 穽(おとしあな)と振り子

宗教裁判にかけられた男がじわじわと精神的プレッシャーをかけられつつ死への道をひた走っていくお話。

  • 早すぎる埋葬

果たして埋葬という手段は正しいのか?と日常に問いかける話。

  • 偸(ぬす)まれた手紙

デュパン再登場。デュパンの友人であるG警視総監がD大臣に盗まれたという手紙を捜索したのだが、一向に見つからない。デュパンに何か良い案はないか?と聞きに来たのだが、事件には金が関わっているらしい。

感想

探偵小説の生みの親と言われるポーを初めて読みました。まぁ、子供向けに翻案された奴なら確か読んでるはずですが・・・、影も形も脳裏によぎらないので初読みでしょう。
しかしまぁ、読んだ本が悪かった。発行されたのが昭和三十六年のもので旧字体と旧仮名遣いでひたすら読み辛い。これだけ読み辛いと原文で読んだ方が幾分ましな気がしてくるから不思議です。そうそう凄いのは文庫本1冊が60円って所ですかね。*1
読み終わった後にふと気づいたんですが、こんな古い本だから青空文庫に有ったりするのかな?と思って見たところ、ありましたよ・・・。(ここ
しかも悔しいことに新字体&新仮名遣いでやられてるじゃないですか・・・。しかも四編すべてありますし。読み辛いほうで読む意味は皆無だったわけです。まぁ、読み終わった後でぼやいても仕方ないんですが。

  • モルグ街の殺人事件

舞台は何故かパリ。どうやらポーはフランスに好意を持っていたようです。パリ限定かもしれませんがね。余談ですが、日本人が横文字一般(殊に英語)を好んでクールだと思うのと同じで、アメリカ人はフランス語をクールだと思うんだそうです。
世界初の探偵小説ですが、読んでてコナン・ドイルシャーロック・ホームズを彷彿とさせる人物配置ですな。奇人の思索家(探偵)、その友人の語り、事件とそれを解決できない警察。事件の顛末は現代的なサイコロジカルバトルとはならないあたりがゴシックさを醸し出してます。殺人犯に関してはミステリーというよりホラーの範疇な気もしますね。

  • 穽(おとしあな)と振り子

トラップハウスに捕まえられた主人公、それをどこかで見ている異端審問官と刻命館シリーズを彷彿とさせますね。真綿で首を絞められるような着実に迫り来る狂気と凶器を前にして人間はどうなるのかという描写に力入れてます。生に執着し、死から逃れようとする藻掻きは中々楽しめました。
こういうサスペンススリラーって当時はありふれた物だったのか分からないけれど、こういうのって結構好まれそうですな。

  • 早すぎる埋葬

話の前置きが長すぎますわ。まぁ、日常に潜む恐怖って観点は佳いし、非日常的な人が生き返るって症状も佳いんだけど、創作なのかそうでないのか判断の付きにくい実例をつらつらと挙げすぎ。本題が半分経過した後に始まるなんていうのはも微妙。
ちょっと気になったのは作中に登場する類癇と言う病気。catalepsy(強直症)の事らしいですが、検索しても出てくるのは催眠に関する記述ばかり。『おねがいティーチャー』の桂君の「停滞」とか『アキハバラ@DEEP』のタイコの「フリーズ」の元ネタなのかな。

  • 偸(ぬす)まれた手紙

時代的な物でしょうな。現代ではちょっとありえない話でもあります。そして陳腐。大した内容もないので正直つまらない。一応関心を引く部分というと警察の人間が賄賂を貰っているところか。それを書いちゃうところがダメっぽいなぁ。それを利用して金をせびる探偵ってのも情けない。正直幻滅しました。



さて、この四編に共通する部分があります。書き出し部分の前置きが異様に長いって所です。そして内容にあんまり関係ないんじゃないか?って事が多すぎです。自分はこんな事を考えてるんだぞ!ってのを差し挟んでるようにしか思えないんです。それならそれについての論文みたいな本を書けば佳いじゃないかとか思ったりするわけで、賢明な人は有る程度始まり部分を飛ばした方がいいです。作品にほとんど関係ないですし。
もう一つ共通するのは一人称での語りでの描写が克明ではあるものの、くどいって所ですかね。くだくだしすぎるんですよ。ゴシックな雰囲気を感じる為のエッセンスだと思うより、カビ臭く古くさいというのが浮かんで来ちゃいますねぇ。

総じて、古典がすばらしいとは限らないって事ですかね。
ただ、創作家には着想のヒントになりそうなエッセンスが沢山見られたので、行き詰まっている作家の人なんかはこういう古典を読むと活力が得られそうですが。
ミステリーマニアや創作家、江戸川乱歩が名前に冠するほどの人物ってどんな人だったのか?と疑問に思ってる人あたりは読んで損はないでしょう。でも気軽な読み物を求めてる人にはちょっと勧められないかと。
50点。
蛇足:読んでて何度も眠気に襲われた・・・。薄い本なのに全然進まないし。

参考リンク

モルグ街の殺人事件
モルグ街の殺人事件
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エドガー・アラン・ポー 佐々木 直次郎 Edgar Allan Poe
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*1:カバーも無いんですが、確か昔の文庫本の場合は厚紙とかボール紙で作られた箱形のカバーってありませんでしたっけ