石田衣良 うつくしい子ども

あらすじ

三村幹生、通称ジャガは夢見山中学の二年生だ。夢見山中学は国立大学付属のそれなりに実績のある学校だったが、ジャガにはそれほどの学力があったわけではなく一芸入試で入ったのだった。彼の興味は植物学で、その分野に関してはそれなりの物があったのだった。好きこそ物の上手なれとばかりに日々フィールドワークに精を出している。
そんなある日、地元の常陸*1東野市で小学生の女児の行方不明者が出る。誘拐ではないかと警察は親への脅迫を待ったが一向に出てこない。やがて、女児の殺害された死体が夢見山中学のある山で出ることになるが・・・警察が証拠から割り出した犯人はジャガの一つ下の弟、三村和枝だった。実際は状況証拠ばかりであったようだが、和枝の現場に書いたされる『夜の王子』という署名の筆跡鑑定が出たという偽の証拠を和枝に突きつけることによって供述を取ることに成功し、補導に成功した。そう、補導なのだ。なぜならば和枝は13歳で少年法によって守られているのだから・・・。
残された家族はマスコミの非常識なラッシュを浴びせかけられ、さんざんな目に遭うが、ジャガは何故和枝があんな事をしたのか?という疑問を解決するために友人二人とお得意のフィールドワークの特技を生かして立ち向かうのだった。

感想

前回石田衣良の『娼年』読んだときに次はIWGPかなって言ったけど、置いてなかったので、こっちを読んでみた。
始まりはまるで小学生の如く朝礼から始まっているので、児童文学っぽい。ずーっと子供向けで退屈なジュブナイルを読まされるのかと思いきや、唐突にネタが振れて「神戸須磨児童連続殺傷事件」の酒鬼薔薇聖斗が淳君を殺害した事件*2に突入する。「ホラー映画をよく見ていた」等の描写は宮崎勤からの借用としても、キーワード的にはほぼ間違いない。でもすぐに犯人の特定がされて袋小路に入ってしまうので、どうなるのかなぁと思っていたけれどあにはからんや、中々面白い風に纏まった佳作と相成った。
でも作者の甘さがどうも気に入らない。結局児童推薦図書的であるっていうのは確かかも。小中学生向きというか、理想化されすぎというか、稚拙。最後の最後で裏切られたしねぇ・・・。
とはいえ、殺人事件などの情報には受取手の想像力の欠如ではすまされない、情報化社会の落とし穴が潜んでいる事を丁寧に描いているとも言える。有り体に言えばマスコミ批判だったりするわけですが、一種の社会的刑罰の側面もあるから一概にひっくるめて全部駄目出しをするわけにはいかないですな。必要悪みたいなもんでしょうかねぇ。当事者じゃないからかなり気軽な意見ではありますよ。でも死刑制度と同じで抑止力にはなりうるんじゃあないんですかね。マスコミの場合は単に飯の種、視聴率の燃料ですが。
殺人事件を背景にした一風変わった少年少女の冒険小説を読みたいなら良いかもしれない。登場キャラクターはあまり小説に出てこないようなマイノリティ人種っぽいですしね。でもすすんで読むほどではないような気もする。きちんと起承転結がついてるから、それなりに面白いのは確かですがね。やっぱり好みってのがでかいかと。やっぱり甘い話には寛容になれないわ・・・。でもそこが佳いって人も居るだろうしなぁ。
70点。

蛇足:ふと思ったんだけど、言葉狩りで『子供』の「供ってのはいけないとか」一部キチガイが言ってるけど、これはその前だから関係ないんだろうか。

参考リンク

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*1:創作上の県だが、おそらく昔の常陸の国から来てるだろうと言うことで、現在のこのあたりhttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B8%B8%E9%99%B8

*2:なお、本書は1999年に出版、当該の事件は1997年頃である