法月綸太郎 生首に聞いてみろ

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あらすじ

友人で後輩のカメラマン田代周平の写真展に出席した法月綸太郎はある女性に出会う。個展の作品に共通する仕掛けで話しかけられたのが縁だった。彼女が写真に凝っていること、田代のファンであること、人待ちをしていることなどを織り交ぜながら雑談をしているとその相手がやってくる。驚いたことに知人であった。彼女は川島江知佳といい、現れた知人の方は川島敦志、翻訳家であり江知佳の叔父だという。法月とは旧知の間柄なので喫茶店に移動して話をすることにした。自然話は敦志の兄、江知佳の父である川島伊作に向けられる。元々伊作と敦志は最近までほとんど絶縁の間柄だったそうだ。関係の緩解は兄の胃ガンがきっかけで、結局誤解であったことが発覚したとのこと。伊作の名は耳にしたことのある法月だったが、どういう芸術家なのかはさっぱりだった。美術に疎い法月に敦志は、伊作が立体物を型どりして石膏を流し込む手法『インサイドキャスティング』の像を制作する分野で著名であることを教えた。
だが、旧交を温めている最中に電話が江知佳に入る。アトリエで伊作が倒れているのをアシスタント兼秘書の国友レイカが見つけたという。病院に移送したとのことで、慌てて二人が立ち去るのを法月は見送った。
その後書名付き追悼記事で川島伊作氏の死を知った法月に敦志から電話があり、相談を受けることになる。なんでも伊作氏が死亡直前までかかりきりになっていた作品の首が切られてしまって行方がわからないという。ミステリ小説家であり、且つ名探偵の法月綸太郎は事件を解決できるのだろうか?

感想

法月綸太郎の本初挑戦。どうでもいいんですが、わたしゃ「のりづきりんたろう」を「ほうげつりんたろう」だとばかり思っていて、半年近く「ほうげつほうげつ」云ってたんですが、「のりづき」より「ほうげつ」の方が格好いいような気がします(詭弁)。
さて、本書はやたらと評判が良かったので読んでみたわけですが・・・。期待は大いに裏切られました、勿論悪い意味で。これでも2004年度の「このミステリーがすごい!」国内一位の作品。
いくらなんでも本格物だとしてもここまで面白くも何ともない本ってのも珍しいですよ。まずネタである美術関係の話はとてつもなく退屈。知識としては得ていても、披瀝するチャンスがないと実益に適わないので覚えても無駄っぽい。世間一般からすると高尚なんだろうけど、クラッシック音楽などよりははるかに縁遠いのも確かですな。私の場合、美術館に行く機会は映画館やコンサート会場に行くよりもはるかに低い確率ですし。それに絵画などと比べて造形芸術は凄いけどだから何?って感じですしね。30〜60cmぐらいのフィギュアならまだしも1/1の大きさの彫刻なんぞ家におけるスペースは日本には殆ど存在しませんしねぇ。楽しみの範疇にも入りようがないわけですよ。
それはさておき、絵画ならば、そして削りだしの彫刻ならばごく普通に鑑賞を楽しむことが出来るんでしょうが、型取り作って石膏流すだけの物を芸術だと言い張るならば話は別ですわ。正直どこが芸術なの?っていうのは現代抽象芸術のモニュメントとかに目茶苦茶多いんですけど、本書の自称芸術家もそうっぽいですな。デスマスク職人がえっらそうにってのがファーストインプレッション。所謂彫刻を複製する目的ならば分かるんだけど、ダイキャストモデルやフィギュアの大量生産をするわけでもないのに、わざわざ型取りするなんぞ無意味にしか思えん。
美術ネタは置いておくとして、キャラクターにほとんど魅力が無いのは一体どういうことなんでしょうかね?探偵小説にあってアクセントがないなんて、薬味のない刺身みたいなもんで味気ないことこの上ない。第三者視点だから客観視することに専念したんだろうけど、面白くはないわな。トリックが秀逸で驚くとかってのでもないわけだし。新鮮な驚きを求めてる側からすれば、第一発見者の犯行と入れ替わりトリックは正直飽き飽きしてるところだし、話半ばで予想が付いちゃってたしなぁ。ミスリードの線が弱すぎる気もする。
ロジカルな謎解きを求めてる人が暇つぶしで読むのはいいんだろうけど、読み物としてストーリーを楽しめる小説ではないのは確か。「ミステリーにおける殺人を発端にする家族の崩壊」がテーマってのはありきたりすぎてスルーするようなことだしなぁ。ストーリーは纏まってるけど全然面白味に欠ける内容だしね。本格であろうと、一個の小説として楽しめる内容を持って欲しかった。流石にこの本が面白いとは言いかねる。致命的なのはやはり語りか。四角四面で魅力に欠ける。エンターテイメントとしては落第だなぁ。そもそも読み手を殆ど意識してないように思えたし・・・。
40点。

蛇足:探偵法月綸太郎シリーズの中の一編みたいだけど、他の作品で法月綸太郎が主人公の話も高尚な話が元で退屈きわまるトリックの数々だったりするんだろうか?法月綸太郎にはちょっと期待してただけに残念。東野圭吾の解説書くくらいだから、もっとましなのかと思ってた。浪漫派探偵小説だと思いこんでたのは早合点だったなぁ。浪漫派だと思ったのは『法月綸太郎の冒険』って本をだしてるからなんだけど、この表題は『シャーロック・ホームズの冒険』から取ってきてる物だからてっきりそうだと思いこんじゃってたんだな、これが。コナン・ドイル並の物を期待した方が悪いのかもしれないけど・・・。
まぁ、この筆者とはもしかしたら全く合わない人なのかもしれない。
そういえば、法月綸太郎の苦悩ってなんなんだろ。*1

参考リンク

生首に聞いてみろ
生首に聞いてみろ
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法月 綸太郎
角川書店 (2004/09)
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*1:調べてみたところ、デビュー作から苦悩していたらしい。なんでも後期クイーン問題に作中の法月綸太郎がはまり込んでしまっていて、それが作家の法月綸太郎にも伝播している模様。作家としてだけではなく評論家でもある点が悩みの発端らしい。悩んでいるから寡作になるってな状況に陥ってるらしい。それならミステリーのエッセンスを用いた普通小説を書けばいいと思うんだが・・・そこまで器用な人じゃないのかもね。でも野村将希を馬面にしたような感じの近影でしたがそこまでの繊細さは面立ちからは感じませんなぁ