石持浅海 扉は閉ざされたまま

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あらすじ

伏見亮輔は大学時代の軽音楽部の仲のよかったグループ、通称「アル中分科会」の連中と久々に集まることになった。いわゆる同窓会って奴だ。音頭を取ったのは安東章吾、伏見とは同期の男で今は技術系の文献・論文を翻訳する仕事に就いているらしい。デスクワークがちな為か学生時代と比べてあごのラインが少しふくよかになっている。幹事の安東は集まる場所も自前で決めていた。大人数が集まって泊まっても佳い様なところが合ったから同窓会を開いたのか、それとも偶然なのか、些細なことはどうでも佳いが、元々安東の祖父の官邸だった場所だという。日本の高級住宅街として名を馳せる「成城」あるその建物は家族のみならず書生を住まわせていたというたいそう立派な物だった。現在は安東の兄が改装してシェフである事を生かしたペンションとしても人気だという。なんでも成城に住んでいる気になれると言うことで二年先まで予約が一杯だとか。ただ、現在はシェフである安東の兄に無理がたたったのか体を壊してしまい、泣く泣く療養閉店中だという。家は住む人がいなくなると途端に傷み出すから管理を安東に任せているという。我々は好意に与ったというわけだ。
この日欠席はなく、皆出席した。
一つ上の学年の上田五月。一つ下の学年の新山和宏と大倉礼子。二つ下の学年の石丸孝平。そして大倉礼子の妹の碓氷優佳。
上田五月は現在雇われ研究員をしているという。年長者と言っても、未だ落ち着きは備わっていないようだ。
大倉礼子は大学卒業後結婚して碓氷姓から大倉姓へ変わり、専業主婦をしているそうだ。学生時代は酒よりも酒肴が好みのこの人にメンバーが酒盛り用の酒肴を作ってもらっていた。料理が旨かったので皆から感謝されていて、未だに頭が上がらない。
新山和宏は故郷の北海道で公務員をしているとのこと。高齢の親に何かあったらすぐ駆けつけられるようにとのことでの選択だったらしいが、結局相次いで両親が亡くなり、目的は達成されたようだ。酒の好みはウイスキー。昨晩は石丸と呑み明かしたらしい。
石丸孝平は福岡の大学で助手をしている。このグループではおどけ役だったり、丁稚だったりヒエラルキーの下層に位置していたのだが、六年という月日は人を変えたらしい。もっとも人柄については変容しているとは思えなかったが。新山とタメを張るほどの呑兵衛で酒には一家言あるタイプ。
唯一大学との接点がない碓氷優佳は姉の礼子が連れてきてそのまま居座った形だ。容姿に優れ、マスコットキャラ的な扱いだったが、頭脳は明晰だし欠点を上げるのが難しい人物でもある。
それぞれ現在の居住地が、東京・北海道・福岡・川崎・筑波と散らばっているため、久々の顔合わせというわけだ。個別には会っている人物もいたが、それでも年単位で会っていなかったりする。
こんな居心地の良いメンツの中で伏見は殺人を計画し、実行した。

感想

石持浅海二冊目です。で、本書は本格推理物で倒叙形式採用なわけです。
ちょっと登場人物が多いのと、その関係がごちゃごちゃしてますが、きちんとキャラのカラー分けが出来ているのと、文章が平易なので大きな問題点みたいなのはないですな。ただ、トリックは置いておくとしても、探偵役に難があるわけですよ。脅しの手を用いるならばもっと悪女然として欲しいですなぁ。憎む対象が出来ることで救いが生まれると思うのですよ。
ま、この本読んでずーーーっと気になるのは動機ですかね。延々隠されるので気になりますわ。で、溜を終了して動機が発表されるとちと気が抜ける感じです。正直その動機はどうなのよと作者を問いつめたくなりますが、ワンアイデア先行っぽいので致し方ないかもしれませぬ。兎に角作者は扉が壊されないミステリーを書きたかったようなので、それは達成されています。でも、これは百人が百人満足するタイプの小説ではないですねぇ。そもそも犯行が可能か不可能かという点を考慮して、予断としても殺人と断定したとき犯行可能なのがそもそも一人だけな時点で推理物としては破綻してる気もします。あ、これって今気付いたけどかなり有名なメタファーじゃないか。シュレディンガーの猫そのもの。なんで気付かなかったんだろ。
もう少しメスを入れると、キャラの書き分けは出来てるんだけど、キャラクターの性格的な面やら食べ物飲み物の嗜好を描写するのに、何故か容姿については殆ど言及されてませんな。表表紙のイラストも誰が誰だか全然分からんわけですよ。時代に左右されない普遍性は堅持してるようですが、そこまで拘らなくてもねぇ・・・。主人公の精神性にも共感は出来かねるし微妙ですなぁ。65点。
極端に悪くなく、極端に良くもない・・・そんな感じ。
しっかし、あらすじ纏めるの下手だよなぁ・・・。冗長すぎorz

追記:なんか前半の作者の語り口がホーリーランドの作者みたいな解説に思えたw

参考リンク

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