石田衣良 LAST[ラスト]

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あらすじ

  • LAST RIDE

借金での最悪の二択

  • LAST JOB

借金で体を売る

  • LAST CALL

時代遅れなテレクラでの出会い

  • LAST HOME

普通の人がホームレスへ転落

  • LAST DRAW

借金を抱えた男が違法な現金を銀行から引き出す

  • LAST SHOOT

あるAV監督の苦悩

  • LAST BATTLE

借金を返すための一つの方法

感想

絶望を描くと云うことにだけ執心した掌編集。掌編集故にあらすじは最低限になった。登場人物は一様に社会からはみ出し追いつめられており、金に縁がない。ノワールと言って佳いと思う。
リアリティに裏打ちされた暗闇から睨め付けるような昏い視線。読むに従って胃に不快感を帯びた異物を感じ、手にじっとりと汗をかく感覚を覚えた。作品に漂うのは人生に倦んだ人間の倦怠と絶望の饐えた香りが嫌らしいほど漂ってくる。
北条司シティーハンターの仕事の合図『XYZ』。後がないという意味だが、『LAST』という題名もこれに通じる。ただ、シティーハンターのような甘々な展開ではなく、掌編に登場する人物達は奈落への薄氷を踏み続けている点において評価されるべきだと思う。
しかしまぁ、嫌いな人には徹底的に嫌われる昏い構成の本書は万人には勧めるには足らないのは鬱書の宿命か。
現代的でややお約束から外れたアイデアが斬新に盛り込まれた本作は石田衣良の作品としては異例なほど毛色の違うものらしい。らしいというのは石田衣良の本はこれが初めてだからだ。IWGP(池袋ウェストゲートパーク)で有名になった筆者だが、未だそちらには手を出していない。一応ドラマは見たが、ドラマと原作では舞台演劇の宮藤官九郎が脚本担当と云うことで、どの程度の違いがあるか読むまで判別できない。読んでないので四の五の言うのもアレなので本筋に戻る。
平易で読みやすい文章にナイフでえぐるような苦痛を織り込んだそれぞれの掌編は確かに味わい深いが、単調と言えば単調だ。借金苦の話が並びすぎている。そこの調整はすべきであったのではないか。まぁ、借金・貧乏というのはかなりポピュラーなネタなので被っても仕方ないとは思うけれど、衝撃は読み進む毎に霧散していく。一つの本としてみた場合失敗であったのは明白だ。各々の掌編単位ならば何の問題もないのだが・・・。
35点。
蛇足:
やはり借金は怖いものだ。政府は街金*1対策をするべきなのだと思う。簡単に開業できるため、暴力団の資金と隠れ蓑になる状況からして、街金の権利の交付の選定は絶対的必需だと思われる。まぁ、現在の街金がおかしいのは自明のことだ。そこら中に街金のこ汚い広告やテレビCM、長者番付の上位に顔を出すあたりは実に厚顔無恥だ。金を扱う銀行や証券会社ならばまだわかるが、金に飽かせる無法者を放置するのは社会的によくない。武富士の事件を考えれば狂気以外何者でもないと思う。メディアを買収*2したりしてるしな。やってることはパチンコ屋とかわらん。もっと銀行しっかりしろ!バブルの膿を早く出し切って外資に飲まれないように自衛を執ってくれ。もうペイオフ解禁されてるし、やばくなったらみんな逃げちゃうぞ。

参考リンク

LAST
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石田 衣良
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*1:普通は小口の業者を云うらしいが、ここでは消費者金融一般の事を指す

*2:もちろん朝日のことですがw