真保裕一 奪取

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あらすじ

頭を使って小狡く世間を渡る先端犯罪者手塚道郎は相棒の西嶋雅人がドジったことでヤクザが直接訪ねてきた。
雅人は街金に手を出したらしい。街金=ヤクザってのは基本中の基本だし、第一金に飢えてる奴が手を出す方がおかしいからだ。ヤクザに案内された先には雅人がボコボコになっていた。聞くと盗まれたNTTの公衆電話を買って、変造テレカを作る書き換えマシーンを作る予定だった様だ。聞いてみると間抜けなことに、NTT側が仕掛けた罠で蓋を開けたとたんに中のROMは真っ白に飛んでしまい、全てはパァ。全く、少しは調べてから事に当たるべきなのに、肉体労働専門の雅人では荷が勝ちすぎていたことだろう等と頭でぼやいてみたが、済んだことは仕方がない。ヤクザの口から語られる言葉と、目の前の保証になった覚えのない道郎の名前が入った貸し付け明細。世間にゴロゴロ転がってる類の話ではある。しかし、額が問題だった。一二六〇万円・・・拝んだこともないような巨額だ。ヤクザの弁によると貸付期限は一週間後、すぎれば二人もろともどこともしれぬ異国の地に追いやられ、ヤクの運び屋に仕立て上げられるという寸法だ。どうせ新規開拓の礎として人柱扱いされるのだろう。状況は最悪だ。
ヤクザから二人が解放された後、頭脳労働専門の道郎は決心する。生半可な手じゃ巨額の借金は返せない。強盗も窃盗も詐欺も有効な情報がない以上、特に手があるわけではない。こうなったら道は一つ、偽金を造るしかない。
その頃にはもう頭が回転していた。自動預け払い機を襲おう。ATMやキャッシュ・ディスペンサーはバールでこじ開けられて現金が盗まれる事件が多発していたので、物理的対策はかなり厳しくなっているだろう。だが、盗むのは現金じゃない。中に入っているであろう紙幣判別器だ。そいつが手に入れば機械だけをだますための偽札なら何とか出来るかもしれない。
斯くして道郎と雅人の凸凹コンビはATMを襲うための計画を練るため準備を始めるのだった。

感想

初めて読む作家さんです。調べてみたところ一九九七年このミス二位、一九九六年文春ベスト十位、第50回日本推理作家協会賞長編部門受賞、平成9年度山本周五郎賞受賞とタイトルホルダーな本作。これが代表作みたいな感じですが、著者の世間的代表作は『ホワイトアウト』でしょうかね。織田裕二主演で映画になったみたいですが、人づてに聞いたところひどかったらしいですねぇ。それでも著書の方は吉川英治文学新人賞受賞していますが。
さて、本作の内容に入ります。前日読んだ本もゆるめだったのであれですが、こっちも比較的文章がゆるめに書かれている印象を持ちました。キャラクターは陰に籠もることはなく、どこかサバサバして居ながら人なつっこい茶目っ気たっぷりな感じでどこか憎めない無邪気な雰囲気を醸し出しています。常にプラス思考で夢の実現に前向きなあたりは、別の方向に力発揮すればいいのにと思わざるを得ないですが、悲観的なドロドロしたドス黒い世界観でのたうちまわって読むのが苦手な人でも読めそうなあたりに真価が有るのかもしれません。
ストーリー的にはクリミナルノベル、つまり犯罪小説という事になりますね。偽札を制作、量産する話になりますが、所々技術的な点についての解説が入ります。これでわかるのは日本のお札がどれだけ優れているのかという事でしょうかね。これは旧札の話ですからもはや時代遅れなわけですが、それでも簡単にはいかないわけです。しかも、去年改刷された現在の新札はその数倍もコストがかかるように新たな調整が入っています。一般人が単体で紙幣を偽造すると言うことはほぼ不可能になりました。(紫外線インクとホログラムを紙に仕込むなんて一般人にはほぼ無理です)ちょっと前に高性能なプリンターが一般家庭に行き渡ったことで、安易に偽札事件が沢山起きましたが、あれは紙幣の耐用年数が一般家庭の技術レベルに追い抜かれたことで尽きた特異な状態と言えます。言うなればPASSが掛かったファイルのPASS桁数が少なすぎてCPUをブン回していると簡単にブルートフォース攻撃でロック解除出来てしまう様になった感じですか。
ま、印刷等以外でも、なんか一昔前のゲーラボとかラジオライフとか激裏情報とかで作者が情報収集してそうな内容が初っぱなで見られます。かなり懐かしい内容ですねぇ。やってることがせせこましくて可愛いですわ。当然やるのは無理ですから、真似しないように。当時はまだデジタルじゃなかったケータイも有ったから、盗聴が出来る最後の時代だったねぇ。懐かしいなぁ。・・・あんまりこんな話題を蒸し返してもサブカル臭がするだけだからやめときます。
兎に角、かなり突っ込んだ内容で書かれているので、中々楽しめるかと思います。ただ、結末とエピローグに納得がいくかいかないか、新札が出回ってる現在の状況を鑑みて古くさいと断じるか否か、それで結構評価も分かれるかと思います。時事ネタ盛り込んじゃった時点でしょうがないんですがね。時事ネタって云っても本格的な改刷そのものは二十年ぶりとかなので、本来コロコロと変わるもんでもない事はわかると思いますが、マイナーバージョンアップも入れれば5〜10年ぐらいで確実に新札に変わります。作者の計算ではそれなりに保つはずだったのかもしれませんが・・・私が読むのが遅すぎました。
全体を通してキャラが明るい事だけが救いですな。70点。

参考リンク

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