北川歩実 金のゆりかご

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あらすじ

野上雄貴は紆余曲折しながら生きてきた。結婚して嫁の腹には我が子が居る。タクシードライバーをして稼いでいるが、偉いとも何とも思わない。生活に張りが有るとか何とか言うのはどこか別の世界の話なんだろう。
しがらみは生きてきた証とはいえ、はなはだ面倒な物だ。自分は愛人の息子だった。父の名は近松吾郎、世間に名高い研究者だ。研究内容は端的に言えば『天才をデザインする』といったところか。三歳までの子供に色々な刺激を与えることで脳を活性化し、天才脳に作り上げるのだという。自分はその近松の作品だった。だが、天才だと持ち上げられたのは中学までだった。小学生の頃などは大学の入試レベルの問題を解いたりして持ち上げられていたが、ある日突然壁を感じたのだった。いくらやってもまったく点数がとれない。高校の時にはそれがぐれることの発端だった。小学生の時の同級生と再会して勉強に励むではなく、暴走し、子供を作り、駆け落ちまでした。だが、単なる逃避だった。半年後双方の両親に見つかり、連れ戻された。ほっとしたのは本心だ。逃避の失敗は初めから願っていたわけではないが、日々の暮らしを自身の手でつかむことが出来なかった無駄にプライド高い自分に嫌気がさしていたのも事実だった。その後彼女、漆山梨佳とは会っていない。
あれから十年近く経って天は自分に味方したらしい。自分を実験動物扱いした男、近松吾郎が脳腫瘍で入院しているという。いい気味だ。奴には血の繋がりなどどうでもいいらしい。天才という物に対する崇拝の念だけで生きてきていたような奴だ。天才ではないという烙印を押した者は容赦なく切り捨てる。自分もその烙印を押され、追放されたのだ。そんな男がこの世に存在していない方がいいと思っていた。
だが、何の因果か手術は失敗と成功の半分を持ってきて、よくわからない事を野上に押しつけた。なんでも近松吾郎は野上に会いたかったらしいのだが、ひたすら野上は断り続けてきた後に聞かされたので、根本的な事情はよくわからない。そもそも何故そうなったのか?と聞ける人間はもはやこの世に存在しないのだから。近松吾郎は手術と引き替えに延びる余命は得たが、自身の記憶・意識をおいてきてしまったからだ。詳しくは聞かなかったが、二度と取り戻すことはかなわないというと言うことも聞いた。押しつけられたのは野上のGCS幼児教育センターへの就職斡旋だった。幹部候補且つ役員待遇と言うことで嫁は喜んだが、野上の内心は複雑だった。近松吾郎という男に対する恨みに似た嫌悪感、子供っぽいと云われればそれまでだが、これを拭い去ることは出来ない。
降って湧いた幸運に喜ぶ嫁には詳しい近松吾郎との話は出来ないまま、野上はGCSへ断りの話をしに行くために向かうのだった。

感想

叙述トリックばりばりの小説でした。しかしまぁ、フィクションと割り切れない人は読まない方がいいと思います。あまりに作者に都合よく解釈される内容が多すぎでしたから。
天才を再現したい男、近松吾郎は方法論を間違ってると思うのですよ。初期は合ってましたがね。でも単に頭が良いという事が天才とイコールになるって事はないと思うんですよね。ちなみにこの頭が良いっていうのは記憶能力と計算能力が高いと言うだけの事です。天才と呼ばれる人の場合、右脳能力が極端に高いとか、論理形態を学ばずに答えがわかる人とか、未知の事柄に筋道を立てられる人とか、能力は優れてるんだけど変人っていうのが天才の現在の一般的な解釈な気がします。手っ取り早く頭が良い人間を作るのであれば、遺伝的配合を考えた方が早いわけですよ。今は精子バンクとかありますしね。後天的に誰しもというのは夢ですが、実現可能かと云ったらかなり疑問でしょう。売り文句の天才が云々ってのは一種の誇大広告ですな。ま、この先は倫理面を何とかするとしてデザインベビーがいつ生まれるかってあたりが科学的におもしろい所ではあります。既に生まれているかもしれませんが、宗教からくる倫理的拒絶がいつまで続くのかなと。科学の発展を考えるならば倫理面など考慮出来はしないんですけどね。現在の化学関係の最大の功労者がドイツの藪医者達って事を忘れてはならないんです。たとえそれがどんなに悪魔的な行為だったのかとしてもね。こんな事を書けるのは日本だからですが、海外なら100%無理でしょう。人種差別主義者(シオニスト)だ、ネオナチだ、法律に反していると下手をすれば捕まりかねません。ま、そんな事はどうでも良いんですが。
ハードカバーの方を読んだんですが、なんつーかこう装丁で損をしてる本だなぁと思いました。題が『金のゆりかご』で装丁は一面に広がる草原にまばらに子供が立っている。一人子供がバストアップで目を閉じて腕を緩く組んでいる絵なんですが、ひたすらにキモイ。金のゆりかごなんて題な時点でメンヘルな母親が子供を溺愛する話を連想するぐらいなのに、こんな油絵調の装丁じゃ濃すぎる。キモさに拍車がかかって実にアレ。これじゃあ売れないよ。
文章は至極真っ当で女性的じゃないですね。かなり男性的なんだけど、掛け合いはリズムを大切にしてるようで、かなりスパンスパンやりとりしてるあたりが一つの個性なんだろうなぁ。ここら辺が女性的なのかもしれない。
感情描写はやや少なめ、話は全てを補完するつもりじゃなくて、尻切れトンボになってるところが結構あるので、人によってはそれが不満条項になりそう。なお、エピローグが実はもう一つのプロローグというあたりには納得がいかない。イマイチ何が描きたかったのかが不明。幼児教育という部分を描きたかったのか、翻弄される人間を描きたかったのか、知能の高さが絶対だと云うことを否定したかったのか、人間性の再評価をしたかったのか・・・、まだまだ色々有るけど判然とせず、元アイデアの質が高いだけに残念。
でもまぁ、ある程度歳食えばわかると思うけど、頭が良いって知識が沢山あることでも、特定の問題が解けることでもない。機転が利くかどうかなんだよなぁ。頭の切り替えが早いとか、頭の回りが早いとかだろうし。
60点。
蛇足:漫画の場合、天才と呼ばれる作家の場合売れるシリーズを二つ以上手にしていれば条件に合うらしい。一つだけだと一発屋と見なされる。ジャンプ系作家に一発屋のなんと多いことかw

参考リンク

金のゆりかご
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北川 歩実
集英社 (1998/07)

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北川 歩実
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