東野圭吾 トキオ

あらすじ

宮本拓実はグレゴリウス症候群*1という遺伝病に犯された虫の息の我が子の最後を妻麗子と共に迎えようとする。
思い返せば20年以上になるが、今の妻に結婚を申し込む段になって拒まれた理由がその病だった。麗子は発症していないものの、キャリアーで、遺伝病のこの病は子供に受け継がれ発症するかもしれない。それを心配した麗子は結婚を躊躇した。彼女の両親とも会った。結婚の許しは貰ったものの、子供だけは諦めるという条件だった。しかし、子供は出来てしまった。そこで拓実は生んでくれと言った。それを聞かされた麗子の父親は大憤慨した。約束破りだとなじり、喧嘩別れの呈であったが、一方的に悪いのはこちら。彼は拓実と麗子がどれだけの苦労をする事になるのかということに真剣になって怒っているのだ。怒って当然だろう。
その後生まれたのは息子だった。あらかじめ「時生」と名前は決めてあった。時生はすくすく育ったものの、中学の終わり頃に発症の兆しが見え出した。脳神経を病むこの病は、初めは運動神経をやられ、段々と体を動かす事が出来なくなっていく。免疫力も落ち、心臓の障害も起こりだした。そして意識障害
医者の弁ではもう次意識が戻っても、それ以上は持たないとの事だった。失われていく息子を思いながら麗子につぶやく。
「ずっと昔、俺はあいつに会っているんだ」
そう、それは今より20年以上も前、麗子に会うよりも前だ。その頃拓実は23歳で荒れていた。妻は疑わしそうにどこで?と聞く。
花やしきだ」

感想

思春期の少年向けファンタジー青春物といった態ですな。勿論それ以外にも受けるとは思いますが。かなりスラスラ読めたので意識して情報の取捨選択が巧く行われているんじゃないかと思いました。情報が濃密に語られるタイプの読み物は難読ではないものの、読んでいてかったるいですし、比較的時間を取られるものです。要約が巧くいっていると、流れるように読むスピードは加速して、あっという間に読み終わってしまうものです。本書はターゲット層と描く目的をしっかりと据えた上で書かれたのではないかと予想します。
まぁ、序章の要約をあらすじに持ってきているんですが、見て当然のことながら予定調和バリバリですが、殆どの人は気にしないかと。情感たっぷりに描かれる世界は1970年代テイストな79年なので正直よくわかりませんが、金なしでブラブラしている奴のやる事はその時代に関わらず大して代わり映えせんもんですなぁ。
この話の肝は「改心」にあるので、そういうのが駄目な人は避けて通った方が無難でしょうかね。情状系って感じでしょうか。
個人的には大岡裁き的なこの本は好きとは言いにくい面があります。世の中で後悔や、逡巡無しに若い頃を生きている人はそんなに多くないでしょう。まぁ、快楽主義者なら話はまた別ですが。本書において完全に過去の清算をしてしまえる拓実を羨ましく思う反面、そんなあまりにも都合よく進むわけないじゃないかとか、時生のうっとおしさは邪魔くさいなとか思うわけです。時代が違おうと、お節介焼きは敬遠されてしかるべきでしょうしね。時生には時生の目的意識があるため、ストーリー的には仕方ないものの、やはりうっとおしいのはうっとおしいのですよ。流石に殺意までは抱かせませんでしたから、そこまで最上のストーリーとは言いがたいものの、一級の書である事は間違いはないでしょう。*2
軽妙にかかれているものの、今から30年近く前の話にしては*3流行り言葉とかの節はなく、時代性は感じられません。つまり、古臭くも無く、どこか調子っぱずれな珍奇な新しさもありません。中道を行っているわけですな。安心して読める良書です。説明が少なく、会話主体なので本をあまり読まない人でも読めるタイプの本でしょう。80点。

蛇足:母よりNHKで去年ドラマやってなかった?とのこと。調べてみるとDVD出てるし・・・。「トキオ 父への伝言」という題でやっていたらしい。本読むのが億劫な人はDVD見てみるのも手ですな。どう変わってるかは知らないけれど。
主人公の宮本拓実が国文太一、宮本時生が櫻井翔・・・拓実は長瀬にやらせた方がよかったんじゃないかと思ったりしますが・・・、まぁ終わった配役に難癖つけてもしょうがないですな。
NHKHP:トキオ 父への伝言

参考リンク

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講談社 (2002/07)ISBN:4062113279
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トキオ 父への伝言
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*1:実在はしない模様。するとするならば、名称を変えている。まぁ、よくある事ですな。実名使うとその病に犯されている人たちに迷惑になる事も在りますし

*2:変かも知れないけれど、作中人物に殺意を抱いたり、憤慨する事が個人的な感情移入度の指標として用いるものなのでこういう評価になるのです。好きの反対は嫌いではないのですよ。好きの反対は無関心なんです。嫌いの反対も然り

*3:作中がって事ですよ。作品が書かれたのは2002年なので古いわけじゃあないのです