乙一 GOTH(ゴス) リストカット事件

あらすじ

6つの短編を一つのシリーズにした本です。
死に引かれ、殺人の現場に出入りしたり情報収集したりする主人公の「僕」と殺人鬼に狙われやすくなるフェロモンを噴出しているらしい同級生の森野夜が関わったりした事件が織り成す物語。
章構成は以下のとおり

  1. 暗黒系 Goth
  2. リストカット事件 Wristcut
  3. 犬 Dog
  4. 記憶 Twins
  5. 土 Grave
  6. 声 Voice

感想

乙一読むのはこれで二冊目の本ですわ。
多分これが黒乙一なんでしょうな。というか、これが黒じゃなかったら何が黒なんだろう?って感じですが。
黒と白は多分

ひたすら暗黒面描写

毒弱め
ぐらいの差で実はそれほど違いはない気もしますな。でも正直黒って割には足らないものが多い気がします。何も他の黒乙一作品と比べてって話じゃ無いですよ、あくまで一般論です。読者側が共感を持てるような点が見られず、感情面の欠落が響いてます。全然黒い感情なんて抱けません。淡々と殺人鬼とか異常者とか普通じゃない人が出てくるわけですが、「で?」って感じなんです。どこも怖くない。正直気持ち悪くも無い。かっこよくもない。ほとんど様式美的な感性で書かれてしまっているのでナルシー全開って感じですが、やっぱり「で?」って聞き返したくなるような内容なんですよ。まぁ、多少の甘美さは兼ね備えてますが中途半端感は否めません。要は「死」という事柄以外は全てがゴソッと抜け落ちちゃってる空っぽの人ばかりって事ですが。正常なのは一握りですな。空っぽってそれって既に人じゃないと思うわけで。動機が無いのに結果を求めてるのはおかしい限り。かといって怪物かと問われたらそれも違うんですよ。単に病気なだけで。
異常だという自覚があるにもかかわらず、衝動を止めない人々。前向きに努力するのを放棄した人々。誘惑に負けた人々。偶然が重なっただけの人。「おまえら「死」以外のところに目を向けて病院行け」って思うのはおかしいのかな。境界性人格障害なんじゃねーのとか思った次第。主人公は離人症バリバリだしな。
あとがきで作者がわざとミステリー的な書き方をしたりしなかったりと章によっての書き分けをした旨を記してるけど、全部一応ミステリーでしょうな。広い範囲で考えると、どう考えてもミステリー以外の何物でも無いと思うわけですよ。
ああそうだ、無理やりにどんでん返しつけるの辞めた方がいいですよ。技巧的に乱発しても予定調和になるだけなので必ずしも+に働くとは思わないです。特に第三章のどんでん返しはちっと納得がいかなったですし。
読者の感情面を揺さぶるにはもう少し方法論を詰めた方がいいような気がする本作でした。
あとがきの「切なさが足りない云々」を言っていた人達はそもそもが違う気がしますな。せつなさは「物悲しさ」、「さびしさ」、「理不尽さ」とか負の悪感情にマゾヒスト的に快感を覚えているということだと思うので、十分切なさは兼ね備えているとは思います。ただ、分量に関しては同意ですが。
本書は習作かも知れませんな。未完成さが感じられます。故に黒側の乙一はもう少し見定める必要があるような感じがします。
毒を吐いても絵のようにダイレクトには伝わらんのですよ。氏賀Y太並とは言わないけど最低限しのざき嶺かかし朝浩魔北葵柿ノ本歌麿当り並みの強烈さが欲しいですな。*1
50点。

参考リンク

GOTH―リストカット事件
乙一
角川書店 (2002/07)isbn:4048733907
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*1:分かる人はごく一部w