アイザック・アシモフ 鋼鉄都市

アイザック・アシモフ、SFといえばハインラインとクラークと並び称される所謂古典SFの作家の一人。SF物を読んだ事のない人でも知っているであろう作家だ。ただし、全くSFを知らない人の場合アシモフとクラークの二人しかわからないケースの方が多いだろう。アシモフといえば昨今トリビアの泉トリビア単語を世に広めた事で名が知られていると思う。また、多少でもかじっていればロボット三原則と呼ばれる広く知られた原則の提唱者である事も言われる。
本書はそのロボット三原則の足がかりが出来てその後にキチンとした形で語られる事となった初めての中篇と言って差し支えは無いと思う。分類としてはミステリーで、この後シリーズとなったファウンデーションシリーズの第一巻と捕らえる事が出来るだろう。*1
なお、SF作家として知られるアシモフだが、SFだけではなく普通のミステリーや科学解説本なども手がけている。その著書は500冊を超える。
蛇足だがアイザック・アシモフと筆名はなっているが、本来はアジモフと表記するのが正しい。
1992年4月6日に心臓バイパス手術で血液感染したHIVの免疫不全による感染症により死去。

あらすじ

人口爆発で生活圏を広げざるを得なかった人類は宇宙に新天地を開いた。だが、地球に住むものからするとそれらの宇宙に出て行く人間は棄民とみなされ、忘れ去られた。
長い年月が過ぎたあと、地球の者達はドームに囲われた生活圏で生きる自然とは隔絶された存在となっていた。自然現象の雨でさえ彼らには脅威であるし、自然は畏怖すべきものとなっていた。虚弱化した地球人の前に彼らは戻ってきた。地球を侵略する目的で。
資源が尽き、生活をするのが一杯一杯で大した科学的進歩のなかった地球はひとたまりもなく惨敗する。
地球は自治を許されたものの、宇宙に住むもの達から宇宙に進出する事に制限を加えられた。
そんな地球と宇宙の民との戦争が終わってから数十年。再び二つの勢力間での摩擦が生まれるであろう事件が起こる。宇宙の民の一人が殺されたのだ。
地球側は再び賠償など出来る体力などないので怯え、犯人探しをする事になった。
ライジ(イライジャ)・ベイリ私服警察官がひょんな事からその任に当る。彼には特質すべき点などないし、異例の抜擢であった。ただ、悪い意味で得しつつべき点といえるものは有った。機械やロボットに対する嫌悪感である。彼は宇宙の民の意向で望まぬパートナーを得ざるを得なかった。そのパートナーの名前はR・ダニール・オリヴァー。地球では珍しいほぼ完全に人型のロボットだ。
ベイリは殺人事件を追いながら彼にもかけられた嫌疑をも晴らさなければならなくなるが・・・。

感想

これを読むのは5度目だろうか。
近未来物のSFの中ではかなり否定的な地球を描いている作品だ。まぁ、BLAME並じゃあないけどね。宇宙に人間の科学の夢を見るのはアジモフならずともSF者なら皆見る夢じゃないかな。アジモフは設定、背景に相当凝る人なので読んでいて夢想が色々広がって楽しい。ただ、単純に良い事だけじゃなくて悪い事の方もきちんと背景設定に含まれていたりするので、単純に内容を受け取るだけの本じゃあないな。
故にSFの不朽の金字塔といえるこの本はミステリーとはいえ、何度読んでも別段問題のない良書だな。普通に読む分にはSFという事をあまり意識しないでミステリーとして読んでも問題と思う。ただ、何度も三原則がでて来る事が鼻につくかもしれんなぁ。あと、ロボット差別の激しさとかには引くかもしれん。日本の所謂差別と騒ぎ立てる連中と違い、明確な差別がここには描かれている。
まぁ、これはシリーズの始まりに過ぎないから、気に行った人は続編のはだかの太陽と夜明けのロボットも読んでみるといいかもしれん。再びベイリとダニールのペアを見る事が出来るからね。また、銀河帝国興亡史シリーズと呼ばれるファウンデーションシリーズにも手を出すきっかけにすらなりうるかと。
文体は平易で第三者視点で進められ、筋もそこまで込み入ってないし、読書そのものをそれほどしない人でも取っ付きやすいかと。ただ、過度にエンターテイメントしてないので、スペオペ的なジェットコースターストーリーじゃないのは確か。読後感はすっきり系。
点数は75点ぐらいかな。

参考リンク

鋼鉄都市
鋼鉄都市
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アイザック・アシモフ 福島 正実
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*1:でも、実際のところファウンデーションシリーズの1巻が発売された10年近くあとに書かれているので、この書き方だと人によっては不満に感じるかもしれない