恩田陸 ライオンハート

恩田陸の小説はこれが初めて。なので略歴をちょっと漁ってみた。
本名熊谷奈苗ということで女性だったんですな。男性かと思いましたわ。
六番目の小夜子」でデビューという事らしいけど、ある意味これが一番有名なのかも。NHKで映像化されてるし。
ネバーランド」がドラマ化、「木曜組曲」が映画化もされてるらしい。

ノスタルジアの魔術師”と呼ばれ、その名の通りノスタルジックな情景を描く。 また、ファンタジーの枠に囚われず、SFやミステリーなども書く。

との事。

あらすじ

1978年11月27日のロンドン。エドワード・ネイサンはここ二週間ばかり連絡が取れない状況になっていた。同僚のチャールズ・モリスは大学職員、そして二名の警察官を伴って彼の自宅へ状況確認に赴く事にした。管理人にドアを空けさせ家を探すが、人は居らず、鍵のかかった書斎の机にはには飲みかけのローズティーと「LIONHEART」とだけ書かれた便箋。そして「from E. to E. with live」と刺繍された白いレースのハンカチが置いてあった。
彼らはまだ知らない。全てが終わり、全てが始まった事に。

感想

第一章ではこりゃいけると思った本だったけど、進めば進むほど面白さが減退していくというやな状況でしたわ。
第一章では唐突に語りの主格の人物が途中で変わったりしたのに面くらい、第三章ではなんでここまで状況が変わってるんだろうと訝り、第四章で振り出しで終わりというどうなってんだかさっぱりな状況に落ち込み、第五章でこれでほんとに終わりといわれてもどこで終わったんだろうとひたすら悩む仕様。
65点と言った所か。

参考リンク

ライオンハート
ライオンハート
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恩田 陸
新潮社 (2004/01)ASIN:4101234159
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以下ネタばれ
結局は高畑京一郎の「タイム・リープ*1老子の「胡蝶の夢」をごっちゃにしたSFって事か。
初めの章で歴史改変物のSFだという風に考えていたんだけど、「胡蝶の夢」出してくるとは思わんかった。
第四章でエリザベス1世がこの夢の根源でエドワードはエリザベスの夢の作り出したものとしているわけだけど、エドワードがエリザベスに時空を旅して会いに行った事で終了かと思いきや、第五章では今までの轍を踏み外して幸せなラストを飾っている。こうなると卵が先か鶏が先かの議論になってしまうので、正直どちらをラストにもって来るべきなのか非常にわけがわからなくなってくる。さらに五章の話を考えると、フランスに行ってしまった彼らの娘は当時もうニ章の主人公を生んでいる事を語っているので、ちょっとした矛盾点を作り出している。作者はこれを意識的にやったのか無意識的にやったのか、果たしてどちらなんだろう?
ハッキリしているようで、かなり曖昧な終わり方をしているので、もう少しキチンとした話のつくりをしてもらいたかった。ミステリー書きなはずなんだから、SFだとしても手抜かないで欲しい。
確かに文体にしろ、内容にしろ、それなりに面白いのは確かだけど、手法を凝らす方向での実験作なんじゃないかとの感も拭えない。
第一章での嫌な医者との遭遇に関しては非常に感情を揺さぶられてよかったのだけど、二章・三章と無難なレベルで四章で地に落ちる内容は少々惜しい。構想はいいのだからきれいに纏めればいいのにと思ったのでした。
春樹チルドレンと呼ばれる恩田陸村上春樹より文章的にさっぱりしていて好きになりかけたのに惜しいなぁ。
やはり、読者の感情を揺さぶってこその小説ですよ。村上春樹の小説は喜怒哀楽の哀が強いけど、わたしゃ怒が強い小説が好みなので合いませんな。恩田さんには次に期待。

追記:読み逃していたが、ロバート・ネイサンジェニーの肖像という小説が本当の元ネタだった模様。あとがきに書いてあるを見逃したのと、ロバート・ネイサンを知らないのがこうなった原因。つか、ロバート・ネイサンの著作は軒並み絶版だそうですが、どうやってゲットするべきなんでしょうな。
ちなみにジェニーの肖像というのは絵描きが出会う少女が、出会うたびに歳を取り自分の書いている肖像に近づいていくというすれ違いが生む淡い恋愛を描いた小説です。