馳星周 雪月夜

馳星周は殆ど読んでるが、話のプロットが大体同じで、最近はマンネリ化している。いままで第18回吉川英治文学新人賞と第15回日本冒険小説協会大賞日本軍大賞、第51回日本推理作家協会賞そして第1回大藪春彦賞を獲っているものの、賞に負けていると最近では感じる。大藪春彦はたしかにモータースポーツと狩猟と銃とセックスと暴力に偏っていた。馳星周と基本的なところではそこまで違っていないともいえる。しかし、暗黒小説と銘打つからには全体に漂う倦怠感、絶望感、徒労感、焦燥感、そして一条の光を見つつそれを手に入れられない蜘蛛の糸の如き話でなければならないんじゃないかと思う。
大藪春彦の書く小説にも暗黒面はあったが、必ずしもそれがすべてではない。復讐するにも牙を尖らせ、爪を隠す繊細さで悠々とやってのける。敵を騙し、味方を騙し、すべてをそこに残して一人立ち去る。そうかと思えば、何かの為に自分の命をかけて成し遂げようとしたり、誰かの為に約束を守ろうとしていたり、きちんと人間を描いていたといえる。
そこから馳星周を振り返ってみると、キャラクターはアジア系のマフィア・ヤクザを中心に表層的な感情面と打算だけで動いているのが見て取れる。キャラクターの動く最大の目的は金、次が女、次が薬だ。ここまで解剖してしまえば殆どの作品はほぼ同じといっていい。プロットはにかより過ぎてあとはキャラクターの伏線ぐらいしかなくなってしまう。ディップスイッチのようにオンオフされる生死も全くカタルシスがなくなってしまい、台無しでもある。致命的になのは頭のいいキャラクターが全くいないことだ。故に全てが低俗に堕してしまい、感情の暴走でご破算になる事ばかりだ。
馳星周は暗黒と銘打った世界観から今すぐにでも飛び出し、新境地を開拓せねば、この先5年と持たないだろう。

あらすじ

祐司はやくざの息子で、幸司は露助船頭の息子。祐司は幸司をいじめ、苦しめつづけてきた。幸司は祐司に嫌気がさして東京に出て右翼団体に入った。祐司はそれを追うように地元から出てやはりヤクザになったのだった。それで二人の縁は切れたはずだったのだが、幸司は右翼を辞め地元に戻ってしまい、祐司は幸司の右翼時代の友人が金がらみで逃げているのを追いかけて幸司のところに逃げてくるとふみ地元に戻ってくる。二人の因縁は果たして消えるのだろうか?

感想

珍しいといえば珍しい小説。今まではどこかの国の大都会だったにもかかわらず、今回は北海道の根室が舞台。雪が深々と降り積もり、感情まで凍えさせる街が舞台なのだ。当然時期も冬で、暗く静かな夜が続く。だが、人の活動をことごとく邪魔をするこの季節に人はエネルギーを溜めつづける。発散、清算される事のない陰のエネルギーはこの物語の主人公二人に溜まり続けていたといっていい。もしもこんな関係があったなら、加虐していた方は明らかに精神異常者だろう。サディストと切り捨てるには少々執心が過ぎる。どちらかといえば執心の方がメインであるからストーカーの部類といってもいいと思う。男にストーカーされる話なんぞ読みたくはないわな。しかも、理不尽に虐待されるというのもあれだ。行き過ぎたジャイアンである。幸司が持ってるものはすべて壊したくなるって一体・・・。
まぁ、物語としての整合性は取れているものの、いささか変な話ではある。主人公には目的が初めからないし、流されているだけだし。ただ、今までと比べて目先を変えてみたというのは理解できる。願わくば、もっと俯瞰的に自分の作品を読み返し、自分にないものと自分に加えても問題ないものを発見してもらいたい。現状では人間の描写が実に薄っぺらで、みな頭が悪すぎる。救い様のないシナリオにしても、全員死ねば救い様のないシナリオになるなんて考えは一度捨て去った方がいいと思う。一応推理作家協会賞とってるんだから、ミステリー的なシナリオもこなすべきだ。
つーか、大藪読んでちったあ勉強しろや。
40点。(点が甘すぎだが舞台配置が都会ではないため

参考リンク

雪月夜 (双葉文庫)

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雪月夜

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