井上雅彦監修 ラブ・フリーク―異形コレクション

あらすじというか内容説明

恋愛系ホラーショートショートのオムニバスアンソロジー本。ホラーというとゴシックとか昨今の鈴木系ホラーを思い浮かべるかもしれないがちょっと違う。恋愛系という斬新な切り口で構築されているこの本は、ちょっと他に類を見ない稀有な本である。すべて書き下ろしで書かれてある。以下は作者名とその作品名である。

  1. 中井紀夫テレパス
  2. 加門七海「女切り」
  3. 早見裕司「逃げ水姫」
  4. 朝松健「地下のマドンナ」
  5. 森真沙子「ニューヨークの休日」
  6. 田中文雄「怪魚が行く」
  7. 倉阪鬼一郎「老年」
  8. 井上雅彦「赤とグリーンの夜」
  9. 奥田哲也「スマイリング・ワイン」
  10. 竹河聖「猫女」
  11. 友成純一「アドレス不明」
  12. 久美沙織「REMISS(リミス)」
  13. 高井信「加害妄想」
  14. 岡崎弘明「太陽に恋する布団たち」
  15. 飯野文彦「東京悲恋奇譚」
  16. 矢崎存美「人殺しでもかまわない」
  17. 津原泰水「約束」
  18. 皆川博子「砂嵐」
  19. 菊地秀行「貢ぎもの」

感想

ショートショートのアンソロジー本のいいところは多種多様な切り口で同一の内容を取り扱うという事にあると思う。皆同じものを題材としているというのに、一つとして被るものがない。また、自分の知らない作家を知る機会でもある。
上記のリストの中では加門七海・朝松健・竹河聖高井信菊地秀行井上雅彦辺りしか俺は知らなかったわけで。元々畑違いの人たちがホラーの短編を書いたりする事は当人にとっても刺激的な事だったんじゃないかな。
さらに実に面白いテーマ「恋愛(Love)」。こんなホラーもの見た事無いというまさにビックリ箱状態である。ホラー=恐怖というのは安易にも程があるというある種のアンチテーゼなのかもしれない。ただ、惜しむらくは全体としてのレベルが高いのではなく、個人でのレベルの差異が実にハッキリしすぎている事だと思う。これを全体で採点するならば60点ぐらいだろう。でも、中には非常に優れている作品もある。
自分の心に残って、忘れられない物は著:岡崎弘明「太陽に恋する布団たち」だ。これは正直ファンタジーに属するたぐいの話だが、アイデアと着眼点には他を寄せ付けない物をもっているのではないだろうか。陳腐に見えるアイデアだが、果たしてこれを着想したとして書ける作家がいるか?という問いならば、黙すぐらいしかできなさそうだ。これ単体ならば90点を上げたい。

参考リンク

ラヴ・フリーク (広済堂文庫―異形コレクション)

ラヴ・フリーク (広済堂文庫―異形コレクション)