フィリップ・K・ディック アンドロイドは電気羊の夢を見るか

フィリップ・K・ディックは知らない人も結構居るとはおもうが、案外原作のある映画で見るケースはあるんじゃないかな。例えば「トータル・リコール」なんかは原作は彼だし。「マイノリティ・リポート」や「ブレードランナー」、「ペイチェック」、「クローン」、「スクリーマーズ」、「バルジョーでいこう!」と数えれば結構映画化されている原作が見つかる。
作者は薬中で鬱病のどうしようもない快楽主義者だったが、書く作品全てに絶望という名の金字塔を打ち立てた、非常に素晴らしいエンターティナーである。
ただ、薬によるトリップによって、本によっては、所々つじつまの合わないところが有ったりするが、それは気にせずに読む事。気になる人は読むのを辞めた方が吉。
なお、1983年3月2日53歳で心臓発作によって死去している。

あらすじ

地球が環境破壊で壊滅的ダメージを受けた世界では人間は何らかの有機的な生物をペットとして買う事がステータス化していた。動物は何でもよかったが、その大きさが物をいい、飼っていない人には社会的な信用をも得られないようなゆがみも生じていた。
主人公のリック・デッカードは、火星植民用に作られたアンドロイドを捕まえ、処分するバウンティハンターである。そんな彼には一つの悩みが有った。自分が飼っている動物が機械仕掛けのまがい物である事だ。彼はいつかちゃんとした本物の動物を飼いたいと願っている。
彼が目標とするアンドロイドは高度に作られており、人間と見た目では見分けがつかず、また、地球に来るという事は火星からの脱走の折、人間に対して危害を加えているという事で処分されるのである。
見た目で区別のつかないアンドロイドであるが、フォークト・カンプフ検査という方法でのみ、その偽装を見破る事ができるので、彼は自らの生死と精神の磨耗を感じながら、ただひたすら自らの望みのためにまい進していく。
ただ、そんな彼もだんだんと疑問を感じるのだった。

感想

ブレードランナーとして映画化された作品ですわ。未だにブレードランナーそのものは映像としてみてませんが。(ぇ
しかしまぁ、聞くところによると原作との相違は相当のものらしく、原作の方がよさげですな。
今まで5回ほど読みましたが、何度読んでも味のある、発見のある珍しい小説です。人間とそれ以外を区別する事はこの先どんどん難しくなっていくでしょうな。ようは複雑さのレベルの違いと、構成する部品が生体系の部品化の違いだろうし。分子、原子レベルだとCHO以外にもいろいろ使われる事になるだろうけど*1、感情やら思考レベルはこの先大いに進化する*2事になるだろうしね。そのうち人間は本当の意味で神を作り出す可能性もあるだろうね。本当の意味でのデウス・エクス・マキナが出来た日には手塚の火の鳥未来編やターミネーターの如く人間対機械という未曾有の戦争すら起きかねないが、もう一つの思考存在がどんな形であれ、存在する事は人類においては非常に有意義だとは思う。まぁ、そうなるのは相当先だろうけどね。
この本においては人間とアンドロイドの境界を主人公が行ったり来たりする事が物語を進める要点になってるが、最終的な達観点が実に興味深い。
正直筆者が死後に継ぐ形で書かれたブレードランナー2・3とは違い、切迫感がひしひしと感じられる。続編の方はストーリーを追うだけの内容で実に薄っぺらなんだよね。まるで映画のプロットをそのまま小説にしたような内容で作品世界を片っ端からぶっ壊してる印象しかない。そも「アンドロイドは〜」より「ブレードランナー」の続編としてるからしょうがないのかもしれないが。
馳星周あたりの暗黒小説が好きな人、そしてSF映画が好きな人にはお勧めな本だな。
点数は85点。

*1:例えば現在のコンピューターで使われているのはシリコンやらガリウム砒素やらですよ。他にも骨とかに使うために恐らく金属系のものや合成樹脂なんかが使われる事になるかと

*2:させるんだろうねぇ、人間が