乙一 小生物語

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感想

乙一十作目。
今回はほとんど日記・エッセイ状態なのであらすじは必要ないですな。内容は大きく分けて三つ。

  • 大学を卒業した後も残った愛知県豊橋市での生活
  • その後仕事のことを考えて東京に引っ越し
  • 更にちょっとだけ引っ越ししたら神奈川へ

日記として書かれているらしいけど、やっぱり面白いこと書いてナンボみたいな芸人魂を発揮してしまっているので半分以上創作臭い。一応ネタ帳としても機能させているところもあるみたいだけどほとんど生きてない。
それもそのはず、ほとんど仕事していないから。やっぱり思った通り、仕事を断りまくって映画に精をだしていたわけで。
この本のテーマとしては「ラノベを馬鹿にするな、ラノベは俺の作風だ!」あたりか。ラノベよりもっと高尚とか言われるとカチンと来るそうな。
ま、この本に900円払うのはコアなファンだけで佳いと思う。普通の人は『さみしさの周波数』&『失踪HOLIDAY』を買った方がお得だね。
『ZOO』以来ほとんど全くと言っていいほど活動してない作者。頼むからそろそろ本格始動を考えて欲しいなぁ。一応確認できているだけで『ファウストvol2・4』、アンソロの『青に捧げる悪夢』と『七つの黒い夢』。あ、3/24に『とるこ日記』が出るけれど定金伸治名義らしい。てっきり乙一松原真琴との共著だと思っていたのだが・・・。
つーことで新刊が読みたい・・・、もうそれに尽きちゃうなぁ。暇つぶしにこれでも読むと佳いかもしれぬ。
相も変わらず幻冬舎はこれにしても、『死にぞこないの青』にしても、『暗いところで待ち合わせ』にしても微妙にずれた所を見つめてるなぁ。
一応内容については面白いことは面白い。でも、物足りないのは言わずもがな。プリンだね、プリン。美味しいけど軽すぎて量がない。かといって量があっても重すぎてくどくて気持ち悪くなる。これぐらいが丁度いいんじゃないかな。

参考リンク

小生物語
小生物語
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乙一
幻冬舎 (2004/07)
売り上げランキング: 8,075

東野圭吾 ブルータスの心臓

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あらすじ

高島勇二は極単調な仕事をしていて死んだ。ロボットと人間、その比率はその仕事において人間の方が少ない。人間はロボットが誤作動をしないか見張るだけだ。日勤と夜勤の二交代を二週間ごとに行う孤独な作業でもある。何より人間とのふれあいがない。彼には恋人が居た。その恋人との休日が彼の全てだった。しかし、彼は死んでしまった・・・。

末永拓也はどん底から這い上がってきた人物だった。産業機器メーカーMM重工に勤める拓也は両親に恵まれず自分の学力と立ち回り、そして有能さを武器にハイソサエティへの道を歩もうとしていた。
しかし、そこに大きな問題が立ちはだかる。後腐れのない女だと思っていた雨宮康子に引っかかってしまったのだ。康子は妊娠したという。当然堕ろすだろうと油断していた拓也に産むという意思は青天の霹靂そのものだった。康子は拓也以外にも複数と付き合っていたようだ。何分の一かの確立で彼の子供という可能性があるわけだったが、リスクは無い方が佳いに決まっている。こんな時に・・・、そう思わずにいられない。丁度今MM重工の創業者一族である仁科敏樹の次女星子のお眼鏡にかない始めていたのだ。これをステップアップとしてのし上がるのも夢ではない。康子の存在は障害以外の何者でもなかった。
思い悩む拓也の元へ声をかけてきたのは仁科直樹が最初だった。直樹は拓也の長男であるが、社内では飼い殺しにされている人物であった。拓也の所属するロボット事業部の開発企画室室長をやっているが、ほとんど仕事にはタッチしてこない。親の七光り以上ではない、それが世間の評だった。彼は父と母が離婚する上で母の方へ付いていった。そして苦労したらしい。母が死んだことで父に引き取られることになったのはいいが仁科家自体とは精神的に断絶している。そんな直樹が拓也に声をかけてきた目的は一つ、康子のことだった。康子と他に付き合っていたのは直樹とそして拓也と同じく婿レースに参加している橋本敦史の二人だった。もしかしたら他にもいるかもしれないが直樹が調べた人物ではこの三人で間違いがないらしい。
直樹が会社の自室へ二人を呼んだのは康子をどう取り扱うか、それが話し合われた。一番都合が良いのは康子が死んでしまうことだ。そこで直樹はある計画を提案する。大阪・名古屋・東京とリレー状に死体を運ぶというのだ。勿論大阪で康子には死んで貰う。運ぶための手段も確保されており、三人は意思を一つに決めた。
拓也と橋本が異常に気がついたのは死体を橋本の運転する車に移動させるときだった。死体に被せてあった青色の毛布がずれて中身が見えたのだが、それは康子ではなく・・・直樹の死体だった。異常事態に気がついた二人はパニックに陥ったが、直樹のマンションの駐車場に死体を移動させることにする。
だからといって問題が消えたわけではない。一体誰が直樹を殺したのか?そして、三人それぞれが裏切らないように書いた血判状は一体誰が持っているのか?。
直樹の葬式が催され、橋本と拓也に直樹の葬儀のお返しとして粗品が郵送されてくる。中身は万年筆だった。それを使う使わないが二人の明暗を分ける。橋本は使用したことで中に込められていた青酸の結晶がガス化し、中毒死した。直樹は殺されずに犯人を特定することが出来るのだろうか?

感想

東野圭吾十九作目。これが1989年ということでやや古いです。でもこの頃には作者のスタイルはほとんど完成していたみたいですねぇ。大きな変化は感じられませんでした。
ま、題からして「ブルータス」とか付いちゃってますから確実に誰かが裏切られるんだろうなぁという内容です。そして非業の死を遂げると。副題に「完全犯罪殺人リレー」って付いてますけど嘘ですから。
それにしても結末といい内容といい大衆迎合しちゃったように思えます。もしかしたら結末ありきで考えたからかもしれませんね。トリックが先にあって、結末を中心に話作りをしたように思えました。
それにしてもロボットが仕事を奪うって言うのはかなりステレオタイプな話ですよ。ロボットは間違いをしない?それはないし、必ずしもこちらの思っていることを100%やってくれる訳じゃないですから。それに進化はどんどん続いてますが何でもかんでもってことは当時は特にないんだよなぁ。ようやく最近その恐れが出てきたかもしれないぐらいなのに20年近く前にそれを言われてもねぇ。人間の職人とロボットの棲み分けは出来てますから全てを自動化というわけにはいきません。理論値と実測値並みの違いは出ています。
ただ一方でブルーカラー側の意見としては解らなくもない面もありますよ。例えば使い捨てされがちですし、管理側のホワイトカラーと比べると給与格差が酷いです。生涯賃金のレベルで考えると二倍近いとか、熟練工になってようやく年収八百万円程度とか、実際の汚れ仕事をしている側としては福利厚生が中途半端だとか、管理側のお仕着せのしわ寄せを喰らうとかね。製造業で保っている日本の裏側はこんなもんです。まぁ、それでも大企業の場合は佳いけれど、その企業の子請け、孫請けなど洒落になってません。一個数円単位、銭単位の仕事でチマチマと倒産と闘っているというのですから恐ろしい話です。技能があろうが、仕事を切られたり、手形の不渡り、銀行の貸しはがしに遇えば一遍にパーですからねぇ。
ま、ロボットと人間で比べたら熟練工の方が今のところ全然上です。機械が出来ないことを人間がやる、それでいいんですよ。ただ、熟練工になるのは時間かかりますからねぇ・・・。
それにしても現場を知っているはずの作者が工業会社の現状をバッシングをするのはちょっと意外。
激情型殺人であったのは良い点だけど、それ以外は微妙だねぇ。
ロボットを愛して人間を省みない非人間性ブルーカラーの側は憎み、結果代替行為として憎しみはロボットに向かうことになる。悪循環なんだよなぁ。これって手塚の頃には既にあった事だから、実に今更なわけ。ロボットは完全無欠とかいう台詞を制作者がはけるわけがないんだよね。理想はそうでも現実には簡単にいかないわけで。一種の被害妄想に近いかな。それに犯人自体にも理がないし、今時ハイソサエティとか言われてもねぇ。考え方がちょっと古いわ。
今後製造業ではなく情報産業を下敷きした作品にも手をつけてくれないかなぁ。
70点
追記:もはや絶滅危惧種のツンツンが見られたのは収穫なんだろうかw?

参考リンク

ブルータスの心臓―完全犯罪殺人リレー
東野 圭吾
光文社 (1993/08)
売り上げランキング: 75,166

ブルータスの心臓
ブルータスの心臓
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東野 圭吾
光文社 (1989/10)