浦賀和宏 記号を喰う魔女 FOOD CHAIN

ASIN:4061821288

あらすじ

小林英輝の目の前で死んだ男の名は織田といった。高校の同級生で同じ天文学部の部員だった。彼は見目麗しく、学内にファンクラブが出来るほどであった。そんな織田は陽明門の逆柱の如く神からの怒りを避けるように一つの欠落点があった。左手の小指が無いのだ。幼い頃に機械で挟んだとか言う話を聞いたことがある。だが、事実はどうなのか本人に聞いたことはないのでわからない。だが、不完全である故に彼は完全だった。
織田が死んだのはクラブ活動の行われていた理科室でのことだった。
「安藤さん、さよなら」
唐突にそう織田が言って手近の窓を開けてサッシに上る。それに対して安藤優子は小さく、それでもきちんと通る声で返答した。
「さよなら」
織田は微笑みを顔に湛えたまま落下していった。
織田は三階にある理科室から落ちていって頭から地面にキスをした。即死だった。その時理科室にいたのは英輝と安藤、そして同じくクラブのメンバーである坂本、石井、山根の五人だった。
坂本は織田と付き合おうと必死だった女子である。当然織田が死んだことに半狂乱になった。そうして安藤に対して猛烈な殺意・敵意を燃やすことになった。安藤に飛びかかって引きはがされた後も坂本はこう叫んでいた。
「あんたの所為よ――あんたの所為なんだから――。あんたの所為で織田君は飛び降りたのよ!」
安藤はそんな坂本の声を意に介さないかのようにいつものように無言だった。
その後織田の通夜が催された。喪主は織田の叔父夫婦とか言うことらしかった。天文学部のメンバーは皆きちんと出席していた。だが、坂本は先に帰ってしまったようだ。坂本を欠いたままあの時に現場にいた四人は織田の叔父に呼ばれていた。織田の遺言で彼の生家がある角島という離島に招待したいという。
結局みんな悩みながらそこに行くことになった。英輝自身は安藤が一番にそこに行くことを承諾したので嫌も応もなかった。彼は安藤に対して恋心を持っていることを自覚していた。しかし、安藤は虚無的な存在だ。静謐な彼女に鑑賞することは躊躇われた。勿論自分に自信がないというのも関係しているだろう。でも一縷の望みをかけたのだ。
織田が死んでから坂本の様子は日に日におかしくなっていった。それでも、織田の遺言に従って島には来るらしい。石井と山根も同様だった。結局あの時に居たメンバー全てが角島に行くことになったのだ。

しかし、織田の遺言は嘘だった。カニバルの宴の幕が開く事をこの時の安藤と英輝は知らない・・・。

感想

浦賀和宏五作目。同様に安藤直樹シリーズ五作目。今回はとことんカニバリズムと精神性を突き詰める形の作品となったようです。カニバリズムというと鬼子母神やらゴヤルーベンス*1が描いた「我が子を喰らうサトゥルヌス」などが脳裏に浮かびますね*2
今回は珍しくクローズドサークルを使いました。てっきり館物だと思っていましたが、実際は絶海の孤島物でした。視点主人公は小林英輝、つまりは安藤直樹の父親と目される人物です。ただ、これは確定ではないし、直樹の父親は一人で首吊り自殺したあっちの方を指す方が今までのシリーズとしては正しいようなので微妙な感じです。
にしても英輝は小説家を目指している為か妙に文語的表現が頻出します。例えば
門前雀羅を張る*3とか落莫*4とか、今までの作風は平易な言葉で綴る物だったのにやや難解な熟語、慣用句を頻繁に用いています。
完全に今回は定視点が英輝一人なので今までのシリーズの登場人物達との差異を演出したかったように思えます。でも一方で難しい言い回しを用いるのは小林という主人公のペルソナなのかもしれないと思うと断定は難しいかな。でもこういった文語的表現ばかりだと読み辛いし、文壇文学っぽさがただよって拒否感が出ちゃいましたよ。
ま、今回の話は『時の鳥籠』で語られた安藤優子と小林英輝の繋がりの馴れ初めですね。でも私はどう考えてもこの話が繋がるとは考えづらいんですよ。欠落点というか始点と終点そしてその中間点を描いているように見えてそのどれもがちぐはぐに感じてしまうのですよ。まるでパラレルワールドを覗いている気分です。
だって未曾有の狂気に彩られた二人の女性が友人関係になるってのはどう考えても空論でしょう。片方が呪術的に友人だと宣言しますが、もう片方にはその言葉が意味を持つとは到底考えづらいです。もしもそれが現実の物となったのならば、明らかに壊れています、人間として。つまり、その後の話が語られない限り、断絶しちゃってるんですよ。一応もっと離れた時間の事柄は語られていますが、それではやっぱり駄目ですね。もっと近いところでの変節のストーリーが欲しい所です。
それにしても純文学的要素を含みつつこねられる歪んだ愛の形がアイロニーを持って具現化されたわけだけど、所有欲を欠いたそれは観念的すぎる気がするんだけど私だけ?。ここに書かれているのはただただ計画、プロットでしかなく箱庭的なんだよね。愛の形が選別とその結果に過ぎないと言うことはアナーキズムと変わりがないし一歩間違えれば自分の意思を必要としない装置的な物になってしまう。確かに状況の異常さに言及し、喝破することは可能だけれども、それに気がつかないほどの魯鈍化を受け入れてしまっている英輝の状況を愛は盲目と言ってしまえば楽だけれど、思考停止と極限的な状況はセットになって狂騒を引き起こして暴力至上の弱肉強食を地で行ってしまった優子に対して執着が無さ過ぎるようにも感じるのですよ。だって『時の鳥籠』では意思の感じられない「優しい人」という印象の薄い我のない人物になってしまっているのだから。
ここで謎として残るのは小林英輝という人物が生存と言うことでは強者であったのに何故自己の優位性を武器として優子を縛り、手にしなかったのかということですな。諦めるのが早すぎるし、それに方法論を彼女に合わせること自体が間違いだという我が無いのは流石に理解できないわ。
優子自身が強者と位置付けた英輝が利敵行為をした優子へ報復的行動でている。これはつまり生殺与奪の権利を手に入れたと言うことに等しい。これは同時に英輝自身の絶望がほの見える。解釈としては壊れてしまっている相手と自分自身に絶望してしまったと言ったところか。それでもなお喪失を恐れるわけだから飴と鞭にやられてしまったのかもしれない。ここで下される評価は一様に停滞であり諦観なのだろう。実行能力に乏しいが最低限の悪あがきを試みた彼のみが遺憾ながら常識人であるということになるのだろう。
だが、奇形的な愛しか知らない異形の魔女に恋したことが常識人の悲劇になってしまった。変容は世の常だ。変わらない物は死んでいるに等しい。故に悲しいのだ。幽冥な残像には意味など皆無なのだから。有は無を産んでしまった。やはり特異点は優子自身なのだろう。関係した物がどんどんと壊れていく。英輝もその犠牲者だ。
本書でこのシリーズは清廉であえかな雰囲気が悪趣味に堕したような気がしてならない。基本底流がこれであったのならば私は勘違いをしていたのだろう。
ま、ミステリー的にいじくりすぎてしまった可能性も否定は出来ないけどね。整合性の面で好きにはなれそうもないなぁ。
70点
なんとなく坂本の事を考えているとまるキ堂やら白液書房のキャラクターが思い浮かびましたw。

参考リンク

記号を喰う魔女
記号を喰う魔女
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浦賀 和宏
講談社 (2000/05)
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*1:フランダースの犬でネロが死ぬ最後の間際に見た絵画がルーベンスの絵ですわ

*2:サトゥルヌスはゼウスの父であるクロノスと同一視されています。なお、サトゥルヌスは英語でサターン、つまりは土星を意味します

*3:門の外に雀が群がるので、網を張って雀を捕らえることができる。訪れる人もなくさびれている様子。威勢が衰えて訪ねる人もない様子。

*4:物寂しい様

交響詩篇エウレカセブン 47話 アクペリエンス・4

地球。砂浜のような場所でレントンの姉がぽっつり立っている。レントンは全ての観念がぶっ飛んで姉の元へ駆け寄ろうとするが、逃げ水のようにどんどんと逃げていく。必死に追いすがろうとするレントンの様は寄る辺ない子供そのもの。年齢相当ってのが合ってるかと。
やがてホワイトアウトして場面転換。セピア色の街角に移動したようだ。壁には本がたくさん詰っていてまるで図書館。そこでようやく再開するレントンとダイアン。二人は話をすることになる。
ダイアン曰く、レントンエウレカ・子供三人はようやくスカブコーラルの中心、司令クラスターについたということを宣言する。
一方エウレカエウレカで同様の街角にたどり着く。サクヤの本をあるところに届けなければならない、と健忘的に走っていく。
街中にはぽつりぽつりと本を読む人がいる。座って読んでいたり、立ったままだったりと様々だが動きそのものは緩慢でどこか満ち足りた感じがする。
ダイアンは「気がついたらここに来ていた」という。ここではスカブコーラルが何を考えているか実にスムーズに理解できるのだそうだ。だから外の人間が解っていない真実をダイアンはレントンに伝える。

ある意味でアカーシックレコードそのものだな。若しくは煉獄か。

一万年前、隕石がロケットにぶつかりスカブコーラルは地球に来襲した。ただ、元々地球外生命体だったのか、それとも偶然によって発生した物なのかは解らない。彼らは海ではぐくまれていった。知的生命体だったスカブコーラルはどんどんと増殖し、やがては人間はその存在に脅威を感じさせるまでになった。故に人間は攻撃を加えていったが、スカブコーラルはほとんど痛痒を感じなかった為全くと言っていいほど戦いにはならなかった。地表のほとんどをスカブが覆ったことでやがて人間は地球を離れ、そして地球上にはスカブコーラルだけが残った。あらゆる生命と融合を繰り返したスカブコーラルはそこまで来てようやく気がついた、孤独というものを。融合しないと意思を伝えることが出来ないスカブコーラルは再び人間がやってきたことをとても喜んだ。何故ならば人間がスカブコーラルと対話が出来る可能性を秘めた唯一の例外だったからだ。しかし、両者は敵対している。しかもスカブコーラルは相手に意思表示をする方法がない。唯一の例外が融合なのだ。そこで対話の可能性を外的に求めたのがサクヤとエウレカという人型コーラリアンであった・・・。
メーテル・リンク・モーリスの三人はエウレカレントンとはぐれてしまった。泣きそうになる二人を押さえようとするがモーリスもやっぱり涙目。そこに現れる人影が・・・逆光で誰だか見えない。
アイキャッチ
ダイアンは話しつづける。クダンの限界はもうそこまでやってきているという事実。スカブの司令クラスターが破壊されたら寝ているスカブコーラルが起されてクダンの限界が起こる。三千年前に人間と増え続けるスカブコーラルによって引き起こされたクダンの限界によって実際に世界が裂けて裂け目の向こうにまた別の世界があることが解っている。もしもクダンの限界を突破しない道を選ぶというのならば、スカブコーラルと人間の融合をしなければならないという。
しかしレントンは悪あがきをすることを頑なに提案する。それ以外の道の模索を愚直に求める。

一方的人類補完計画キタ━(゚∀゚)━!

いつの間にか子供三人と合流しているエウレカ。そしてその場所に来ていたのはレントンの父アドロック・サーストンだった。
レントンエウレカはユニゾンで司令クラスターへの攻撃を止めると宣言する。そして抱き合う。

こういう表現って古典的なアニメだよねぇ。なんか未来少年コナンを思い出しますよ。健全に抱き合って喜びを分かち合う。ああ、汚れちまったなぁ。

レントンは子供三人の側に人影を見つけ、そして父を発見する。なんとなく思いをぶつけるレントン。アドロックはただ微笑んでいるだけ。
そこへ司令クラスターの決定をダイアンが運んでくる。エウレカレントンの案を承認したという。

結局アドロックは喋らなかった。じゃあ何のために出したんだか。

そうして五人は戻っていった・・・。

一方デューイはセカンド・サマー・オブ・ラブを執り行うためにオラトリオNo.8を使うことについて演説、後にスイッチを押した。


うーん、やっぱりクダンの限界が最大のネックだな。「知的生物が一定量、一定の場所に集まりすぎると空間が壊れる」というのは何故?とかどうして?とかいう疑問以前に、んなわけないだろと意識的に拒否が出ちゃうからここのディティールをなんとかすべきだったわ。ほとんどMMRの「地球は滅亡する」に近い話がだしなぁ。
で、最終回に向けてもうほとんど決まってしまった。共存はほぼ無理。となるとどちらかが地球を離れることになる感じか。まぁ、元々随分前から伏線として後悔しているような回想が入っていたから別離は時間軸リストにあったんだろうな。まだ先も見えないというのにウルトラE難度の着地点を考えるとするとエウレカが残ってスカブコーラルが移動・移住ということになりそうな予感。別離はエウレカとの物じゃなくてスカブの中で精神体として活動しているアドロックやダイアンのような気がする。ちなみに鬱エンドとして考えられそうなのはレントンだけ残して人類滅亡スカブコーラルに埋没して精神体として生き続けるレントン。あのときああしていれば、こうしていればと後悔に明け暮れるとかかな。でも流石にこれはないだろう。他にもエウレカ人間化、完全スカブ化とかいうのも残ってるかな。
まぁ、セカンド・サマー・オブ・ラブに関してはゾーンの地球から戻って来るエウレカレントンニルヴァーシュが引き起こすのは当然だろうし、艦隊戦も半端じゃないレベルで行われそうな感じだわ。板野サーカスがアホみたいな数見られそうだね。
デューイは演説とボタンを押したことで死亡フラグが立っちゃいましたね。シロッコよろしく美しくない死に方をすると思われ。
しっかし、スカブコーラルと人間の同化ってのはぞっとしないなぁ。あくまでスカブコーラル側の虫の良い主張なわけでなぜそれを人間サイドが受け入れる必要があるのかが謎。やっぱりここは金枝篇の森の王がそのテーマになっているんだろうな。追われた王(司祭)が戻ってきて、現在王位についている奴を殺そうとしている。状況としてはこれそのもの。王となるには前任者に血の粛清をとなっているわけだから別段おかしな話じゃない。元々スカブコーラル自体が人間を駆逐したわけだからねぇ。論理的におかしいけれど、殺される現王と殺そうとする新たな王が共存するために同一存在になりましょう、って現王に提案されても普通断って殺すと思うんだが。死の掟を負の円環から救うための方便としても佳いかもしれないけれど、何か違うよなぁ。
やはりあの地球はスカブコーラルのゾーンを越えた精神世界だったのだろうか。だったらあそこまで時間をかける意味は何なのだろう。ちょっと気になった。それにエウレカのスカブ化が進行した意味もようわからん。第一あの羽はなんなんだろ。サクヤが蓮の花だったからとか言うのは違うだろうし・・・。あの蓮の花はふつうの物質だったからなぁ。
結局今回は説明に次ぐ説明でリアルワールドでの事柄はほんの2分ほどしか流れませんでした。っていうかタイトルコールが7:20超えたあたりでようやく流れるとか正気の沙汰じゃないからw。