西澤保彦 幻惑密室

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あらすじ

超能力問題秘密対策委員会出張相談員(見習い)神麻嗣子(かんおみつぎこ)がミステリ作家の保科匡緒(ほしなまさお)の所にやってきたのは丁度保科が朝の仕事に一区切りつけるタイミングの七時十分前のあたりだった。毎朝三時に起きて七時まで原稿を書くのが彼の日課で、いつもはそこで切り上げて近所の喫茶店のモーニングを頼む頃合いだ。彼女がやってきたことで保科は感づいた、またあてにされているんじゃないかと・・・。前回保科は自身がが犯罪の容疑者となったことでがむしゃらに潔白を証明しようとした。そこで出会ったのがここにいる神麻さんであり、ここには不在の能解(のけ)警部だ。事件の容疑者になって解ったのはこの世には超能力が存在すること、そしてそれを悪用しようとする者と管理しようとする者が存在すると言うこと。超能力問題秘密対策委員会略してチョーモンインが超能力者を管理する側であり、神麻さんは見習いとは言えそこに属している。とはいえ、対超能力者に超能力者を当てるというわけではないので神麻さんは普通に超能力が使えるわけではない。ある条件においては使えるのだが・・・これは些末なことなので置いておこう。
さて、神麻さんが保科を訪ねてきたにはわけがあるに違いなかった。小さな背丈でくりくりとした大きな瞳の神麻さんは風体異形である。普段は大学の卒業式でしか見ないような「はいからさんが通る」仕立ての袴姿が彼女とセットになっているのだが、果たして個人的趣味なのかチョーモンインの制服なのかは未だ聞き出せていない。おまけに三つ編みを二房左右にぶら下げている様は少しばかり時代錯誤を感じさせる。一体彼女はいくつなのか、謎である。そんな彼女が半べそをかいて頼み事をしに来たとした考えられるのは一つしかない。また事件に付き合え、そういうことなのだろう。保科は賄賂として純和風の朝食をごちそうになってしまっていたのでそれに付き合わないわけにもいかず、なにより神麻さんが苦手にしている能解警部に会える口実が出てきたことを実は喜んでいた。容姿端麗頭脳明晰な女性に会えることは自宅に一人籠もって文章を書くよりももっと愉しいことだからだ。能解警部に神麻さんは叱られて以来苦手意識を持っているようだが、何を怯えることがあるんだろう?と保科は首をかしげた。

当の事件はその一昨日前に起きていた。死亡したのは<株式会社ゲンキクリエイト>社長の稲毛孝。場所はその稲毛の自宅である。当日その場にいたのは稲毛を除いて新年会と称された物に呼ばれた人物四名。稲毛の妻と浮気をしている岡松治夫、稲毛の娘と出来ていると思っている勘違い男の羽原譲、そして社長愛人の古明地友美と山辺千絵であった。岡松は不貞をなじられてクビになるのだと恐れ、羽原は社長が自分と娘を祝福してくれるものだと勘違いをし、愛人二人は社長から捨てられるのだと恐れを抱いた。
やがて変なことが起き始めたのは全員集まってからだった。家からは出ることが出来ない、電話も通じない、半日近く経ったと思ったのに30分ほどしか経っていなかったり、おまけに社長は死体になったあとで移動をしている。酒屋の配達がやってきてから少し経ってようやく解放されたが、酒屋は普通に家にはいることが出来ていた。

全くもってオカルトだ。だが、超能力的にはありふれているようだ。その種別はハイパーヒュプノティズム、通称ハイヒップ。超強力な催眠術の様な物らしい。能解警部にも渡りを付けてしまったことで二つの目的が生まれた。一つ、神麻さんの目的である超能力者の補導、二つ、能解警部の目的である事件の解決。
さて、保科は無事に仕事に戻れるのだろうか?

感想

西澤保彦六作目。今度はチョーモンインシリーズに手を出してみました。発刊ベースで考えるとこれが一番始めなんだけれど、案の定というか、またかというか、これの後に出ている『念力密室』の方が時系列的には初めだったりする。ただ、その中に収録されている念力密室という短編は二つあるらしく、本作の前と後だったりする物だからややこしい。
ま、それは兎も角本編へ。一応ミステリーというか本格な内容なんですよ、ええ。超能力という存在が出てきますが、えらいきっちり定義付けされていてどこも"超"能力という気はしません。
例えば、本作の目玉であるハイヒップという能力は効力は一時間。それも対象に対しては同じ内容をすり込むことは出来ない。一時間のうちに更に他のハイヒップ効果を及ぼすと初めにハイヒップを使った一時間のうちにしか効果は及ばず、累積する毎に効果時間は15分短くなる。つまりは一時間の間にハイヒップを使える回数は4回(1時間・45分・30分・15分)だと言うこと。加えてハイヒップを行う人間はハイヒップワードという対象を縛る言葉を言う必要がある。ハイヒップにかかった人物はベイビーワードというハイヒップを感染させる言葉を言うと、聞いた人物もハイヒップにかかってしまう。
ま、こんな感じですか。えーらいきっちり能力限定がされているので、これならば問題を解くとしても問題ないわけです。
なお、これが出たのが1998年の1月ですが、この頃には既にジェンダーづいてます。『解体諸因』が出たのが1995年の1月ですから、この三年間に何かがあったということですな。
とりあえず、メインキャラクターは三人のようですね。神麻さんと保科と能解さん。確かに法月綸太郎が指摘していたように匠千暁シリーズのウサコ・タック・タカチの様な感じです。なんだかんだ言って軽妙で愉しいです。地の文は保科の独り言状態なんだけど結構弾けてる。こう言っちゃ何だけどちょっと古いライトノベルみたい。古いってのは弾け方がヤバイ方向へ行っていないという意味なので悪いわけじゃない。でもまぁ、萌え方向へ行っているのも否定は出来ないな。神麻嗣子は良く転けるし、ペンギン歩きだし、チビだし明らかに萌えキャラ。それに対して能解警部は鉄の女的な部分から垣間見せる大人の色気を演出。でも速攻で保科とくっつきそうになる内容はちょっと厳しい。紆余曲折ないとねぇ・・・やっぱり。
読みやすさは高め、取っつきやすさも高め。『腕貫探偵』並な文章が書けているからこういうギャグ方向でも元々素養があったんでしょうな。でもここまで柔くするならば解決部分はさっと出した方が逆に掴みになったようにも思う。西澤先生の悪い癖なんだよなぁ、問題出題後の逡巡を順序追って書くのは。分量的には半分それに費やされてるしねぇ・・・。一から十までしっかりかっきりきっかり明らかにしてくれるのは良いんですけど途中からだれてきます。
軽い本格に手を出すんだったら良いんじゃないですか?
70点
個人的にはもっとトンデモになっても可。

参考リンク

幻惑密室
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