古処誠二 UNKNOWN

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あらすじ

静岡の掛川に位置する自衛隊のレーダー基地で電話の盗聴事件が起きる。たまたま仕掛けられた側の人間である大山三佐がノイズに気がついたため早々に発見できたが、大山三佐のいる部隊長室は地下にある。なおかつ、ドアを開けることが出来るのは大山三佐だけだし、元より部屋に大山が人を入れると言うことも必要がなければ入れないと徹底していた。ドアはオートロックでもあるし、入り口には監視役の者もいる。そんな状況をどうやって破って密室の部屋に入ったのか、それは大いなる謎だった。
事態を重く見た府中は現場に一人の男を派遣する。防衛部調査班の朝香二尉、「防諜のエキスパート」である。
その朝香に現場から一人の男が補佐として付けられることになった。警戒監視隊(盗聴器が仕組まれた大山麾下の部隊)の野上三曹である。野上は三曹になっていたが、ペーパーでたまたま昇格したような男だった。ペーパーと言っても四択からなるマークシート方式であるからたまたま運がよかったと言える。本人は朝香二尉の補佐という役割を振られることに「何故自分が?」との違和感を憶えていた。もっと肉体的にも精神的にも長けている者はいるだろう、と。とはいえ、機密に関する事柄だ。重責には違いない。物事はなるようにしかならないのだと彼は自分に言い聞かせていた。
朝香二尉が着任する日、野上三曹は基地ゲートまで朝香二尉が来るらしい時間帯に出向いたのだが、既に朝香二尉は基地内でくつろいでコーヒーを飲んでいた。朝香二尉のぱっと見は優男としか言いようがない。繕ったように見えないリラックスしたほほえみは、ぱりっとしたスーツに似合っていた。野上三曹は一抹の不安を抱かずにはおれなかったが、振り払った。

感想

古処誠二初読み。まだまだメフィスト賞がらみです。本書は第十四回メフィスト賞受賞作ですが、ん〜メフィスト賞っぽくない感じです。あるいはこの軽妙さが新本格っぽいって事なのかもしれませんけど、ミステリの範疇に入る小説の場合、これぐらいだと普通に沢山ある感じ。正直受賞の決め手がいまいちわからないかなぁ。
なお、この本を一言で言い表すならば「コーヒー(゚Д゚)ウマー」に尽きるw。
重くなりがちな軍事的な話題をも軽快に語る語り口は絶妙の一語に尽きますね。かるーい質感に国防を絡め、読者を自衛隊という組織の苦悩へ誘ってくれます。地の文は野上三曹の一人称で進んでいくけれど、話が進めば進むほど何故か愛着が湧くのはなんでだろう。
あらすじに有るようにミステリ的記号の「密室」を使っているのでミステリーなんだけど、ミステリと言うよりは一つの物語に近い。日本人というよりは、日本に暮らしているのだから当然知っておいた方が佳い話なのだけど、憲法的な立ち位置の問題で忌避される立場の自衛隊の内幕をライトにさらけ出してくれています。
それにつけても用意された主人公朝香二尉の醸し出す飄々とした雰囲気は謎をはらんでいて実によろしい。仕掛けとして明確な伏線を敷いているので設定的な謎の匂いがしたのだけど気のせいでしたわ。やっぱり毒されすぎているのかな。まさか実は朝香二尉は女性であqwせdftgyふじこlp;
な展開とは流石にならなかったです。それがあったら、ラノベ決定だったんですがw。
多分受賞の要因は「軍事+語り口の軽さ」だったのかな。てか、それぐらいしか予想できないんですがね。
ちぃとばっかし軽すぎる面もあるけれど、ユーモアと伏線の引き方は絶妙で今後に期待かな。
75点。
コーヒーを飲みながら読むと佳いかもしれない。
欲を言うならば、もっと長い話が読みたい。ちょっとこれだとさらっとしすぎて綺麗にまとまりすぎて余韻にも浸れなかったから。

参考リンク

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