和田はつ子 藩医宮坂涼庵

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あらすじ

藩医の宮坂涼庵が主人公じゃなくて、豪農の所へ後添えに入ったゆみえが主人公。
実家は秋川藩の家老職を代々やっている山村家。実父の山村次郎助は現在隠居している。なお、秋川藩は雲井藩の支藩でたいした大きさはない。
ゆみえは奥勤めでいき遅れていた所を貰ったのが、関野助左右衛門という父ほどの歳の豪農であった。彼女は奥勤め時代に母より教わった医の術で、生まれながらの病に苦しむ姫の側に仕えてきた。それで藩主の憶えも目出度く、生涯扶持を貰える立場になったため、暮らしに困窮している連中からの縁談の話が絶えず、真っ当な人格者と適格者が居なかった。そこに隠居となってのんびりとしたいという助左右衛門はゆえみの父次郎助に後添えとして欲しいという話をしたのだった。次郎助はまだ若いゆみえに言い出しにくかったのだが、助左右衛門が一本筋の通った人物で有ることを知っていたらしく、すんなりと話はまとまることとなった。
そんな助左右衛門が死して2年。義理の息子夫婦との生活は悪くないものの、ほとんど年齢が同じである彼らと生活することは精神衛生上あまり良くなく、彼女は気の病にかかっていた。そこへ宮坂涼庵が診療に訪れる。藩医と言っても小藩であるから、市井で医療行為を行うのは自然なのだ。
涼庵は確かにゆみえを見に来たのだが、実はそれとは別の用件も有ったのだった。藩主の嫡男松剛丸が病気なのだというが、藩主の奥方であるお松の方がどうしても涼庵に診療をさせてくれないのだという。そこで城内で顔の利く立場のゆみえに頼んで貰えないか?と言うことらしい。責任感に駆られたゆみえはいそいそと準備をしてむかうのだが・・・。

感想

初読み和田はつ子。時代物書きじゃない人が書いた時代物らしい。他の著書を調べてみたけど、ミステリーかホラーが主体っぽいですな。
この本読んでの感想としては、一体何が書きたかったんだろう?って事だろうか。女性視点に何かこだわりがありそうだけど、それはさておくとして、ストーリーに閉塞感しか漂わないのでもの凄く中途半端な感じがします。伏線は沢山引かれてるのにそれには全く触れずに話が進行して、誰が救われるわけでも破滅するわけでもないし、興奮や感動、落涙や赫怒でもない。エンターテイメントって部分は皆無。かといって周五郎や藤沢周平みたいな人間を描くって方向でもない。故に何が書きたかったのかなぁ?と首を捻るしかないわけです。
全体として農民の暮らしを豊かにしようとすると実は現在の重臣は私腹を肥やすことに手一杯で・・・みたいな話ばかりで、決着が付かないんですよ。一つ問題をクリアすると次の腐敗が発覚する。更にそれを片付けても一向に治る様子がないので、まるで閉じた世界で同じ事を繰り返しているかのようです。続けば続くほど後味が悪いというか、すっきりしないんですな。しかもどうもこの本で終わりじゃなくてなんとなく続くような雰囲気。伏線消化しきってないからそう感じるんでしょうな。にしてもこの話は女性視点にする必要もないとも思ったりもします。著者が女性だからこういう書き方になったんでしょうが、それなら女医の話にすれば良かったんですよ。取って付けたような男性医師を出すよりはよっぽど好感が持てます。そういう工夫が足りてない気がしますね。ミステリー的な技巧が生かせてないだけに残念です。まぁ、文章はそれほど悪いわけじゃないので物によっては面白い本もあるのかなぁ、とは思います。

巻末に記されていましたが、これはしんぶん赤旗に連載されていたとのこと。他の本を読んでいないから断じることは出来かねるんだけど、編集から口出されたのかな?と思わなくもないぐらいの出来。ただ、読み辛いと云うことはないので時間つぶしは出来る。作品世界に入り込むほどのめり込めないので人には勧められませんがね。
35点。
落としどころを頼むから書いてまとめてください。これじゃあ解決編のないミステリーみたいなもんですよ。

蛇足:公式サイトが有るんですが、そこの説明がイタイ。

このサイトの名前について
アレキサンドライト…和名は金緑石。 主な原産地にはブラジル、マダガスカル、ロシアなど。
光源の種類によって暗い青緑色、暗い赤紫色に色を変えます。
さらに産地によっても色合が変わる、そんな不可思議な石。
それを「作家:和田はつ子」の多才さに例え、この名前にしました。

・・・自分で多才とか言う人ってどうよw。
まぁ、管理人と著者は別なんだろうけどね。

参考リンク

藩医宮坂涼庵
藩医宮坂涼庵
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和田 はつ子
新日本出版社 (2005/02)
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