乙一 暗いところで待ち合わせ

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あらすじ

人との繋がりを持つのが苦手な男、大石アキヒロは印刷会社に勤めている。会社でも人との繋がりを極力持たぬようにしていたら、侮られ、嘲りの対象に自分がなっていた。主犯は松永トシオ。付き合いを断り続けていたある種の復讐なのだろう、アキヒロには殆ど自覚はなかった。やがて松永にどす黒い感情を抱くようになる。殺そうと思った。
松永とアキヒロは利用する駅が同じで、出社の時には同じ通勤列車に乗ることもあった。最近では気分が悪いのでずらしたりしていたが、その日は目にした瞬間に殺すことを考えた。
気付くと松永は列車に轢かれ近くにいた女性が青ざめた目で見ていた。
女性は去り、駅員が近づいてきたのでアキヒロは逃げた。
逃げた先は本間ミチルの家だった。彼女が盲目であると云うことに目を付けた。潜むことも可能だろうとの判断だった。
以来アキヒロはミチルの家に居る。
ミチルは元々盲目というわけではなかった。交通事故に遭い、その関係で徐々に目が光を失ったのだった。最近どうも家の中になにか居るような気がすると感じているのだった。

感想

現在単行本・文庫本になっている乙一の本はこれで終了ですかね。これからは新刊待ちという事になりそうです。
本書はなんとも初っぱなから陰鬱な本ですなぁ。あらすじにはそんな感覚が無いように感じますが、著者の本を読むと重力に引きずられるようです。読者の不快感・不安感を煽るのに長けている乙一らしいといえばそうなんですが、人の感情の澱をスパイスにする類の話は精神衛生上ダウナーにギアが入ってるときだけ読みたい感じです。キャラクターはいつもの通り、内省的でぐだぐだと考え抜く弱い人間を描いています。ギアアップして陰ではなく陽を書いて欲しい今日この頃。読んでて疲れますしね。
なお、この本で叙述トリックが使われているのですが、あまり上手く機能してないような気がします。読み返さなければ気付きにくく、違和感を感じたまま話を読み進めてしまいそうです。失敗だったのだろうか?
出版元は『死にぞこないの青』と同じ幻冬舎幻冬舎の本は幻想性よりもリアル路線っぽい気がします。青の時に書きたいものを書くという事だったので、これもまた書きたいものだったんでしょうかね?これがそうならちょっと乙一という作家と私は合わないのかもしれません。でも、十分に楽しめる方向の作品も生み出している作家なので断じる事はちょっと出来かねますが。
ストーリーについては盛り上がる箇所がどうにも感情移入できなかったので、素直には楽しめませんでした。薄氷を踏むようにして相手とのコミュニケーションを成立させる探り合いについては佳いんですけど、前半部分のアクが強すぎてそっちに気が行っちゃうんですよね。結末のうら寂しさ、春が来るというのはわかるんですが、インパクトの面で弱いかなぁと。「伸びやかさと明るいミライが無い」というのはキャラクター二人の世界ですが、じんわりと時間をかけてゆっくり変容を遂げますよーと云われてもピンと来ないですねぇ。
そういえばこれ、「Calling you」と「しあわせは子猫のかたち」と「暗いところで待ち合わせ」で三部作になってるんでしたっけ。うーんちょっとそぐわないような気がする。個人的には期待はずれだったかなぁ。55点。

参考リンク

暗いところで待ち合わせ
乙一
幻冬舎 (2002/04)
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